37話:旅行計画と不穏な気配
そろそろ3章になります。主に夏休みの事中心になります。
さて、シチューを平らげて今、母さん達から話を聞いている。
「蒼矢・・・」
「はい・・・」
「・・・旅行に行きましょう」
「ん?・・・なんて?」
「いや、だから旅行に行こうって」
「あのシリアスな雰囲気は何!?答えははいだけども」
「いや、なんかこういう方が面白いかなーって」
「いや、なにか重大事件でも起こったのかと思ったじゃん」
「それで?行くとしたらどこが良い?」
「そうだなぁ・・・俺としては世界遺産が多いから京都とか奈良かな・・・」
「ん?なんだって?海水浴に行きたい?そっかそっか。なら良い所が」
「いや、待って」
「この水晶浜海水浴場ってとこ」
「待ちやがれ。一旦落ち着いて話そう。まず、何故人の話を聞かない?」
「え?海水浴に行きた~いって言ってなかった?」
「ひとっことも言ってねえわ!」
「まあまあ、良いじゃない。うら若き乙女の水着が見放題なんだしさ」
「まあ、そうなんだろうけどさ・・・」
確かに、魅力的だろう。詩歌も姉貴もスタイルは良い方だ。でも、それに何か思うかと言われれば、スタイル良いね。綺麗だね。くらいだろう。それでドキッとするとかは考えられない。詩歌には申し訳ないが、師匠のあのグラマラスな体と修行中ずっといたし、俺の事を親身に考えてくれた師匠がいるから・・・ね。
結果、西の方に行く事になったんだが、グロニスに西の方に偵察に行ってもらっている。何故かは知らないが、嫌な予感がするのだ。自然災害ではなくろくでもない何かがいるような気がしてならない。それに、大江山にも行ってみろと言われたし、余裕があればどうにかして出向いてみるのもありだろう。
学校もあと少しで夏休みに入るからやりたいこともある。向こうでは魔法が主流だが、こっちでは魔ではなく呪による攻撃手法が一般的なように思える。今まで、そう言った術式を全て打ち消す形で対抗してきたが、これから先は呪術を理解して、それに沿った技も編み出していくべきだろう。幸い、旅行までは3週間ある。時間はそこそこにあるからどうにか出来るはずだ。その為にもどうにか相楽、堂本に教えを乞う必要がある。どう切り出すかを考え始めるのだった。
「私達の戦い方を知りたい・・・ですか?」
「桐生蒼矢。貴殿の強さを私達はよく知っている。だから言わせてもらおう。それ以上の力を求めてどうする気だ?」
「新しく攻勢の技を作る気は無い。ただ、俺はこの国の呪術をもっと知る必要があるんだ。俺の技は独学でな。凸守だっけか?あいつに勝てるだけの技量は俺にはまだ無いから」
「ど、独学・・・それであの強さって・・・」
「自力であの強さを手に入れた其方に我々の術を教えてしまって良いのだろうか」
「ちなみにお聞きします。何のために力を求めるんですか?」
「休みの期間中に旅行に行くんだが、そっちの方面で嫌な感じがしてな?その対策だ」
「どっちの方角だ?」
「ん?西だけど」
「それって・・・」
「間違いないだろう・・・」
「どうした?」
「桐生君、いえ、桐生蒼矢さん。一つだけ条件があります。私達と共同戦線を貼っていただけるという確約をしていただけるなら喜んでお教えします」
「は?ちょっとまて。共同戦線?」
「はい。実は、私の属する土御門と天の属する土師がある怪物を封印する為に共同戦線を敷くのです。桐生君が感じた嫌な感じはそれが原因かと」
「共同戦線?別に、プライベートな所ある程度自由で、一緒に居合わせたら共に戦おうってんなら別に良いぜ。それにしても、わざわざそんな厳戒態勢って一体誰に喧嘩売る気だ?」
「太古の時代に若い女性を喰らい、かの素戔嗚尊により討伐された神話時代のバケモノ、八岐大蛇です。既に何回か存在を目視されています」
「へぇ、八岐大蛇ね。・・・・・・・・・は!?ヤマタノオロチ?国難じゃん。いや、世界的な危機じゃん!そんなのバケモンクラスに強い奴しか無理じゃない?それこそスサノオさんみたいな」
「其方も十分バケモノだ。其方ならどうにかなりそうではあるが・・・」
「私とそろそろ前線に復帰する私の彼氏でお教えします。ですので、助力をお願いしたいのです」
「私も力になろう」
「ちなみにその彼氏さんってのはいつ戻るんだ?」
