42話:リッタの心
守るなんて言ってしまった手前、やれることはやっておこう。まずはこの豪って奴。知るべきことはただ一つ。相楽真綾という女性をどう思ってるか。それ次第で相楽がどれだけ危険な相手と多くの時間いなきゃいけないかが分かる。場合によっては奇襲の為に式神に似ている傀儡魔って向こうでは呼ばれてるやつを付けるしかない。
ここが勝負。3週間後の共同戦線まで何もないなら楽なんだが、そんな常識を持ち合わせた相手じゃないのは身を以て知ってる。大森 豪。こいつという人間を推し量らないと。
「やあ、お待たせ。何話してたんだい?真綾」
「私、この学校の授業ほとんど受けないで多めの宿題課されちゃったから厳しそうだったら手伝ってもらえないっていうお願いをしてたの」
「なるほど。それは俺より桐生君が適役だろう。それでも分かんなかったら聞くんだよ?」
「分かったわ」
「なあ、一個聞いて良いか?」
「ん?なんだい?」
「最初会った時さ、是孝様って言ってただろ。彼は足を洗ったと聞いている。それでも様を付けるのか?」
「そうだね。是孝様はたとえいなくなったとしても僕からすれば偉大な存在だよ。それに、影響力は消えた訳じゃない。なら、様を付けるのが安牌じゃないか?」
「偉大・・・ね。やった事知ってて偉大なのか?」
「確かに人としては許されないだろう。それでも何年も土御門家の中で戦ってこられたんだ。偉大ではないかい?」
「・・・そういう考え方もあるか。悪い。ありがとう」
「構わないよ」
この時俺は確信した。こいつも生まれ変わったんだと。
そして、今のうちから対策始めないと手遅れになると。
相楽には別れる間際に傀儡魔を付けてきた。今回は攻撃を喰らったらこっちに伝えてくれるようにしてある。いつでも連絡に対応できるようにする為だ。
問題は相楽を助けたとして彼女をどこに匿うか。勿論の事ながら発案者である彼女に危害を加え逃げ出すなんて状況を彼らが作り出すなら共同戦線は無効だ。例え日本の危機のような怪物が仮に現れたとて、俺は自分のテリトリーに入ってこなければ撃破する義務は俺には無い。まあ、こんな事すら思いつかない程のアホじゃないだろうから八岐大蛇騒動は俺をおびき出すための作戦だろう。
そうなった時の為に俺はリッタを自室に呼んだ。
「なるほど・・・マスターのご友人が助けを求めた場合にその世話をと。勿論引き受けます。ですが・・・女性なのですね」
「あれ?男よりは圧倒的にマシだと思うんだけど?」
「そうですね。でも、そうじゃないですよ・・・まあ良いです。それで、彼女を保護したのちはどこへ?」
「詩歌が持つ異空間とも思ったんだが、彼女の能力をわざわざバラす訳にもいかない。そこでなんだが、明日小屋を人目に付かないであろう場所に作ってくる。そこで少しの間頼むわ」
「宇宙でしたっけ?そこから世界を監視する物があると聞きました。それからも逃れられますか?」
「ああ。何せ、人が消えてから4,50年経ってる無人島だからな。木が生い茂ってるしそこに作ってくればいいと思ったんだが」
「マスター、立派な不法侵入では・・・」
「やかましいわ」
法律を無視してくる危険集団に対抗するには必要な分だけ法律を破るしかない。うん。俺は正しい。あ、良い子のみんなは法律とかルールは守るんだよ?説得力無い?あれれ?おっかしいな
「そうですね・・・マスターは私の今の実力をどの程度と思われていますか?」
「そうだな・・・ディールとやりあった時には既にヴィーラ並みに強かったんだから・・・こっちだと300人相手にして余裕か?」
「そうですか・・・あれから成長もしています。今の私はあのキザな男。ヴィーラより強いです。まあ、これでも使い魔の中では最弱ですが・・・」
「・・・お前ら化け物すぎないか?」
