52話:天道と耀厳
それからは土師の当主が度々息子に敗北した事で自信を無くし、引退。耀厳が当主に。遅れる事3年。天道は親から認められようやく継ぐこととなった。
両者共に30代。早かった。そして天道は結婚もしていたのだ。
最初はとても歩み寄って、情報共有の制度、救援制度を整えて関係の改善の兆しが見えていた。勿論良く思わない人からは命を狙われたがそれでなくとも当時最強。誰も成功などしなかった。
誰もが明るい時代が来る。無駄なプライドの張り合いをしなくて済む。そう思っていた。
天道が43歳の誕生日を迎えるあの時までは
その日も天道は仕事だった。だが、早く切り上げられたので、15:30には家族の元に行けた。自分の持ち家に帰ると息子も娘もいたが、妻だけ見当たらない。連絡も付かない。すぐに耀厳に連絡が来たという。そっちに妻は行ってないかと。耀厳の妻と天道の妻は仲が良かった。子供同士の仲も良好だったからてっきり遊びにでも行ったのかと思ったらしい。
しかし、どんなに確認をしても来たという事実はない。すぐに捜索隊が組まれた。警察への連絡もしたが見つかった時には冷たくなっていた。2人は普段の仕事を放って犯人を捜した。彼女は優しい。恨みを買うとしたらその美貌による女の嫉妬以外ない。強姦される理由など考え付かなかった。犯人は翌日捕まったが理由を聞いて殺意を憶えた。
「そいつらは天道の妻が好みだったらしい。夫がいると拒否され、誘って拒否されを繰り返すうちにホテルに連れ込んだそうだ。そして事が終わって焦った奴らは口封じを」
「殺したくなりますね。それは」
「ああ・・・だが、この時の天道は強かった。僕の妻は泣いてしまってね。それでもあいつは残してくれた子供の為にと今までと変わらずに働いていた。俺もサポートは出来る限りしたんだ。でも、不運は終わらなかったんだよ」
「不運?」
「あいつの子供は生きている。でも、あいつの近くにはもういない。何故だと思う?」
「まさか・・・」
「そう。あいつはね、子供に見限られたんだよ。一番消えてほしくない存在に・・・ね」
「何故?」
「あいつからすれば何が何でも守りたい存在。つまりさ、目の届かない所に行ってほしくないんだよ。言ってしまえば過保護だったんだ。小中学生まではまだ良いさ。高校になってそれってどうだい?」
「恥ずかしいし嫌ですね」
「そう。結果的に嫌な親と思われてしまったんだよ。そうして自分の手を離れてしまった子供達。抜け殻になってしまった人間は何をするか分からなかった。僕はそんな彼が自害をしない為にある手を打った。お目付け役の設置だ。だが、上手くはいかなかった。色んな事があって彼はあんな人を踏みにじる事に何も思わない男になってしまったんだよ」
「何故俺を狙うんでしょうかね?」
「君はかつての天道や私の写し鏡みたいな存在だ。そんな自分を否定したいんだよ、きっとな。さて、色々話してしまったね。後は時間までゆっくりすると良いよ」
そう言って耀厳は離れる。どうやら彼も地獄を見てしまった人間らしい。それでも、俺と彼は違うだろう。俺はいきなり異世界に飛ばされて過酷な環境におかれても笑いあえる仲間がいた。
彼にはいなかった。いや、強いて言うならいたのに頼れなかった。その違い。気持ちはよく分かる。大切だと思う存在を失くす気持ちは。俺も仲良くなった冒険者、動物、そして弟みたいな存在だった男の子。色々な物を失くしている。でも、俺は前を向いた。
天道を弱いというつもりはない。多分強く生きてきた筈だ。だからこそ、弱くなった時に立ち直れないんだ。俺はそう思う。
だからどうしたとはなるんだが、そいつの企みの全てを壊してやれば大人しく話は聞いてくれるだろう。そっから先は友達に任せればいい。
自然と手に魔力を俺は込めた。
時は少し遡る。蒼矢が警察に連れていかれて少しした頃だった。
「亜矢、落ち着いて聞いて?桐生君が警察の人に連れていかれたらしいわ」
「え?何があったの?」
「詳しくは知らない。けど、私が今集めた情報では暴行と傷害で捕まったそうよ」
「桐生君・・・今度は何やったのよ。逮捕されちゃうの?」
「分からないわ。でも、起訴されたら終わりね。彼が無実、正当防衛とか何かの証拠があれば良いんだけど、まだどんな状況での暴行かも分からなくて」
「そんな・・・」
東雲亜矢の思考は定まっていなかった。ずっと何故?なんで?という言葉が頭の中を駆け巡っていたからである。
「亜矢、今回彼が本当に罪を犯したなら私は彼との婚姻を認めないわ。社長を継ぎたいあなたを支える事なんて出来ないから。彼と結ばれたいなら最悪縁を切ってもらう可能性も頭に入れといてね。私は情報収集に戻るわ」
部屋を出ていく母親。亜矢はメイドに声をかけられながら部屋に戻る。
本当は好き。でも、糾弾すべきでない時に糾弾し傷つけた自分が一緒にいて良いのだろうか。この問いにずっと悩まされていた。辛うじて話す事は出来ても、詩歌のように笑顔が見える訳では無い。
私は彼に相応しいのだろうかと考えていた最中のこのニュースである。
すぐさま蒼矢に電話をかけようとするも、手が止まる。なんて言えば良い?私から電話を貰って嬉しい?そもそも出れるのか。
結局かけられなかった。そしてこの日をまた彼女は後悔するのだ。
結局、正当防衛と判断され釈放されたという一報で胸を撫でおろしたのだが、ここで自分の不甲斐なさを痛感する。結局何も出来なかった。好きな人が無実の罪で捕まってるのに何も出来なかった。
この日の夜、熱を出してしまうのだが、母親から言われた一言は熱のある人間にかけられるような言葉では無かった。
「亜矢、あなたはね。本当に何も出来ないのよ。電話する事も、抗議しに行くことも、何も出来やしない。私はね彼を狙ってるわけじゃないのよ?情報を集めてそこから先はあなたの行動次第。恋を甘く見すぎよ」
一人になった部屋で泣く。そんなことは今日知った。でも、出来ないものは仕方ない。そんな自分が嫌でまた泣く。そんな自分が嫌いになるのだ。
「綾菜。亜矢はどうだい?」
「そうね・・・少なくとも組織の長を務められる程の器じゃないわ」
「そうかい。ま、君みたいになれってのは無理があるとは思うけどね」
「馬鹿を言わないで?あなたが甘やかすからこうなるんです。でも、なんだか引っかかるのよね」
「引っかかるって?」
「昼間の件よ。話したでしょ?こんな杜撰な証拠集めで連行なんて・・・まるでどこかから圧力でもかけられたかのような杜撰さよ」
「彼が国のお偉いさんに喧嘩でも売った。そう見ているのか?」
「ええ。正直首は突っ込みたくないけど娘の為だからなんとかしたいのだけれど」
「ちなみにだが、桐生君は調べたけどね、高速道路でどこかへ行ったようだ。御殿場を過ぎたところまでは追えたよ」
「随分遠いわね」
「綾菜、言っとくよ。今回の件は手を引くべきだ。ちゃんと彼が帰ってきてから亜矢を接触させるように。良いね?」
「それが一番かもね。それより今日はこの後予定空いてる?」
「ああ。眠気も無いし、構わないよ」
二人はワインを持って寝室に入っていった。




