19話:元勇者は日本でも勇者になれる
その男たちはそろそろ仕事が終わるとどこか安堵した雰囲気でいた。最近は煽り運転という物も横行しているようで今これに遭遇してはとても面倒な事になる事が予測出来た為、高速道路上での運転、周囲の見張りは神経を尖らせていた。一般道でも遭遇する事は勿論あるだろうが、束の間の休息である。何せ、今車に乗せているのは名前も知らない女の子。警察沙汰になったら煽り運転では正義を主張出来るだろうが、別の所で追及を受ける事となるだろう。何人にも知られるわけにはいかないのだ。
そう思って料金ゲートを抜けて一般道へ入ろうという頃だった。
「なんだ!?」
「くっ、バランスが取れん。皆、安全を確保しろ」
「揺れる~~!」
一人が素っ頓狂な声をあげる中、トランク部分に寝かされていた少女は目を覚まし困惑していた。
(何?何が起きてるの?このままだと私は長く生きられない事は知ってる。なんとなくそうは思ってるけど、こんな形で死ぬのはイヤ!痛っ!頭ぶつけた)
ようやく路肩に停車し一人が下車をして何が起きたかを把握しに行く。
すると何が起きたのかの全貌が判明した。
「リーダー!前輪が両方ともパンクしてます!」
「なんだと!?あれだけ整備はしてきたはずだぞ!」
「料金所のあたりに何かあったのか。チクショーが。ついてねー」
「とりあえず、スペアが2つあるからそれ付け替えるぞ」
「依頼人への連絡は?」
「馬鹿!こんな目立つところで声に出して聞かれたらどうする。後で説明すれば良い」
そう言ってタイヤの交換を行おうとしたら
「何か困っているようですね。お手伝いした方が良いですか?」
どこから来たのかは分からない。そもそもこんな所に何故いるのかも分からないが赤髪のイケメンが立っていた。
「あ?誰だあんた」
「お前はタイヤの手伝いしてろ。すいません、さっきの奴が喧嘩口調で話してしまいまして。ご覧の通り今作業してるんで大丈夫ですよ。心配していただいてありがとうございます」
「あ、そうなんですか!良かったです。でも、他にも損傷あったら大変ですし電話で呼びましょうか」
「へ?電話?」
「ええ。ロードサービスですが。保険には勿論入られてますよね?それに発煙筒とか表示板も設置してないですし手伝いますよ」
この瞬間、男はマズイと思った。ロードサービスにしろなんにしろ人なんて呼ばれたら女の子の存在がバレてしまう。そうすれば一貫の終わりだ。どうにかしてこの男を退けないと。だが、彼の言う事はとても正論で否定が出来ない。更に男たちのミスは表示板などの道具をトランクにつまり女の子と同じ場所に積んだままにしていたのである。
「そうっすね。とりあえず表示板等をやってきますので一人で作業しているあいつを手伝っていただけませんかね」
退けるは無理だと判断した。だからこそこの男を戦力として誘い、早めに事故対応を終わらせるのが最善だと思ったのだ。
赤髪のイケメンに気を取られすぎて取り締まりの為に張り込んでるパトカーの存在に気付かないで話を終わらせてしまったのが運の尽きである。
「おや?あんなところにパトカーいますね。手伝ってもらいましょうか。じゃあ呼んできますね」
「え?あ!ちょっと」
走り出す。案外早いなと感心してしまっていたが逆に言えば今のうちに発信しないとゲームオーバーだ。
「お前ら!もうそろそろ終わるか?」
「へい、これで終わりです」
「終わり次第すぐに出発だ。今しかねえ」
こんな短時間で終わらせられるほどに男たちの修理の腕は良かったのだが、まさか蒼矢が予め走って2分ほどでスペアの空気が抜けるようにしてあるなんて思いもしなかった。
何事も無かったかのように走り去る車。それをハダルは見送っていた。
「ふーん、僕が辿り着くより前に走れちゃうんだ。凄いなー。ならプランBだ。我がご主人、蒼矢様に後は託そうかな。それで良いよね?ベラ」
「ふん、しかないだろうな。だが、あの狐を一体どうする気なのだろうな主人は」
「さあね。でも、昔から不当に虐げられる人をどうにかしようとよく奔走なさってましたから今回もそれが発揮されているんじゃないでしょうか。私は彼が有しているあの優しさとそれを実行できるだけの強さに惚れて使い魔となっているのです。彼があの頃のままで居続ける限り私は彼に付いていくだけです」
「ま、もうその力を振るう気は無いようではあるがな」
「昔読んだ物語から全てはあなたの心のままにという言葉でも引用してきましょうか」
そういって2人は空を見上げる。主人が向かったであろう方向に。
「ずいぶん遠くまで来たもんだ。家から200kmは離れてんじゃねえか?」
桐生蒼矢。その男はある車を上空から尾行していた。パンクしたタイヤに慌てふためいている男たちを眺めている。
「そろそろ接触しに行くか」
この不毛な追いかけっこに終止符を打つため、異世界最強の男は動き出した。
男達がパンクした場所は人の往来もそこそこにある道路。道行く人は大丈夫かななどと心配を口にしながら通り過ぎていく。
さっきパンクしたばかりで再びの不運に流石に嘆きの声が漏れる。
「こっから一番近いカーショップはどこだ!」
「1kmはありますね。買ってくるしかないですね。あーめんどい」
そんな暗澹とした気持ちに心が支配されている所へ
「どうしましたか?」
と声がかけられる。
そこには若い青年が立っていた。
「あなたは・・・まあ良いか。実はパンクしてしまいまして、はぁ~。スペアだったのにそれもパンクするとは・・・」
「それは不良品に当たりましたね。そういえば先ほども止まっていましたしね」
「そうなんですよ。まさか装着して数分の命とは」
ここで男は疑問を持った。
「今なんて言いました?」
「え?先ほども止まっていましたねって」
「なんで知ってるんだ?あんたは。それは事実だよ。でもよ、人間が車とほぼ並走できないと今この場で話せるわけがねえ。それに息も切れてない。あんた、何なんだ?」
「思った以上に早かったっすね。ええ、その通りです。私はタダモノじゃない。でも、あなた方だって普通じゃないでしょう」
「どういう事だ?」
「そのトランク。何故頑なに開けないんです?トランクは本来車の部品を積んでおける場所だ。さっきも赤髪の人には見せなかった。何故でしょうね。例えば、見せてはいけない物があるとか?」
「てめえ、知ってやがるのか」
「何を言ってるんです?なんてしらばっくれるのはやめだ。そこの女の子、何故攫う?」
「それが仕事だからだ。仕事が分からねえガキは早く帰りな。これ以上は容赦しねえぞ?」
「へぇ~。宣戦布告か・・・」
俺は戦うのが好きじゃない。だが、こいつらは戦いにすらならない。だから
「良いねえ。殺し甲斐があるよ」
一瞬で引き攣る男達。同時に懐の獲物を取り出す準備をする。
やる気は十分か。
「なら、後悔させてやるよ。こんな仕事を引き受けようなんて判断した自分達をな」




