27話:土御門と土師、そして・・・
「やっと、やっと辿り着きましたか。我が子孫よ」
「あ、あなたは?」
「それを言う前に聞かせて?鳥羽天皇と言うべきね。あの方はいらっしゃる?」
「と、とば?」
「鳥羽天皇は平安時代の天皇だよ。失礼、桐生蒼矢と言います」
「あら、挨拶をありがとう。もうその口ぶりは私の真名に辿り着いてるようね」
「口調がこの時代に合わせてあるので驚いてますがその名を口にしても?」
「ええ、構いません。平安時代などと言われてしまう程後の世なのは分かっておりますから」
「では、玉藻の前さん。詩歌に一体何用ですか?」
「え?たま、玉藻?ご先祖様!?」
「ふふ、そういう反応可愛らしいわね。あなたには一つだけお願いを聞いてほしいのです。この未だに生き永らえている老狐の最後の願いを」
「お願い・・・ですか?」
「ええ。まずは聞かせて下さい。私という存在がどう伝わっているのかを」
色々話した。俺が知る限りの伝承を
「そう、事実は伝わっているようね。でも、裏の事は何も伝わってないのね。私は当時の陛下を呪術による毒で殺そうとした悪女、それは否定しないわ。そして安部泰成様に見破られたのも事実。でもね?これは少しだけ事実と違うわ。毒をかけたのは陰陽師の最高峰と謳われた安倍晴明様との確約だったの」
「確約?そうなのですか?」
「待ってくれ。あんたは1100年代の人物だ。対する晴明は900年代の人物。200年も生きてる時代が違うんですよ?どうやって会うっていうんですか?」
「あなたならなんとなく想像つくんじゃないかしら?私がこうして話せているという事実からね」
「まさか、安倍晴明も生き永らえていた?同じように異界に身を潜めて?」
「はい。ただ、御身そのままではなかったわ。彼は私とは違い人間。自分の式神に魂を移していたけどね。私は当時陛下の寵姫だった。陛下は体が強くなくてね、それでも自分は影から政治を動かしていくという先代の方法を引き継いででもどうにか国を安定しようとなさる方でした。それに、笛の音は綺麗で美しいものに心を奪われる幼い一面もあった方。私が天寿を全うするまで支えてあげたいと思う方でした」
「で、なんで晴明が出てくるんですか?」
「体が弱い。つまり、呪いの類に弱いということ。当時は貴族、天皇を狙う者がとても多く、陰陽師達の中でもあわよくばを狙って攻撃をする者もいました。私は当時国内で5本の指に入るほど強かったので全てを防いでいましたが、ある時とても強い呪術がかけられそうになっているのを感じました。あんなの食らったら3日すら生きてられるかどうか・・・そんな時に晴明様とお会いしたのです。
彼は最も弱い呪術をかけるべきだと提案しました。私は愛しい人に呪いをかけろと言われ激昂し本気でぶつかりましたが、勝てなかった。提案の理由としては少し弱らせれば皆が心配する。そんな中陛下の所に来るのは陰陽師や別の能力者達だと。その中で怪しい者がいれば私なら分かるだろうと仰られました。愛しきものの為に毒を以て毒を制するのだと」
「だが、目論見は外れたんだな。あなたは泰成にやられた」
「はい。私は都より追放される時点で犯人を突き止めてました。ですが、それをどうにかする前に泰成様に見破られたのです。そしてその後は殺生石となり今に至るまでこの異空間にいたのです」
「そうなのですね。玉藻の前様。私にお願いがあると仰ってましたがその犯人を見つけ出せと?」
「いいえ。それは蒼矢君が既に子孫を倒しているので大丈夫です」
「子孫?誰だ・・・ってまさかあの蘆屋なんとやら!?」
「はい。陰陽師の血を引く土御門、土師の者達がどうにかするかなと期待してましたが、まあ、私にしか気づけなかった間抜けですので無理なのも仕方ないかと思っていたらあなたが倒してくれたのです。改めて、どうもありがとうございました」
「どういたしまして。で良いのか?ていうか、なんか彼らに怒ってます?」
「人聞きの悪い事を言いますね。私は事実を述べて差し上げただけです」
「ソ、ソウデスネ」
「さて、本題に戻りましょう。詩歌さん。私が望むこと。あなたは九尾に届き、相当の力を有しています。一般的な術士では50人が束でも倒せないでしょう。そんな力を持っても幸せをきちんと掴んでほしいのです。私は本当の幸せは手に入れられなかった。だからこそ幸せになっていただきたいのです」
「幸せですか・・・」
彼女は考えた。親の消息が分からず、ずっと孤独だった彼女が願う幸せは親がいて孤独じゃない環境。本来はそうなのだろう。でも、彼女にとってはそれが自分の答えだとは思えなかった。
確かに両親がいてほしいのは願いである。でも、今はそれ以上に本当に失いたくない物があるような気がしていた。
いてほしいと思った時にいてくれなかった両親ではなく自分といてくれる人。添い寝の我が儘に付き合ってくれたり、自分の為にはほとんどならないのに特訓に付き合ってくれる人。
今詩歌の後ろでこっちを見ている蒼矢。彼と共にいたいと言うのが望みだと気付くのにそう時間はかからなかった。
「多分幸せはもう身近にあります。私は既に持っている。後はそれをどうやって永遠にしていくか。そこはこれからの努力次第。玉藻の前様、失礼であるとは思いますが、私はあなたを超えてみせます。あなたが望み、私に託した幸せを手に入れて」
瞬間、玉藻の前から発せられていた魔力が消えた。それと同時に涙を流す。
「そうですね。あなたは無事、自分という物を理解できたようです。その幸せの相手は手強そうですがあなたなら出来る。未来の為に生きててよかったと今思えました」
すると、彼女の姿が薄くなる。
「え?体が・・・」
「結構厳しかったんですよ?存在を保つのは。でも、私が消えてもあなたがいる。私が認めた証にこの簪を持っていきなさい。それと、蒼矢さんにも忠告を。土御門にはくれぐれも気を付けなさい。土師は穏健派、土御門は好戦派が元になっていますから。それでもどちらもあなたを狙ってくるでしょう」
「ありがとうございます。どうしてですか?」
「妖狐は魔力保有率が高く、魔法実験の実験体としては最適なのです。言うまでもないとは思いますが、蒼矢さん。詩歌を守ってあげてください」
「それは頼まれなくとも守ります」
「そうですか・・・そろそろ私も消えるようです。貴方たちに幸多からんことを」
「はい。ありがとうございました」
「俺からはお疲れさまでしたと言っておきます」
「ええ。どういたしまして」
そして存在が目の前から消えるとそこには木々が鬱蒼と生い茂る山と田園風景が望める世界が広がっていた。
「これが・・・私の」
「へえ、長閑で良いじゃん。こういう所が理想なの?」
「そうね・・・」
横に蒼矢がいるからとは口には出来なかった。二人きりではあまりに恥ずかしいから。
「とりあえず、帰ろうか」
「はい」
そこに流れる風はまるで彼女達を祝福するかのように帰る二人に吹いていた。




