36話:心は分からない
球技大会が無事終わり、優勝してから時は経ち、気付けば夏休みまで1週間となっていた。
東雲はこちらの顔色を窺うように話しかけてくるし、伊藤は未だに球技大会の時の事で褒めてくるし、姉貴もどこかよそよそしい感じがする。まあ、姉貴には過去の事を掘り返したんだから仕方ないと言えば仕方ないけど。
正直、面倒くさい。東雲も姉貴も何かあるなら言ってほしいし、伊藤もそろそろ別ネタ出してきませんかね。そんな頃だ。俺が買い出しを頼まれたので、少し遅めに帰ると姉貴、母さん、詩歌の3人でなにやらコソコソ話している。
「ただいま。どうしたの?」
「あ、あら蒼矢おかえりなさい。ちょっと私達お話してたのよ。ねー」
「ねー」
「ですねー」
「いや、見てりゃ分かるけど・・・何話してたん?」
「それ教える前に、蒼矢はこの夏何か予定ある?」
「いや?今のところは無いけど」
「そうよね!彼女もいないあんたが予定ある訳ないものね」
・・・母親、この人は母親。うん大丈夫。殺意なんてないない。
「なら良いわ。私達ちょっと出かけてくるから、シチューは作れるよね?」
「それは勿論だが・・・いや、なんのはn」
「よーし、それじゃ行くわよ~」
聞けないまんま家に一人取り残された。なんだろう・・・すごーく惨めだ。聞いたのに何も答えてくれないしこれがセンチな気分になるというやつか。異世界でもたまにコソコソ話でキャーとか言っててもその内容は一度も教えてもらえてない。あれ?俺ってそんな人望無いのかな。あ、そこに包丁があ
「主人よ、それは笑えんぞ?容易く自決などしようと思うな」
「そうですよご主人様。ご家族に見捨てられようと私達はあなたと共におりますから」
「見捨てられた前提なのね・・・でもありがとうな二人共」
「で、話は聞いてたけど料理するらしいな。手伝おうか?」
「ありがたいけど、俺一人でやるよ」
「ご主人様、提案ではございますが、リッタを呼ばれてみては?彼女、私とベラはよく呼ばれるのに、何故リッタは・・・と負のエネルギーに満ちておりますので。折角ですからグロニスも呼んで使い魔全員呼べるかも同時に確認してみてはいかがかと」
「この場に全員か・・・空き巣キラーEXだな。よし、やってみるか」
召喚をしてみる。すると
「よ・う・や・くお呼びでございますねマ・ス・タ・ー」
「ん、あぁー。やっと暇から解放されるわ。久しぶりね、マスター」
「グロニスお久~。それとリッタはごめん。今回は料理だから手伝ってもらおうと」
「それもハダルに提案を受けたからですよね?」
「はい」
「つまり、マスターは私を頼ろうという考えは頭の隅にも思いつかなかったと」
「いや、シチューは自分で出来るし。まあ・・・はい」
「素直すぎです!傷つきました!」
「ほんっとうに、申し訳ありませんでしたぁ~~」
「これが魔王ディールがお認めになったお人の姿なのでしょうか・・・」
「ハダル、私もディール様の所にいたから分かるけど、ちゃんと部下に謝れる上司って言うのは数少ないわ。誇れることよ。でも、威厳が全く無いわね・・・この人本当に魔王と軽く張り合ってたのかしら・・・」
「主人が、年相応に戻ってきたと喜ぶべきなのか・・・ベラは心配になってきたぞ」
蒼矢がお叱りを受ける事20分。
「まあ良いです。折角マスターのお傍にいられるので精一杯お手伝いいたします」
「あ、ありがたきお言葉・・・」
やっと解放される。
「では、材料の確認をするとしましょう。買ってきた物を見せて下さい」
袋の中身を一通り確認し終えると
「しちゅー?という物は良く知りませんでしたが、基本的な作り方を見る限りこの材料で大丈夫そうですね。では、下処理から始めるので切っていってください」
「サーイエッサー!」
蒼矢とリッタが共同作業を始める。
ベラ、ハダル、グロニスは見ながら呟いていた。
「なあ、ハダル」
「なんです?ベラ」
「あの二人めっちゃ絵になってないか?」
「理想的夫婦で良いのでは?」
「詩歌の勝ち目がまた一つ消えたかと思うと・・・な」
「あー、最近料理頑張ってますからね。どちらも桐生蒼矢という人を愛する気持ちは本当なんですがねぇ」
「二人共、しいかとは誰だ?」
「あー、この世界に生きる数少ない妖狐の一人です。健気でとてもいい子なのですよ」
「そうなのだな。一目見てみたいものだ」
「リッタも詩歌も結構分かりやすいと思うんですがね・・・」
「そして最大の問題はマスターがそれに気づいてない事だろうな」
「本当それに尽きるな。まあ確かに主人の周りには主人の事を大切にしていた女性は母親くらいしかいなかったようだしな」
「私達はどうするのが最善の選択なんだろうな」
「この世界では妻を何人もは無理なのか?」
「そうですね。一夫一妻制ですよ」
「頭が付いていかなそうだ・・・」
楽しそうな蒼矢とは裏腹に不安な気持ちだけが3人に渦巻いていた。
「あら、美味しいわねこのシチュー。どう作ったの?」
「いや、市販のルー使って、下処理をしたんだけど」
『リッタの手際良すぎて俺が戦力外だったけどな』
『ふふっ、一緒にお料理をしてくださる事に意味があります』
リッタとは念話でコミュニケーション中である。
「それにこの濃厚さ、私が普段作るのより美味しいわね。何入れたの?」
『言って良い?』
『お母様が正解に辿り着かれたら明かしていただいて構いません』
「それは自分で当ててみ?」
「なにかしらね・・・だいたい隠し味だと味噌が相場だけど」
「あ、違うな」
「ふーん。分からないわね・・・2人は分かる?」
「私が分かるとでも?」
「うーん・・・この感じ、チーズかな?」
「お、正解。少しだけど入れてみたんだ」
「詩歌ちゃん凄い!」
「くっ、我が妹やりおる」
『凄い。料理をよくなさる方が当てるかもとは思いましたが、詩歌さんの舌は肥えているようですね』
『リッタが褒めるなんてな、詩歌は凄いんだな』
リッタの知恵のお陰でシチューは大好評だった。
「なあ、みんな。話がある」
ここはとある異世界。蒼矢の使い魔たちが住んでいる家。かつて、この世界で蒼矢が所有していた家を使っているのである。
「グロニス?」
「一体どうしました?」
「マスターの事ですか?」
「ああ、そうだ。ベラ、ハダル。お前ら気付かなかったのか」
「?」 「何にです?」
「マスターはずっと向こうの世界の話をしていただろ?楽しそうに。でも、いざ向こうの世界に戻ったマスターは話していた時ほど楽しそうではなかった。おかしいとは思わなかったのか?私達と話している時の方が数倍楽しそうだったのだが・・・」
「確かに・・・」
「言われてみればそうですね・・・」
「リッタはどう思う?」
「そうですね・・・確かに、料理をしていた時、とても楽しそうなお顔をされていました。でも、ご家族とお話されている時は笑顔が消えていたような気も・・・」
一抹の不安を抱えるのだった。
使い魔全員登場しました。
3章では使い魔たちの実力が明らかになるかも?




