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32話:女子達の憂鬱

「はぁ・・・疲れたぁ」


風呂に入っている詩歌がふと口から吐き出す。


「なんだか騒がしかったかな。ご先祖様に会うし、九尾にはなれるし、久しぶりに動いたわね~」


妖狐には相手の感情を読み取る能力がある。それを使って寂しいから添い寝と称して蒼矢という人間を知ろうとした。自分に性的な視線を向けてこなかった事に不信感を覚えたのだ。


なんでかは分からないが魔力がとても多く、殆ど分からなかったが、分かったのは、自分を異性とは認識していても女性として見ているかと言われれば、そうではない事だった。


勿論、守ってくれたり、車道側を歩かせないと言った配慮はしてくれる紳士的な人だけど、自分を特別に思っている訳ではない。


そして彼から感じ取れたのはもう一つ。それは、女という存在に対する興味が余りに希薄だった事。それと、寂寥。どこか怖い感じがした。だが、同じくらいにこの人は私がいないといつか壊れてしまうという漠然とした不安に苛まれた。幸い、蒼矢は寝ているようだったので自分の心の中だけに留める事にした。


「それにしても、カッコよかったな。山登ってる時のあの顔。私を強くするって言ってくれてた時も・・・まさか、初恋が自分の半分も生きてない男の子になるなんて思わなかったな」


あの時、人間につかまり、蒼矢に助けられた時、自分はどうなるんだろうと不安に思っていた。人間とは相容れない存在。それを自覚していたから。でも、彼は受け入れてくれた。それに、自分が受け入れられたからと言って他人が出来るかは不明という状況でも手を尽くしてくれた。そして今は、JKとして楽しく過ごせている。


後一月もすれば夏休み。お礼と自分の気持ちを伝えたい。そう思っていた。


「海にでも誘おうかな。どんな水着で悩殺してやろうかしら。フフフ」


かつては天変地異を齎す怪異と呼ばれ、時代の動乱に人知れず関与してきた妖狐は現代で恋する乙女のように笑っているのである。









「私は・・・また傷つけたの?」


東雲亜矢は最近、蒼矢と喋れていなかった。彼の隣に詩歌がいて、堂本、相楽、そして颯斗達が喋っているのをみると、自分があそこにいても良いのかと思うと、やはり輪に入りにはいけなかった。辛うじて帰り一緒に歩こうと誘ってはみたが、母親と話していると空気を読んでか帰ってしまう。そして聞かされたのは蒼矢が私になんの興味も抱いていない事。なんとか変わらないとと思って色々考えてはみたが詩歌を見ていると、私には男子受けの良い態度なんて無理と思ってしまう。


そんな矢先に蒼矢が相楽に暴言に値するような言葉を使った。また女子にあんなことをと憤慨し、「なんも反省してないじゃない!」と叫んだ。事実だ。女性を大事にしない男なんてゴミ同然、そう思っている。間違っていないからこそ彼女は蒼矢にそう言ってしまった。


だが、蓋を開けてみれば、相楽が付き纏っていたのに対し、罵声を浴びせたのだという。これは女性が完璧に悪い。また後悔した。あの時も、日和がグイグイ行きすぎた事で傷心中の彼が逃げ出した。彼が悪い訳じゃない。もっと冷静にと心がけていたのに出来なかった。しかし、本人は体育の時に戻ってきた。聞いた話によると、乗り込んできたおじさん達を先生を守りながら立ち回っていたとか。自分が嫌われる事は承知だったのだろうか。それをしてでもその人達を退ける理由。なんなのだろう。


仮に、彼が罵声を浴びる事が予定調和だったとしても、好きな人を信じられなかった。彼がこんなことをするのには訳がある。頭では分かっていても理解しようとしなかった。罪悪感に苛まれる。伊藤美奈は蒼矢を理解していた。一人で、自分の声で叫ぶことで過ちは繰り返さずにすんだ。颯斗や煉牙も冷静だった。彼らに抱く感情は嫉妬だった。


「私は・・・どうしたら・・・どうしたら、彼の隣にいられるのかな・・・」


それ以上に傷つけるだけなのに、まだ彼を追う自分が嫌いになっていた。






「桐生蒼矢、カッコよかったな」


部屋着に着替えてベランダで黄昏ている燐子はある生徒の事を思い出していた。問題を持ってくる困った生徒だがそれ以上に


「俺の燐子に手を出すな・・・か。あいつは、今まで出会った中で一番良い男かもしれん。あいつが後10年早く生まれてたら・・・って、何を言っているんだ?これじゃまるで」


恋をしているようじゃないかと考えた所で自分がどう思っているのか考えるのをやめた。


抑々、蒼矢は、うちの(クラスの)燐子に手を出すなと言ったつもりだったのだが、シチュエーションが作用し、「うち」が俺のにしか聞こえなかったのである。


「あいつを好きな奴は多い。本人は桜井ですらそんな気を起こしていないようだが、ここまで顔の整った女子に囲まれて反応見せないって枯れてるのか?」


思い返してみる。この年頃の男子なら女子の気を引きたくてカッコつけるだろう。でも、あいつの取る行動はぱっと見女子がカッコイイと思わないような行動、それも突飛なものばかり。という事は、


「あいつが後輩から逃げた時、あの時の事を知るしかないのか。蒼矢。お前は、その若さで何を経験したんだ?そして、何に絶望したら女と必要以上に関わらないんだ?」


正確には詩歌以外ではあるが。


この謎を抱えたままワインを飲みに部屋に戻るのだった。

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