「2日後の予定です。なので3日後に訓練場を借りておくのでそこでいかがでしょうか」
「了解だ。宜しくな、2人とも」
その日の夜。ネトゲが終わって寝るかと思っていた時の事であった。
「マスター、悪い待たせた。マスターの言う通り不気味なのはいるようだぜ」
「グロニスお疲れ。夜食の肉まん分けるよ。で、どうだった?」
「お、助かるわ。一言で言うなら、不気味だし不穏な空気は辺り一帯に広がってるけどかと言って何かしらの動きを見せるって感じでもなかった。仮に何かあったところで私よりかは圧倒的に弱いしマスターなら難なく倒せる相手だろうよ」
「ちょっと待て。八本の顔を持った尻尾の怪物じゃなかった?」
「それは分からないな。少なくとも視認は出来なかった。あくまで概念的にそこにあるだろう事は分かるけど全貌を拝むことは出来ない。ちなみにその怪物ってのは?」
「あー、こっちの神話なんだけど」
説明を終えると渋い顔をした。
「なあ、マスター。こんな聞き方をするのはいかがなものかと思うけど、私の目を信じられるか?」
「それは勿論だよ」
「なら、進言させてもらう。そいつらはどう考えてもマスターをおびき出す為にそんなデマを言っていると思うぜ?第一考えてみてくれ。そんな神話上のバケモノが何人にも目撃されてるってのはそれこそ国家の非常事態だ。人間とかじゃ想像もつかないような強者、猛者達が神話上の英雄として奉られる。そいつが英雄たる所以を目撃したとしたらそんな悠長にしてられるかよ。ただ聞く限りだとその女たちが嘘を付いているとは思えない。そいつらはお前の誘引剤として真実を伝えられていないだけだと思うがな」
「なるほど・・・一理あるかもしれない。俺が甘かったというか腑抜けたと言うのかな。安易に人を信じすぎたか。ごめんな、頼りない所を見せちまって」
気を引き締めないと。すっかり忘れていた。土御門 是孝だったっけか。あいつを退けて終わりと思っていたが考えてみればあいつよりも上の立場のおっさんがいるはずだ。そいつもろくでなしであり俺の敵と見るべき。それに、凸守 倭。何考えてるかよく分かんないってのも怖いがそれ以上に俺ですら気付くのに遅れた隠密術の持ち主。気抜いてる暇じゃないよな。
そう考えてるとグロニスが抱きしめてきた。
「お、おいグロニス?」
「マスターの使い魔としては新参でも結構一緒にいてマスターを見てたから分かるんだよ。マスターは頑張ってた。7年くらい前だっけか?異世界に喚ばれてずっと戦ってきた。こっちの同い年は今のマスター程頑張ってないように見える。十分だよ。ハダルからも聞いてる、成績トップクラスなんだって?別の方面でもちゃんと頑張ってる。それに、私達だって頼ってもらえないと悲しいんだよ。弱い所も教えてほしいんだ。これでも60年は生きてるんだからサポートは出来ると思うぜ」
「弱い所のある主人なんて嫌なんじゃないの?」
「嫌か・・・それを嫌と思うんならそれは打算ありな奴じゃないかな。一緒にいたい、この人を支えたい。そう思ってうちらは使い魔になった。ハダルとベラは元々地位があったのに誰かの下に就くことを決めた。リッタはあまり夜が得意じゃない夢魔だから必要とされてなかっただろ?でも、その弱さを受け入れてあげたのがマスターだ。私だって、親友を殺されて行き場を失った力を振り回すだけだった。そんな弱さと真っ向からぶつかって受け止めてくれたのはマスターだけだったんだよ。私達は救われたんだ。だから今度は、私達がマスターの支えになってやる」
「そっか、そうだったね。ごめん。ちょっと泣きそう」
「良いよ。私の胸で良ければ貸すさ」
この日、俺はまた泣いた。
「泣き疲れて寝ちまったか。こういう子供っぽい所は向こうじゃあんまり見れなかったから新鮮だな」
まるで母親が眠った我が子を抱きしめるかのようだった。
「この世界もあっちも悪意の量は変わらないよ。ただ違うのはマスターを取り巻く環境だ。王女を擁する世界を救う集団に真っ向から悪意をぶつけるやつが少ないだけ。こっちはその後ろ盾が無いからな。ただのガキだと思うんだろう。生きにくいよな。でも君は頑張るんだろ?なら手伝うから一緒に生きてこうぜ」
そう言うと、ベッドに蒼矢を運んで一緒に眠り始めたのだった。




