35話:勝利
少年漫画みたいになっちゃいました。
「すげぇ・・・」 「見えない・・・」 「なんでこんな所で全国大会開いてんだよ・・・」
そんな感想が呟かれる光景が眼前では繰り広げられていた。
1年はさっきまでのキレは無くなったようだが、容易く南雲に追いつき、南雲はコートの端を狙って打ち続けている。南雲の取る戦法はトップランカークラスしか対応出来る者がいないので、桐生がそれを返し、スマッシュも見舞い合う。もはや全国大会というに相応しい戦いだ。一般人からすればハイレベルすぎて付いていけていないのが当たり前だ。
点数は4-2で蒼矢がリードしているが、一度のミスで点を取られる南雲との試合では拮抗していると言って良かった。
そして突如として均衡は崩れる。まるで、蒼矢の弱点を看破したかのように、南雲が点を取り始めた。
気付けば、7-7で並ばれた。
「桐生君。人生の先輩としてアドバイス。自分でこの道を進むって決めたんなら悩むな。間違いだったかもなんて思っちゃいけない。それが正しかったって自分でしていくんだよ。これが出来なきゃ君は勝てるはずの僕には勝てない。恐らくだが君は知ってるだろう?覚悟を決めた人間の強さって物を。今こそその強さを発揮する時だ!」
「・・・そうっすね」
俺は嫉妬した。この人は恐らく、頑張ったことを認めてくれる存在が身近にいたんだ。だから、自分の道を迷わず進めた。でも、俺は違う。ライラ達に会うまでは認めてなんてもらえなかった。テストだってちゃんと取ってた。学年7位を取ったこともあった。でも、父親は単身赴任中だし、母親は姉貴でも出来たんだからあんたもやれば出来る子なんだと。姉は、5位の私に比べればまだだと。つまるところ、俺はあっちの世界では強かったのに、こっちでは弱くなったんだ。いや、あっちでは隠せていた弱さがこっちでは明るみに出ていたというだけか。
そんな事を考えているといつの間にか4点も差が付けられていた。
「桐生君、君は不完全な強さをしているんだね。環境の問題は勿論あるだろうけど、君自身の問題もある。君は自分を一度見つめ直すべきだ。そうすれば強くなれるよ。今回は僕の勝ちだ」
勝ち?元から負け組だった俺に勝つなんて簡単じゃね?勇者をしていた時は守りたい物もあった。でも帰ってきた今は、詩歌を育て上げたし、能力者達も退けた。詩歌はもう一人で生きていけるじゃないか。俺が本気でやる事なんてもう無いんじゃないか?戦う?もう疲れたよ。
「この戦いの旅が終わったら私達、自分の為に生きても良いんじゃないかな?って思うんです」
あれ?誰の言葉だっけ・・・確か、根暗でぶっきらぼうだけど、根は真面目で仲間の事を凄く考えてくれるあいつの・・・
刹那、南雲の打ったスマッシュがスマッシュで返されたかのように南雲のコートに落ちた。
「は?桐生君、君何をした?」
「先輩、礼を言います。俺は忘れちゃいけない事を忘れてました。俺はクソみたいに雑魚な人間。そんな俺を最強にしてくれたのは仲間なのに、その仲間を忘れてちゃ、そりゃ全力なんて出せませんよね」
「何を言ってるんだい?」
「ありがとう、アリシア。君のお陰で俺はまだ戦える。今度こそ、自分の為に戦うよ。先輩、この世界で最底辺の俺の力を見せてあげます。点差は9か。ま、なんとかなるだろ」
「目がさっきまでとは別人じゃないか。良いよ、見せてくれその最強とやらを」
そこからは破竹の勢い。全国2位に上り詰めた実力者が1点取るのに7点を取られるという展開になった。気付けば22-19と逆転されていた。
「眠れる獅子じゃないか・・・ハァ、動きもさっきまでとは段違いハァ、じゃないか。ここまで息が切れるのは大会の時以来か・・・ハァ」
「先輩、さっき覚悟を決めた人間の事を言ってましたね。それが今の俺です。次あった時に精一杯生きたって言えるようにって腹を決めたんですよ」
「面白い・・・面白すぎる!!まさか、進化するとは!こんな機会滅多にない。僕も最後まで全力で!」
ゲームセット。25-20。
この瞬間、蒼矢の優勝が確定した。詩歌達にもみくちゃにされてフラフラの状況で南雲の所へ向かう。
「先輩は言いましたね。俺は不完全だって。先輩の強さは完成されているって事ですよね?だから勝てました。俺は完成されてない、まだ伸びしろがある事を教えてくれました。ありがとうございました」
そう言って、コートから去る。
南雲は悟った。決勝の時と同じなんだと。心のどこかでは自分が最強だと思っていた。でも、上がいる。その驕りが2位という結果。みんなが凄いと言ってくれるから忘れてた。自分は、最強では無いんだと言う事を。
「これは完敗だ。負けたな」
だが、悪い気はしない。自分にはまだ次の大会がある。それに向けてこれを糧にしていこう。そう誓ったのだった。




