30話:元勇者は救わない
長いです。
「ごめん、先生。怖い思いさせちゃって。まさか乗り込んでくるとは思ってなくてさ」
「怖かった・・・て、さっき呼び捨てにしやがって」
「おい、貴様」
「ギクッ!本当・・・すいません」
「まったく・・・けど、そのなんだ。ありがとう。かっこよかった」
「おい、桐生蒼矢」
「まあ、それまでがかっこよくないから相殺で」
「人の話を無視するなぁ!」
「あっれれ~?まだいたの?あ、お帰りはあちらです」
「どこまでも舐めおって・・・」
「えぇ・・・そんな油肌舐めるの?1億貰ってもやだ」
「貴様ー!!」
「嘘だろ・・・?冗談通じねえのかよ。おーこわこわ。んで、あんたが聞きたいのはなんなんだ?」
「真綾にしたことの落とし前どう付ける気だ!?」
「落とし前?それやんなきゃならんのお前だろ?」
「なに?」
「親は追放。恋人にも会えない。そんな中で色仕掛けってお前こんな精神状態でよくもまあこんな任務出したよな。いやー、俺あんたみたいなゴミクズには絶対ならねえわ」
「ど、どこまで知って?」
「どこまで?壁に耳あり障子に目あり。もう分かるだろう?」
「まさか・・・」
「そうだよ」
優秀な使い魔のお陰なんだよなぁ
「裏切りものがいるのか」
「いや、違うんだよなぁ」
「すぐに見つけ出さねば」
「いや、人の話聞けよ・・・特大ブーメラン刺さってんじゃねえか」
「うるさいわ!」
「で?俺をもう追いかけねえってんならそれはそれで良いんだが、どうするつもりだ?」
「どうする?もう君に企みはバレているのだ。ここで隠し通すほど馬鹿ではない。一言こちらの望みを言わせてもらう。桐生蒼矢、我が軍門に入れ。なに、悪いようにはしないさ」
「我が軍門ね・・・それは無理だ」
「言っておくが勤務内容はホワイトだぞ?残業は無し、フレックス制度完備。就活もしなくて良い。条件としては破格だと思うがね」
「俺には戦友がもういる。そいつらとのチームは解散してねえ。だから、あんたの所には行けないのさ。それに、自分の仲間、それも部下を大切にしない所で生きていきたいとは思えない。悪いな。スカウトしてもらったのに」
「クソが、この事後悔するぞ」
「しねえよ」
何も言わずに去っていく。こういう輩は必ずちょっかいを出してくるだろう。威嚇はしないとな。
「お前、本当に嬲り甲斐があるよなぁ」
「!!!」
蒼矢以外が凍り付く。ここにいる大人たちより最低でも10年も生きていないであろう青年から発せられるそれはまるで歴戦の剣豪が放つ重厚感に溢れた気配そのもの。
誰もが迫る死を感じ取ったのではない。まるでお前たちでは俺の前に立つ資格がないとでも語りかけているかのような、存在が違うとでも形容するのか。
そう、殺気ではない。7年の間魔法と剣を練習し続け、死線を潜り抜けてきた蒼矢だから出せる剣気であった。
「別に構いやしないんだぜ?あんたを消そうがどうしようが。でも、あんたの帰りを待つ奴はいる。それにここであんたを殺してもあいつの状況は好転しない。だから、あんたが賢明に生きる事を望む」
「ぜ、、、善処・・・する」
忍び装束の者達と共に帰るのを見届けてから
「あ、先生。6時間目は参加するんで」
「え、ふっ。そうか。なら今からでも体育は見学してこい」
「えぇ・・・俺嫌われてんのに?地獄に行けと?」
「そうだ。嫌われる道を望んだのはお前だ。ならば誇ってこい」
「はい」
そうして俺はバレーコートへ向かった。
「崎田先生、お話があります」
「ええ、分かっていますよ。私は今月一杯で」
「すみませんでした!!」
「やめ・・へい?」
「私は教師として失くしてはならないものを永久に失う所でした。桐生君と崎田先生には感謝してもしつくせません!!」
「は、はぁ・・・よく分からないけど、良かったです」
「もし彼が何か圧力をかけてきても私は屈しませんぞ!」
「それは・・・頼もしいです」
この熱血ノリに誰もが置いていかれていた。今は休憩している体育教師ですらドン引きである。
この日を境に桐生蒼矢、ヤバい子というレッテルが教師たちの中では暗黙のうちに共有されたらしい。
「桐生、本当にごめん(なさい)!!」
体育が終わり、さて教室に戻ろうと思っているとみんなからいきなり謝罪を受けた。てか、待てなんで先生まで?
