114話:憎悪の凶刃
仕事・・・更新キツイ
この男を動かす根源は何なのだろう。勿論、怨恨や悔恨。負のエネルギーも多くを占めるのだろうけどそれだけではこんな綺麗な剣筋にはならない。
使っている刀も普通の日本刀なのだが、この妖刀と何回か刃を合わせているのに刃こぼれもしなければ、折れもしない。俺はそこが気になっていた。
そもそもの話、妖刀を扱える人間というのは古来より死を知っている者だと相場が決まっている。何故かって?妖という漢字の旁にあたる「夭」という漢字には"わかじに"という読みがある。若くして死ぬという意味があるそうなのだ。あやしいの意を持ち、わかじにという要素を持ち合わせてるという所から俺が考えた仮説だが、若くして死を知り、妖しきを受容するに耐える器。それが妖刀の使い手なのだろうと俺は勝手に思っている。
まあ、いずれにせよ妖刀を綺麗だとか、美しいとか言う奴は危ねえって事だ。そう、本来ならこの刀身を見て美しいとでも言うのだと思っていたのだ。だが、そうではなかった。別に妖しさに魅入られた訳でも無く、これだけの剣技をやってのける。俺からしても正真正銘の化け物としか形容出来ない程に熟練していた。
「剣道の技じゃないなこれ」
「ほう、分かってしまうか。その通りさ。これは道なんかではない。人を殺す。それに特化した剣術だ」
「ああ、こんなのかの有名な天然理心流とかの達人でも捌くのキツいだろうな。だが、何かの流派と言うわけでもない・・・我流か?」
「我流であり、そうではない。私はね、強くなる為ならなんだってした。古来より伝わる日本の殺人剣を4つ習得したのさ」
「4つも?そりゃ凄い」
「これはその集大成。それぞれ強いのだが、それでも弱点となる部分はあった。だが、俺はそれぞれの利点を組み合わせる事で弱点を限界まで減らした。いわば、全ての型が奥義となる俺独自の剣を編み出した。君がいかに強かろうと、この俺の強さへの執念を越せなければ・・・勝ち目はないぞ?」
「そうだな。でもさ?それがあんたの本音なら俺には勝てねえぞ?」
「まあ良い、時間も無いし決めてやる。警察一の剣の達人を軽く破った技で君も仕留めよう。君は俺の教え子だ。死なないように忠告だけはしよう。絶対に目で見えている景色を信じるなよ?」
「敵に塩を送るか。余裕だな」
「これより打つは何人たりとも止めた事のない必殺の剣。最終秘技 葬」
「!!」
いきなり横に刀が現れる。それを避けると反対側からも
「くっ」
また刀が。おおよそ人間には出来ない速さで移動しているこの刀。俺は違和感を感じた。
殺意、敵意が全く感じられないのだ。意思が無いとでも言うのか、とにかくそれが無かった。
別に対応は出来る。ハダルとかの剣に比べれば圧倒的に遅いから問題は無いのだが、それ以上にこの意思を持たない刃の違和感の正体を掴めていない事にもどかしさを覚えている。
さっきなんて言ってた?目で見えている景色を信じるなよだったか。思い出せ、今まで俺が見聞きした事の中に答えがあるはず。
こいつの情報、俺の経験値、その上で導き出される答え。
答えに辿り着いた時、俺は元々石橋がいた所へ斬りかかっていた。
「嘘だろ!?」
剣で受け止める音がする。
「先生の情報が無かったら破れてなかったもしれないっすね。ありがとうございます」
「何故だ?なぜこの技の仕組みが分かった」
「先生が言っていた事と、俺の師匠が言っていた事、それと、あなたが操躯の術の使い手だと言う事から分かりましたよ。ええ、本当によく出来ている。確かに、剣の達人である以上に頭が柔らかくないと確かにこの秘技は破れませんね」
「はったりではなさそうだな」
そう言うと剣を刀を鞘に仕舞う。
「まだ戦えるだろ?」
「いや、負けだ。あれが破られたならどの技もすぐに破られる。参ったよ、まさかこんなに強いなんて思いもしなかったから」
「嘘つきっすね。操躯が破られた時点で察していたでしょうに」
