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113話:託された望み

時を少し戻す。俺が林に捨てられてた人達から事情を聞きに行った時のことだった。


「そこのお方、少し良いですか?」


「良いですけど」


「先程、あの林から出てきたのを見たんですが、何をしに?」


「用事があったんですよ。ただそれだけです」


「警察の方・・・ではないんですか?」


「残念ながら警察に属してはいません。まあ、あの事件を追っているものです」


「そうですか・・・何故お調べに?」


「あの事件に関わることになってしまいまして、伝え聞いただけではなく、自分の足で現場を見に行こうと思って」


「そうなのですか・・・でしたら、私の話も聞いていただけませんか?」


「随分と急ですね。しかし、あなたと事件に何の関係が?」






「私は、今回の事件で妻と娘を失いました。警察はこの一件をうまいこと処理して主犯を逮捕しないで済むようにしたいのです」



















そして全てを聞いた。事の発端は彼の勤めている会社が主催する懇親パーティーでの事だった。


ホテルの一室を貸し切って行われるパーティーの食事は美味で、未成年用にジュースも提供されると言う言わば、家族全員で参加出来る物だったそう。彼、長岡さんの娘と妻はこのパーティーを毎年大層楽しみにしていたそうだ。


だが、今年は少し違った。今までは会社関係者、お得意先のお偉いさんくらいしか来ていなかったのに今回は更に上、現大臣が特別ゲストとして参加していたのだそう。


急に参加が決まったようで、仲の良い社員の誰一人知らなかったという。


会社のバックに付いたのか?と噂されたが、こいつの魂胆に気付いた時には遅かった。










「それでは、文部科学大臣森山先生よりお言葉を頂戴いたします。森山先生こちらへ」


そう言われるとステージの端から男が登場する。御年67とは思えないほど若く、その姿はまさに政治の最前線で戦う格好良い男の様だった。


娘ですら、イケオジと後に感想を言う程の美貌だった。


「ご紹介いただきました森山です。社内パーティーなのに突然の参加をしてしまいました。社長とはプライベートでも仲が良くて、食事も美味しいと言うので無理を言ってしまいまして。外様の者ではありますが、仲良くしていただければ嬉しいです。長くてもいけないのでこのくらいにしましょうか。ご静聴ありがとうございます」


終始にこやかに話すその姿に長岡さんは悪い人では無いと思ってしまったらしい。仲の良い一人は何かを感じ取ったようで家族と自分に「あいつは黒い。深くは関わらない方が良い」と耳打ちしていた。だが、その後色々な人と話す姿を見て白とは言えなくとも黒では無いだろうと思ったそうだ。


妻と娘も話したが、若者のトレンドも知っていて、とても盛り上がっていたそうだ。かなり複雑な気持ちにはなったが、楽しそうに話す姿を見て俺も流行勉強するかと思った。








だから、あの日が来て心の底から後悔することになったのだが。


それから少し経ち、あの事件が発覚する4日前。出勤する時に妻からこう言われたそうだ。


「今日は少し出掛けてくるから仕事嫌になって早退しても家にいないかもだから定時までは会社にいてね」


健康には気を使ってるし、風邪もそんな熱を出すまで行ったことなど、ヤンチャをしていた大学生以来無かった長岡さんは、早退はしないよ。ま、残業もしないで帰るからと言い残して家を出た。


そして定時を迎え退勤して家の鍵を開ける。


「ただいまー、今日はプリンあるぞー」


一家揃ってスイーツ好きな家族だから、この声にはいつも嬉しそうな反応が返ってくるのだが、今日は静かだ。


「なんだ?まだ帰ってないのかな。外灯も付いてなかったし。ま、遅くても9時には帰るだろう」


会社員として働いていた長岡さんには今家族に何が起こっているのか、知る由もなかったのだ。この時警察へ連絡していたら・・・いや、変わらなかっかもしれない。それでも、疑うべきだった。少なくとも面倒なやつと思われてでも電話をかけるべきだった。


