28話:元勇者は権力を嘲笑う
一部暴力的表現を入れています。ここで書かれてる暴言は現実では非推奨なので真似はしないでください。
詩歌が妖狐としての極致に到達した翌日は学校だった。ベラとハダルに確認してもらったら魔王軍ですら幹部クラスが死力尽くして相討ちなら良い方と言っていたので俺も魔力の隠蔽は抜かりないようにしなければ。
いつもの通り高校の正門を潜ろうとすると香坂が立っていた。
「先輩、おはようございます」
「お、おはよう香坂。なんでここに?」
「お聞きしたい、いや聞くべきことがあります!横の女性は何者ですか?」
「何者って言われても・・・同居人の友人としか」
「初めまして香坂さん。蒼矢君のお家でお世話になっている桜井 詩歌です」
「桜井先輩・・・改めて、先輩と一番仲良い後輩の香坂 日和です」
「日和ちゃんって呼んでいい?」
「え?突然すぎません?まあ、良いですけど・・・」
「そっか!ならちょっと女子トークしましょうか。蒼矢君は先教室行ってて」
「了解。女子トークにずかずか入ってく勇気は俺には無いから」
そして蒼矢が行ったのを確認すると詩歌が話を切り出す。
「ねね、日和ちゃん。蒼矢君のどこ好きなの?」
「な!?な、なにを!?」
「見てれば分かるって、露骨だよ。で、どこなの?」
「そ、それは・・・先輩も教えてくれるなら」
「勿論よ」
詩歌は綺麗にウィンクを決める。
「私を拒絶しないでいてくれる所・・・拒絶してもちゃんと戻ってきてくれる所・・・です」
「そうなんだね。私はね、私を受け入れてくれたことかな」
「え?」
「私さ、一人でいる事が多かったの。だからさ、一日の大半を一緒にいてくれる彼が好き。本人は友達だとしか思ってないと思うけど」
「私もただの仲良い後輩としか思われてないですよ」
「だからさ、競わない?彼をどっちが先にその気にさせるか」
「一緒の家に住んでる人に挑むのは勝率絶望的ですけど、それでも負けられない。その勝負受けてたちます!」
ここに第一次?正妻戦争の幕が上がる。
この日は蒼矢にとって勝負の日であった。ハダルから受けた報告は三つ。一つは彼らが詩歌を諦める気が無い事。二つ目は相楽 真綾は土御門、堂本 天は土師。それぞれの蒼矢に向けた密偵である事。ここまでは想定通り。最後の三つめはその翌日に聞いたのだがあまりの非道さに怒気が滲み出てしまったのだ。その結果、怒気を受けた姉は青ざめた顔で9時に寝ると言い出した程だった。
その内容は相楽が断れない状況でこの任務を命じられたという事だ。聞けば、彼氏がいるのに自分に色仕掛けをしかけるという物。一瞬土御門派を皆殺しにしようと考えたところを詩歌、ベラ、ハダルに宥められる始末。この中でハダルは殺しちゃいけません。背骨だけ抜きましょうと悪魔のように意気揚々と残酷な事を言うのでベラに詩歌が引いてると突っ込まれた。
そんなわけでわざわざ土御門派の為に書状を認めたのだ。内容は単純。何様か知らないけどこれ以上常軌を逸する芸当やるなら物理的に人間卒業させるゾ☆というのを丁寧に書き連ねたものだ。これを相楽に渡す予定なのだが・・・
「なあ、詩歌」
「ねえ、蒼矢」
「相楽、顔色悪くない?」
「こんなの渡すにはお前の事情は全部把握してるって伝えなきゃならんのだけど伝えて良いものか・・・」
「でも、彼女の為にも伝えなきゃ」
「よし、俺は今日だけ修羅になる。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ」
朝から絶望に突き落とす必要は無い。昼に決行する事にした。