「やはり分からないな。それだけの力を持っているんだ。何故君は僕を誘うんだい?ヒーローみたいに止めるんじゃないのか?」
「まあ、あなたが愉快犯なら止めてましたよ。でも、今世界を覆う制御の効かない権力の暴走。これを止めるにはあなたのような社会的弱者が一矢報いたという事実が欲しいんです。俺はね先生、美奈が危機に陥った時もどんな時も同じ。"自分の大切な人"を守りたいという感情だけで動いてるんです。感情を殺す事を大人と言い、それをしない人は子供となる社会では俺は子供でしょう。でもね?誰よりも人間臭く、誰よりも思い描いたヒーローになりたいって思ってるのは俺だって断言します。だから間違っている事、罪のない人を傷つけるバカ共。そんなゴミすら分別出来ないバカ共に戦いを挑む。あなたを誘うのはこれが動機です」
「君が・・・もし君があの時いたのなら・・・僕は違っていたかもしれないな」
「タラればはやめましょう。あなたは復讐者として生きているんです。過去を振り返るのは・・・全て終わって泣ける時だけで十分だろ」
石橋は察したかのように笑う。そして立ち上がり、眼前に聳え立つ頂の見えない何かの双眸をしっかりと捉える。
「君が何歳なのか分からなくなる。だが、俺の身勝手な復讐の協力者になってくれるなら・・・共に戦ってくれないか?」
「その言葉・・・待ってたぜ。もちろんだ!」
「ここに・・・いるんだな?」
「ああ、現文部科学大臣森山さんがな。あんた達の手に入れた情報がまず釣りだったって訳だ。あのままカチコミかけてももぬけの殻だったろうよ」
「危うく、また敗北者となるところだったか。それよりも、どうやって炙り出すんだ?」
「ん?ああ、心配すんな。権力者ってのは汚物の宝庫だ。汚物の高級デパートと言うのも言い得て妙だな。それをつついてやるのさ。それだけで奴らは慌てる」
「テレビで暴露か?」
「そんな事はしねえよ。単純さ。どこかで誰かがペラペラ喋った不祥事のスクープを第三者がSNSに流す。ほら、マスコミが3日は飛びつくスキャンダルの出来上がりさ」
「腹黒いね」
「なあ」
「どった?長岡さん」
「あんたの言う事が本当ならその情報流すだけであいつ終わるんじゃねえのか?」
「なんの対策もしなきゃな。大丈夫、その為の対策はした。俺達が部屋を荒らしさえすれば・・・チェックメイトだ」
そう言うと嘲笑のような顔に変わる。そして告げた。
「さあ、始めようか。腐った生ごみの掃除って奴をな!」
同時刻。森山は
「なあ、何かパーティーの情報無いか?飛び入りで参加するのって楽しいんだよ」
「そうですねえ・・・というよりも大臣、明日女性と会うというのにそんなに酒は飲まないでください?」
「おっとと、悪い悪い。いや~、復讐なんてくだらん真似するバカを見事に釣って、しかも明日お楽しみが待っているとなると飲みたくなっちゃうものさ」
「はぁ・・・本性は出さないでくださいよ?バレたら終わりなんですから」
「フフフ、あそこに飾ってあるアザミも夜には美しいな」
「アザミ・・・」
「こんな夜はシャンパンも美味いのも納得だろ?」
「少しは部下と秘書の事も考えてください。こんな夜遅くまで・・・」
「すまんすまん。次行ったらもう自粛するよ」
「その言葉を信用したかったです」
晩酌をしていたその時だった。
扉をノックする音が聞こえる。
「入れ」
「失礼します。大臣、花のプレゼントだそうです」
「花?アザミはもうあるが」
「いえ、なんでもタンジー?とかいう花らしく」
「ほう、見せてみろ。随分とかわいらしい花じゃないか」
気付かなかったのは花に気を取られていたからだけではない。というより、ホラーだ。だって
「タンジーはお気に召しましたか?森山大臣?」
窓の近くに誰かも分からない青年が、いるはずのない人間が、扉から入ってきたわけでもないのに室内にいたからである。




