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25話:失態

ある日の深夜、土御門派別邸にて


「是孝様。この真綾、無事に潜入に成功しました」


「そうか、まずはよくやったと言っておこう。だが、一つ叱責はあるがな」


「叱責?」


「外から見張らせていた偵察が殺気を受け貴様に連絡をしたそうだな。そうしたら貴様はすぐに動いたそうじゃないか」


「はい。動けるうちに動こうと」


「こんの、戯けが!そんな阿呆な手法を取る間抜けとは思ってもいなかったわ!」


「申し訳ございません!」


「お゛?何が申し訳ないのか言うてみ」


「相手は距離にして700mも離れたところから覗き見る事の出来る相手、すぐに動けば私が何らかの命に基づき動くことは簡単に予想出来る事を失念していました」


「チッ、分かったのならそれでよい。だが、次は無いぞ?貴様も愚か者にのみ課される更生プログラムなど受けたくはないだろう?」


「!!そ、それは勿論です」


「ならば、より精進するのだ。良いな?」


「はい・・・一層の精進をいたします」


「そうか・・・まあこれ以上疲れさせても無意味だ。今日は休むがいい」


「はい・・・失礼いたします」


部屋を出て相楽 真綾は自分にあてがわれた部屋に戻る。そして、ベッドに倒れ込み泣いた。


「私だって、私だって、、、こんな事したくないのに・・・助けてよお父さん、お母さん、誰か・・・」


元々彼女は若い世代では優秀と呼ばれていた。前線に出て能力者と戦う事も多かった。そんな彼女がこんな任務をしている理由、それは家族及び恋人の為である。恋人の方は敗北を喫し重傷を負った。そのせいで彼に向けられる眼差しは応援や憧れではなく侮蔑、憐憫。更には馬鹿にするかのような同情の言葉を病室にわざわざ来て言っていく人もいた。一方の両親も土師との権力闘争を率いていたが負けた際に責任を咎められ追放されていた。つまり、娘とは会えない状況。肉親にも会えず、恋人は重傷で会う事も叶わない。そんな彼女が受けている任務は


「色仕掛けをかけてでも桐生蒼矢を取り込め」


なのである。精神は壊れそうだった。この命を下したのは当主天道の側近、土御門 是孝である。彼女の失態をさも嫌味のように叱責していた是孝だが、自分の人選が最初にして最大の失態とは一切考えて等いない事だ。桐生蒼矢は追い込まれて立つ瀬がない者を放っておけるほど残忍な人間ではないのだ。かそれに土御門を一夜のうちに壊滅させられる戦力である事を知ってはいたが失念していたのである。これに気付くのは凸守 倭から追及を受ける時なのだった。






同時刻、土師本邸にて


「お館様、ご報告を申し上げます。不肖、堂本 天。潜入に成功しました!」


「うむ、よくぞやってくれた。もう接触はしたのか?」


「はい!しかし失敗しました!」


「え?・・・」

その場にいる土師の当主耀厳含め目をパチクリさせる。そりゃそうだ。初日から失敗報告をされたのだから。


「ど、どういう事かね?」


「素直に付き合ってくれと言ったらフラれました。そして感づかれました!申し訳ございません!」


「・・・・・・・」


「え~~~~~?」   「ハハハハハ」


驚く側近と笑う当主。同じ能力者集団でも真逆の姿がそこにはあった。


「いやいや笑いごとではないですぞ!?耀厳様」


「分かってる、分かってるんだけどね。あー笑ったわ。天。他に言われたことはあるかい?」


「他にはお前のそうやってストレートに来る所、好きだぜと言われましたが」


「ほう、そうか」


途端に醸し出す雰囲気が変わる。一気に緊張感が最高潮となる。


そんな空気の中耀厳が告げたのは誰も予想だにしない言葉だった。


「天いや、堂本 天よ。よくやってくれた。今日の所は十分な成果だ。引き続き桐生蒼矢と接触を続けろ。機密は無論バラすなよ?」


「は、はい。そのお言葉しかと肝に銘じておきます」


「そうか、では下がって良し。土日は男子高校生のトレンドを調べる為にもパーッと遊んできなさい」


「え?あ、はい。失礼させていただきます」


天が消えた後、当主とそれ以外による論戦が繰り広げられていた。


「耀厳様。何をお考えなのでしょうか。どう考えても探りを入れてる事はバレています。何故これをよしとなさったのですか!」


「そうでございます。蓋を開けてみれば失敗にございます。耀厳様が寛容な方と言うのは承知しておりますが、許すにはいかがなものかと」


ここで溜息を吐いて耀厳は言う。


「誰が許すといった?私はあくまでよくやったと言っただけぞ?」


「しかしそれはお許しになったという事では?」


「あー、そうだった。人間ってのは相手の立場で考えるのが苦手な種族だというのを忘れてた。なら聞こう。お前たちはあの報告から重大な事を聞き取れなかったのか?」


「重大?」


「そうだ。確かに天は密偵としてやってはならない事をしてしまった。しかしだな、思惑がバレたおかげで彼という人物が見えてきたのだぞ?」


「え?」


多くの者が困惑する中でただ一人理解していた者がこの場にはいた。


「やはり、耀厳様もそうお考えになられていましたか」


「若いというのは良いものだな。将也」


この男、堂本 将也。天の親戚であると同時に土師の参謀もしているような男だ。


「皆様、よくお考え下さい。天は此度失敗をしました。しかし、それを塗り替える程の功績を我らに残してくれたのです」


「功績?何のことだ?」


「彼は最後にこう言ったそうですね。ストレートに来る所、好きだぜと。つまりは、下手に何かを隠しながら探るなんてことはやめて堂々と来いと。それを拒絶はしないとそうこちら側に教えてくれたのですよ?」


「た、確かに・・・しかし、それは怪我の功名だ。不用意にターゲットに近づいた責任はあるだろう」


「責任?頭付いてんのか?天はあいつの事を調べるという任務が与えられただけです。こなしただけだ。しかも当初の目的はある程度既に果たした。彼女は予期せずにその失敗を補う成果を得ていたとは考えられませんか?それに、その責任は天だけではない。どういう風に接触をさせるかを言わなかった我々にも責任はあるのでは?信賞必罰をしたいのなら与えた罰以上に賞を与えなくてはなりませんよ?」


「くっ」


「今しがた将也が言った通りだ。我々は取り込むことを目的とはしていない。あくまで敵意があるかだ。その確認を念頭に置くことを忘れるな。倭殿が言った通り取り込むのはあまりに諸刃の剣。そんな愚策に走るのは土御門だけにしておけ」


「はい・・・」


「なに、攻めている訳では無い。彼が陰湿なやり方を望まないと分かった時点でやりやすい事が分かったのだ。それよりも蘆屋道巌の一件、もっと調べよ。桐生蒼矢、彼にはなにかがある。そんな気がする」


そうして夜は明ける。

ゆっくり更新ではありますが、ここまで読んでいただいてる方、ありがとうございます!

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