12話:勇者たる所以
怨霊師。その言葉を聞いた時に俺は疑問を持った。
「怨霊師?蘆屋って名字からして呪術師なんじゃないのか?」
「なるほど、道満法師は知っているようじゃな。その通り、儂は道満法師の技を受け継いだ者じゃ。一般には道満法師は晴明に呪術の戦いに敗れ弟子になったという。じゃが、彼の呪術師がそれで終わる筈もない。法師は弟子を取っていたそうだ。当時一番弟子だった儂の先祖が呪術界において蘆屋を名乗る権利を家族以外に唯一下賜されたそうだ。そして儂もこの姓を名乗っておる」
「なるほど、道満法師のシンパって所だな。そんなに敬愛するなら何故同じ呪術師を名乗らない?恐れ多いからか?」
「それもあるにはあるが、儂が霊を操る呪術しか扱えんというのが最大の原因じゃな。多様な呪術を扱えない以上、同じ名を名乗るなど恐れ多き事。じゃから怨霊師と名乗っておる」
「あっそ」
「聞いといてなんなんじゃ?その反応は」
「ようはただの未熟者って事じゃないか。良かったな。こんな若人と同じレベルだ。未熟者同士仲良くしようぜ?」
「貴様、人を煽るのは大概にしなさいや。本来目に見えぬ物を操る儂をそないに怒らせても良いのかの?」
「別に構わねえよ。自分が本当に強いなんて思ってる奴ほど粗を探すのは簡単だ。それに、さっきまで若人って呼んでたのにいきなり貴様になってるし。60年は優に生きてるんだろうけど、感情の制御が出来ないってんなら俺の敵じゃない」
「ほう、そこまで言うなら見せてくれよう。なに、心配はせんでも良い。そこまで強い術は使わんつもりじゃ」
道巌が発動しようとしたその時
「待て!それ以上はやめろ」
さっきまでこっちの様子を見ていたお姉さんが間に割って入る。
「なんじゃ、今度は女子の若人かの。危ないから下がっておけい」
「そうですよ。多分この山の監視をしている人でしょうけど、あれには勝てないでしょうから下がってください」
「そうはいくか!元はと言えば貴様が不用意に煽るからだろう!早く逃げろ」
そうだよな。調子に乗った若い男子にしか見えないよな。だが、そうとなれば仕方ないお姉さんには寝てもらおう。
「悪いんですが、少し眠っていて下さい。スリーパー。」
「なにを、、、ふぁ」
意識を失ったお姉さんを抱きかかえる。寝息も正常だしこのまま向こうの木にでも寝かしておくか。
「貴様!?一体何をした!」
「眠ってもらっただけだよ。あっちに寝かしてくるから少し待っててくれ」
そういって背を向ける。勿論これは罠だ。本当に待ってくれるなら律義で根は良い奴か、武人肌のどっちかだ。ま、こいつはそんな殊勝な奴じゃないだろうと分かっているので、戦闘を行う為の正式な理由を作る目的もある。
すると、案の定
「馬鹿が!やはり詰めが甘いわ。今すぐ貴様も向こうの存在にしてくれようぞ。秘術、黄泉醜女」
「おいおい、さっきまで強い術は使わないって言ってたのにいきなり秘術って日本語分かってんのか?」
「じゃかしいわ!勝てば官軍負ければ賊軍。勝った方が正義なのだ!まんまと騙された貴様の愚かさを悔いるのだな」
「そんな理論振りかざされても・・・ま、どうでも良いか。正光魔法。聖が導く楽園」
光と闇。それを体現するかのような二つの技がぶつかり合う。
刹那、勝負は決した。優しき浄化の奏でに怨霊と化した霊達が叶うはずはない。だが、苦しさを感じず昇天出来る事実を理解した彼らは安らかな顔をした。
術者の操りが聞かなくなったと等式が成り立つのだ。
「へ?・・・儂の怨霊達が消えていく?何故じゃ?何が起きた?なぜ貴様は心身共に無事なのじゃ!?」
「あんたさ、さっき俺が眠らせた時何やったのか分からなかったろ?その時点で勝敗はついてたんだ。それに、霊を広範囲に浄化させられる俺が至高のネクロマンサーでも無い奴に負けるかよ。あんたが降参するなら霊の浄化だけで終わりにするつもりだったが、あんなやり方で従わせてたってんなら話は別だ。あんたの人生を終わらせるしかねえよな?」
「ま、待て。もうしない。儂はもう金輪際霊を使役せん。約束しよう。どうか見逃してはもらe」
「おらっ」
「うごっ、あ゛~~~~~~」
蒼矢はこの手の輩が口約束など守らないと知っていた。だが、こっちの世界で人殺しはしないと決めている。そんな蒼矢が取った行動は・・・
「これが代償だ。今までの行い、罪を贖え。あんたの奥さん迄も怨霊にしていたらしいからな。奥さんが許すまでそこは潰れたままだ」
そう。男性にとって一番失いたくない物を潰したのである。止血は既にしているから死にはしないが男として蘆屋道巌は今日死んだのである。
「俺は殺さねえよ。殺す権利は無い。だが、あんたが弄んだ魂を成仏させてやる力はある。その力を使っただけさ。スリーパー」
痛みに悶える老人に眠りの魔法をかけてさっき寝かしたお姉さんの方へ向かう。恐らくだが奴を追っていたのだろう。ならば、無力化した事を伝えなければ。
「あのー、起きて下さい。もしもーし?」
「ん・・・ここは・・・はっ!早くあの老人をなんとかしないと」
「あ、それは大丈夫です。ほら、あそこに眠ってるでしょ?お姉さんあいつを、正確にはあいつが溜め込んでた霊を張り込んでたんですよね?あいつちゃちゃっと捕縛すれば終わりだと思いますんで。それじゃ」
「あ、ちょっとまって」
これ以上待つことで根掘り葉掘り素性を聞かれるのは嫌だから颯爽と山を下りていく。今度は見ている者もいなかった為、魔法を使って一心不乱に駆ける。標高900mを下りきるのに10分もかからなかった。
「流石に追ってこれねえだろ。そんじゃ、帰るとするか。異世界の事は話せないけど恩人、友達が恋しくなったことは言うか。恥ずかしいから嫌だけど」
そう言って蒼矢は行きと同じく隠密魔法を使いながら空へ飛翔した。
タイトルには書いてませんが、一章に相当する部分はそろそろ完結です。