「そうですね。私達が結束しマスターとやりあったとしたら、勝とうと思ってないマスターなら余裕で勝てるでしょう。でも、マスターが勝つと思って戦い始めたら無理です。勝てません。あの状態のマスターとやりあえる魔王ってどれだけ強いんですか・・・」
「まあ、こう言っちゃなんだがあいつが穏健派じゃなかったら人類負けてたかもな」
「ですね・・・雑談はここまでにしておきましょう。ひとまず相楽真綾様のお世話の件はお任せください」
「頼んだぜ」
「はい」
この一幕から数時間後、リッタはハダルと共にとある喫茶店にいた。
「急に呼んじゃってごめんね。なんだか頼まれてたようだけど」
「それは気にしなくても大丈夫です。それで?何を言いたいの?」
「普段はご主人様呼びだけど今はマスターで良いか。率直に聞く。君は本当にマスター、桐生蒼矢が好きなのかい?」
「うん」
「ふむ。一つ言うよ?本当にマスターと添い遂げたいなら君には足りない物が多すぎる。まず押しが全然ないよね。マスター自体が相当鈍いけど、これだけライバルがいる中じゃ君はまず選ばれない。一応これでも男だからね、言っとくよ。君がマスターを敬愛し、恋愛感情を抱いてるのは知ってる。でも、それが伝わってないんだよ。正確には他の使い魔と変わらないように大事としか思われてないんだ。別に体を張れって訳じゃない。君が夢魔でありながら苦手なのは知ってる。だから別の所さ」
「余計なお世話ですね・・・でも聞きましょう。その別の所とは?」
「単刀直入に言うなら君の料理とか家事スキルだよ。特に君の料理は世界の一流レストランで即日総料理長が務まるだろう。あの時のシチューも時間が無かったからあれで終わらせたんだろ?」
「勿論です。ですが料理ですか・・・マスターの家のキッチンに入っていける状況ではありません。勿論マスターの母上や姉上が良いと言うのであれば作りますが」
「まあ、あくまで例だから。つまりね?僕達の中でもリッタと一緒にいたいと思わせなきゃダメなんだよ。知ってるだろ?ライラ王女もライバルなんだ。それにこっちの世界でマスターと結ばれるなら詩歌ちゃん以外は反対だ。みんな人の弱さという物を理解してない。中には理解していながらそれを棚上げして人を責めてる大馬鹿もいるんだ。恐らくだがマスターはいつか生きる事に疲れるだろう。成績は最上位を維持しながら色んな問題解決に奔走していらっしゃる。その時に頼れる存在、頼って良い存在になれるなら勝ち目は出てくる」
「ハダル、あなたマスターに何をするつもりですか!」
「あ、ごめん。確かに今のだと恰も僕がその状況を作り出すみたいに聞こえたか失礼。実際問題として、土御門がこの後何をしてくるのか想像が付かない。監視にしてもビルの屋上からではなく人家の屋根からするような集団だ。この世界にはただの悪意だけじゃなく相手の人生を終わらせようとする悪意も多い。初めて聞いたよ。権力者だからって強姦の末に心に傷を負わせといて権力者の子供だから無罪放免で生き生きしてるなんて。向こうなら無罪の代わりに地位は剥奪だ。出る杭は打たれてしまう。なら打たれた時にこの世界で誰が支えるんだい?」
「それは・・・」
「そう。影から彼を見守れて彼が無罪ならそう信じてあげられる我々だ。マスターの事を完全に利用する形にはなる。けどね、その時に壊れてしまうよりはマシだ」
「それはそうですけど・・・」
「僕の勘は当たりやすい。8割は当たる。マスターに災いが降りかかる。この勘が2割に入ってくれると良いが・・・」
「分かりました。マスターの為にという名目でグイグイ行くことにします!」
「うん。宜しい。しかし、本当に喫茶店のココアって美味しいな。ここで働いてみようかな」
そんなハダルの顔は仮面でも付けてるかのように何を考えているのか分からない顔だった。