「いや、なんか乗った方が良いのかなーと」
とか言っててこれから無茶ぶりでもした方が良いのかなと思う。
それはさておき、こっちの事を全く考慮しないで糾弾した事をどうやら謝罪してきたらしい。
俺は答える。
「今こうして謝ってくれるんだから別に気にすんな」
が、本心では呆れていた。
お前らが謝って心入れ替えると言ってきた所で、2回もやってるやつらが出来るとは思えないし、どうせ変わらない。
それに、俺が仮に傷ついてたとしたら、その言葉を聞いたとてはい、そうですかと元に戻る事なんてあり得ない。傷ついたままだ。こいつらは本当に他人を傷つける天才だ。ならば俺は祟られたくないのでそんな神様たちには触らない。故に指摘はしなかった。結局こいつらは自分達が助かりたいがためにこんな事をしたんだろう。ようは免罪符の確保だ。人は一人で救われるとはよくいったものだ。
さて、地理のテスト返しが始まる。平均は53。60で合格だから酷い出来だな。まあ、難しくしすぎたから仕方ない。
「ちなみに言っとくぞ。このクラスには唯一の90点以上にして満点がいる。そいつは本当によく頑張った。特別に名前呼びを許してやる。それじゃ番号順に取りにこい」
みんな落胆してるな。そんなにひどいのか。顔面蒼白もいたんだが。
俺の番がくる。するといままで無言で渡していた先生が突然
「蒼矢。よく頑張った」
ちょっと待て、まさか・・・
そこには不正解を示す記号が一切ない答案があった。右上には100と。
俺は思わず頭を下げてしまった。
(すみません。本っ当にすみませ~ん。魔法使ってなかったら90ちょうどくらいだったんです。僕は本当は満点じゃないんです。本当に、誠に申し訳ございませんでした!まさかクラスで満点一人だけとは・・・)
という意味合いを込めて頭を下げたのだが
「あいつ、労った先生に頭を・・・」
「くっ、泣かせるじゃねえか」
「涙のなも出てないぞ?」
「桐生蒼矢、やはり武人であったか!流石は私が認めた男。欲しい!」
とかなんか噂されている。てか、堂本よ。お前まだ俺を狙ってるのかい。うーむ、ここは勘違いさせとくか。そっちの方が都合良さそうだし。俺が良い奴に見えたって?あれは嘘だ。
授業後にテスト勉強の極意を聞かれまくったが先生から詩歌、相楽と共に呼ばれたのでそれを理由に切り抜ける。
生徒指導に使う部屋に案内される。
「さて、当事者は揃ったか。相楽、お前には教えとこう。今日の昼だが・・・」
昼間の事の顛末を伝える。すると
「う、嘘・・・桐生君本当に無事なの?あの方は私達の中でも上位の実力を持っていらっしゃる。本当に無事?」
「ああ。というか、俺があんなのにやられるならお前はここにいねえだろうよ」
「それはそうだけど」
「そして桜井、お前に聞く。お前、今日こうなる事知っていたな?」
「はい。それは勿論です。でも、既に蒼矢が敵の親玉とやりあったのならあの手紙は意味なくなってしまいましたね」
「いや?あれを再度相楽から渡してもらえばこっちが本気と分かるだろうよ」
「でもね先生、大変だったんですよ?蒼矢ったら、人の弱みに漬け込むようなやり方をしてるって知った瞬間、皆殺しにするとか言ってたんですから」
「ちょ、おまバラすな」
「桐生君!?それって私の為に・・・」
「何かを勘違いしてるな。俺にはお前を助けられなんてしないよ。俺はあくまで俺の正義に則って動いただけ。救われるかどうかなんてのはお前がお前をどうにかするしかない。俺はお前を救わない、いや救えないんだよ」
「あっあっ・・・あ、ありがとう。ありがとう・・・」
「おいおい、桐生。何女の子を泣かしてんだ?」
「今それ言う!?」
「冗談だ。お前はよくやったよ。だが、皆殺しにするとかは口にするのはやめてくれ。お前なら・・・やりかねない。いや、出来てしまいそうだから」
「どういう事ですか?先生」
「私も聞きたいです」
「相楽と桜井も気になるか。桐生、今あれ出来るか?」
「良いですけど・・・気を強く持ってくれ」
瞬間、その場は彼が支配した。
九尾としての力を持つ詩歌も冷や汗が止まらない。相楽は辛うじて意識を保っていたがこの圧迫感を表現する単語があったので口を開く
「これ・・は・・・剣気・・・?」
「おお、正解。よく分かるな」
剣気が抑えられる。瞬間みんなが深呼吸をする。
「すごい、まるで蒼矢に自分を支配されてるかのような」
「言い方がなんとも言えないが、やはりキツイな。これを放ったら是孝という人はそそくさと逃げたぞ」
「当たり前です。剣気って武芸の極致に至った武人しか放てないものなんです。しかもここまで制御出来るって何者なのよ・・・」
「まあいい、桐生。お前はその力の使い方を気を付けろ。そうでないと自らを滅ぼす事になる」
「了解です」
「私はまだ桐生と話がある。二人は先に帰ってくれ」
そう言うと詩歌と真綾は出ていく。
「桐生。いや、蒼矢。あの時は本当にありがとう。お陰で助かった」
「であればごめんなさいしか言えないです。元は俺が追い回されるのが悪いので」
「確かにそうだが、それでも蒼矢は助けてくれただろ?その・・・怖かったから・・・嬉しかった」
お、おろ?普段は威厳に満ちた先生が凄く可愛い。まるでウサギみたいな感じで。
と思ったら抱き着いてきた。背の関係で俺の胸に顔が収まる感じになる。
「本当に怖かった・・・教頭もあの男も。でも、助けてくれた。あの時の蒼矢、カッコよかったよ?それに呼び捨てにされたの本当は嬉しかった。二人の時は名前で呼んでくれる?」
「良いっすよ。まだ怖いならこのまま抱きしめてあげましょうか?」
「うん・・・」
そう言うと20分くらいそのままだった。だが、俺には分かる。本当に怖かったのだと。胸で感じる水滴が物語っていた。
その後調子を戻した燐子先生は顔と耳を真っ赤にしてさっきのは忘れてくれとだけ言って解散した。
相楽、堂本とかはやっぱり俺の女性運の悪さを痛感したが、俺の担任はそんな悪運を振り払う程に良い女性だった。
30話突破!!ここまでありがとうございます。
2章はそろそろ終わる予定なのであと一息。