朝のHRでは球技大会の出場者を募られたが俺は手をあげなかった。場合によっては能天気に球技やってる暇じゃないかもしれないからである。
色んな人からやれとは言われたが苦手な競技だから難しいと反論。燐子先生が帰りにもう一回聞くと言ったのでお開きとなった。
東雲、伊藤、颯斗、煉牙からもなんでと聞かれたが本当に苦手なんだと貫き通しておいた。少し前に隠し事はろくな事にならないと学んではいるがこればっかりは仕方ない。現に東雲にはまた隠す気?と睨まれたが、隠してるも何もこいつらは俺がテニス、バドミントンをやっている所など見てない筈。なぜそう断言するのだろうか。やはり東雲は変わらないようだ。
そして今日からはテスト返し。帰ってくるのは英語表現、生物、数学Ⅰ、地理である。最後は地理なので燐子先生のテストでどれだけ取れてるのかが楽しみである。
午前中の返却結果は生物、英語表現は満点。数学が凡ミスで99という結果だった。みんなから称賛を受けまくっている中で東雲は目を見開いてこっちを見ている。
一躍天才として名を馳せたがそんな事はすぐにどうでもよくなった。
勝負の昼休憩が来たからである。
恐らくここで俺はまた嫌われ者になるだろう。だが今回は事情を知っている奴がいる。あの時程のショックは受けないだろう。詩歌には期待している。
案の定今日も遠方から覗く奴がいる。しかもビルの上からだ。こいつを人質に取るか。
「今日もお話したいのだけれど、良いかしら?」
「ん?あー、相楽か。勿論いいぜ」
好都合だ。向こうから接触してくるなら。恐らくさっきスマホ見てたから指示が来てたんだろう。確かに前回の見張り倒されたから善は急げ作戦は愚策だしな。でも、また傀儡にするつもりなのか。ゴミ掃除は早くしないといけないな。
「えーっと・・・桐生君?なんでそんなに睨んでくるのかな?何か気に障る事でも?」
「いや、相楽じゃねえよ。強いて言うなら土御門だな」
瞬間、相楽の顔が強張る。一瞬で臨戦態勢に移行完了か。相当強いんだろうなこの世界だと。
「どうした?慌てちまってよ。まるで俺が知らないであろう単語が出てきたっぽい反応だな」
「あなた・・・どこまで知って」
「どこまでか・・・おめえの事は全て知ってるぜクソ女。俺に関わってんじゃねえよ」
「うっ」
ここで予想していた事態になる。クラスの大半が俺を非難し始めた。頼んだぜ、詩歌。お前もきちんと俺を批判してくれよ。お前は俺と同じ畜生に落ちる必要は無いから。
「お前!後輩ちゃんの時の事なんも学んでねえじゃねえか」
「詩歌ちゃんこっち!あんな奴と一緒にいちゃ駄目よ」
「やっぱりクズだったのね!このクソ男!」
罵詈雑言の嵐。東雲もみんな憤慨中だ。ああ、思った通りだ。こいつらも俺という人間を理解しちゃいねえ。と思ったら当の本人と伊藤、颯斗は様子が変だ。詩歌ですらへたくそな演技だけど信じられないとか言ってるのに。あいつらはクラスの奴らに怒ってるっぽい?堂本はどうして良いのか困惑してるな。
ま、良いや。さてここでダメ押ししとくか。そうじゃないと相楽は助けてほしいなんて感情の吐露を俺にはしないだろうな。
「じゃかーしぃわ!」
途端に黙る。
「これは俺とそこの女の問題だ。外野がしゃしゃり出てきてんじゃねぇよ!」
そのまま相楽に手紙を差し出す。
「これをどうするかはお前が決めろ。どこまでも流されるしか出来ない雑魚だろうがな」
そうして俺は荷物を持ったまま教室を出ていく。
あまりに一瞬すぎてクラスの皆誰もが言葉も呼吸も忘れていた。
次回あたり?!土御門死す?




