33話:勝手に期待するのが悪い
翌日、球技大会のメンバー決めをしていたのだが、俺は補欠になる事に成功した。
驚いたのは相楽がやる気に満ちていた事。対抗するように堂本が手をあげて、詩歌もやると言い出した。
男子はみんな意欲が低く、ほぼ押し付け合い。俺は妥協案として補欠を選んだ。
そして当日。
ここで俺の予想だにしない事が起こる。一番やりたいと言っていた男子が家の事情で休むと言い出したのだ。
つまり、次に白羽の矢が立つのは・・・
「という訳で、桐生君宜しくね」
・・・教室の隅で「不幸だ~~~~」と叫びたい。
だって嫌じゃん。こんなイベント。
勝手に応援されて、期待されて、それに応えられないと失望、落胆の声が聞こえてくる。それが嫌でもある。
しかも、初戦の相手3年のバド部副将ですかい・・・そこはかとなく面倒くさいと感じてしまうのは俺が高校生にしては燃えていなさすぎるのだろうか?
本気の反射神経と動きをするとただの蹂躙になるのである程度は手加減しようかな。
すると、相手から声をかけられる。
「君の事は知ってるよ。1年の狂犬君?」
「きょ、狂犬ですか?」
「そうだよ。色々騒がせているし、誰かれ構わず突っかかっていく。狂犬って呼ばれてるのさ」
・・・こいつ、頭ミックスジュースなのか?
東雲とかも大概だがわざわざこんな衆人環視で言う?
「否定はしませんが、それこの場で言う必要あります?」
「君みたいな生意気な後輩を黙らせるのは先輩の仕事なんだよ」
あくまで自分は格上なんすかね。この人。
そんなに年齢って大事か?無駄に年月だけ生きてる人間より、短くても真剣に生きてきた人の方が話を聞く価値あるんだよなぁ
なら俺が取るべき手は
「それはすみませんでした。2年程人生経験の足りないこの後輩にご鞭撻をよろしくお願いいたします」
「そ、そうか。それは殊勝な心掛けだ」
やはりな。こいつは雑魚と言うべきだろう。
「そろそろ始めるが、準備は良いか?」
「はい」
「良いですよ」
最近よく東雲がこっちをチラチラ見てくるけど何がしたいんだろうなと気を逸らしてると、
ピッと笛が鳴らされる。
ほとんど間髪入れずにサーブを入れる。ショートサービスか。そもそも論だけど、人に恥をかかせるやつにスポーツマンシップは無いだろう。なら、スポーツはしなくて良い。
「チッ、ネット際かよ。運のいい奴め」
運が良い・・・ね。これがもし、百発百中ならどうするんだろうな。
今回は25点マッチ。17点目までを全てネット際に落として点を取っていたらいきなり声がかかる。
「凄い技術だね。でも君さ、スポーツやる気あるかい?そんなのばかり狙って楽しい?僕は君に失望したよ」
こいつ何言ってんだ?先に人を貶めてスポーツマンをやめたのはお前だろ?そんな奴、しかも自分より格下なのに格上だと思ってるゴミに何故気を遣わなきゃならない?
取り巻き達は
「本当ああいう子嫌い」 「なんかムカつく」
とこっちを非難しているが、一部では
「あいつ3年の癖に負けそうになったらなんか言ってんだが。失望はお前だよ」
と、空気が悪くなっていた。このままではマズイ。なんで俺が年上の尻拭いをしなきゃならんのか分からないけどここは穏便に。
「申し訳ございません。先輩の皆々様。心無い言葉を言われ、やる気になれませんでした。先輩方が望まれるようなのでその通りにします。それで良いですか?」
「ほう・・・やっと先輩を立てる事を覚えたか。だが、言い方が気に食わない。もっと教えてやる必要があるな」
まったく・・・こっちが下手に出てみれば調子に乗る。異世界でもよくあった。こっちが二十歳以下だと舐めてかかる奴が多いのだ。一刻でも早く終わらせないとな、こんなクソ試合。
サーブはこっちだ。現在ラブゲームの真っ最中。なら、ラリーで翻弄した所にスマッシュの応酬でもしてやるか。
さて、処刑の時間だ。
何が起こっているのか、正確に理解できたものはほとんどいなかった。バドミントン部部長、詩歌、真綾、天以外は気付いた時にはゲームセットになっていたように思えた。
18点から20点まではラリーで殴りあっているかのような激しい攻防戦だったが、それを過ぎると、蒼矢が早い段階で弾丸かのようなスマッシュを正確に打ち込んでいくという技量の差を見せつけるかの如く点を稼いでいった。
お陰で、予定時間の10分も早く決着が付いたのである。項垂れる相手を横目に蒼矢は呟く。
「本当・・・つまんねえ。スポーツってこんなゴミなのかよ」
その言葉に審判、教師も戦慄する。勿論、3年が公衆の面前であんな事を言ったのが悪い。でも、それでも、その発言は別の3年の心象には良い風には映らないだろう。まるで、他人など気にしていないかのような目をしていた。
蒼矢は全国で通用するようなラリーとスマッシュをただただ打ち込んでいただけなのだが、あまりの豪速球だった為に、誰も分からなかったのである。
そんな空気に一石を投じるかの如く声を発した男がいた。
「良いスマッシュ打つんだな君は。そんなにつまらなかったならバド部部長の僕とやってみないかい?」
「え?」
「な、南雲!」
「しっかし派手にやられたね大澤。相手を年下だからって格下だと見たんだろ。スポーツやる気云々の前に、お前がきちんとスポーツマンとして手本見せなきゃやる気失せちゃうよ。そこについてはお前は謝らないの?」
「そ、それは・・・すまなかった。この通りだ」
不服なのが丸分かりな程に嫌悪感が顔に出ている。でも、部長はまともかもな。こんなスポーツマンシップを無視するようなやり方、リークでもされたら炎上もんだろう。少なくても校内では悪い噂しか立たない。だからこそ、主将が出てくる事で、相殺に持っていきたいのだろう。バド部はまともなトップがいると。
「でもね、現役バド部がラブゲームされておめおめ帰るなんて僕達の面目が丸つぶれなんだ。それを部長としては見過ごせない。どうかな?残り時間でエキシビションマッチってのは」
「ええ。私はやぶさかではないですが」
「なら決まりだ。始めようか」
そして、始まった1年生と部長の戦い。さっきのような弾丸ではないが、それでも全国2位の実力を有する南雲が楽しそうな顔で打ち返し、全国2位の球を笑いながら返すそのラリーに誰もが見惚れた。
先刻までは、ただの生意気な1年だと思ってたのが全国クラスの実力者となれば、話は変わる。圧倒的格下が吠えていたのを2歳も年下で更に実力は数段上。技量だけでなく器量の違いまで見せつけられた。同時に、自分の部活に欲しいと思った。が、時すでに遅し。
「ふぅ、良いラリーだったよ。バド部入らない?」
「遠慮しておきますよ。部長以外の先輩方は私を嫌いな方が多いようなので」
「ま、仕方ないか。気が変わったら声をかけてくれ。悪いのはこちらだ。無理強いはしないさ」
「ありがとうございます。それでは」
誰にも一瞥をせずクラスへと帰っていった。
こんな後輩は嫌だけど、大澤みたいな先輩も多いですよね・・・