長岡さんの妻は30後半とは言え20代後半で通じるほどに若々しく、一人娘を産んだとは思えない人で、娘も何回か告白を受けるほど可愛い子だった。中学2年生でそんなに告白されるのを良いとは思ってなかったが、そんな二人は自慢の家族。自分も顔こそ平凡だが、稼ぎはあるし娘も軽い反抗期で済んでいて良好な関係だろう。


10時を回っても帰る気配を見せない二人に流石におかしいと思い電話をかける。だが、出ない。何かあったと思って警察にも連絡をした。保護したとかの情報も無く、すぐさま捜索願を出す手続きをした。


が、なんの音沙汰も無いまま4日が過ぎたある日、ニュースである報道を見た。


近隣の林で女性の死体が大量に見つかったというニュース。


嫌な予感がした。すぐに調べた。仕事は有給申請をする暇も忘れるほどに。


翌日、警察から連絡が来た。


「はい」


「長岡さんですね。捜索願の出されていたお二方についてお話がありますので署まで来ていただけますか?」


急いで向かう。


通された部屋には2人の人間が横たわっていた。その顔は


「杏果、志穂、なんで・・・なんで」


「ご家族は遺棄されていました。申し上げにくいですが・・・顔以外はご覧にならない方が良いかと」


「何故です?」


「暴力の限りを尽くされています。恐らく、心が耐えられないかと」
















仕事も手に付かない日々が続いた。警察も捜査中と言ってはいるが、犯人は捕まる気配は無い。


これ以上何も出来ないのか。そう思ってふらっと事件現場の林近くへ来た。規制線から出てくる人影を見つけた時は驚いた。警察の服を身に付けている訳では無いのに何故だろうと思ったのだ。それに、何かを考えるフリ。探偵か何かだと思った。だから、彼は声をかけた


「そこのお方、少し良いですか?」


















「そんな事が・・・」


「私は許さない。妻を、娘をあんな冷たくした奴を。隠ぺいしようとする警察を。そして、帰ってすぐに連絡しなかった自分を。もう何も許せないんですよ」


「それで、私に何をしろと?」


「今回の犯人を、主犯を教えていただきたいのです。誰かさえ分かれば、あとは私がやりますから」


「畜生に・・・なるつもりですか?」


「畜生?私がなるのは殺人鬼の間違いです。その為にほら」


懐に忍ばせてある拳銃を見せた。


「遺書も書いたし、家族はいませんから。そいつさえ殺せれば私の命にも価値を見出せるのですよ」


「・・・甘いな」


「え?」


「そんな所詮護身用にしかならない玩具で人を殺す?舐めてんのか?命狩りたかったら、マシンガンでも仕入れてこい。あんたの頼みは聞けねえよ」


「な!?」


「もう分かってんだろ?警察が総力あげて隠ぺいする相手。肉の壁は厚い。それ全部ミンチにするくらいの心意気なきゃやった所で何も成せず死ぬだけだ。良いか?国家権力を相手にするってのはな・・・そういう事なんだよ」


唖然とする目の前の男。でも、銃刀法が整備されているこの国で仕入れたその行動には敬意を示そう。


「もしもその鉛弾を撃ち込みたいってんなら夜10時にはこの駅にいな。ちゃんと自分の人生かける覚悟くらいしてこいよ?」


























「最高の復讐?」


「ええ、家族を失い、踏み躙られ、社会に虐げられた弱者が、権力に手も足も出なかった雑魚が上級国民の手を噛む。最高と言わずして何というんです?」


「そうだとしても君がこの復讐に参加する意義が分からないな。何故だい?」


「嫌いだから殴り飛ばす。ただそれだけさ。俺が力を持つ人間だから分かるんだよ。力は間違った使い方をしてはいけないし、間違った使い方をしたクソバカを正せるのは力だけって事もな。それに、今回の事は流石に目に余る。こんな横暴を許しちまったら、子供がのびのび過ごせる国なんて幻想郷だろ」


「一応君は僕の生徒だ。生徒を危険な目に遭わせる訳にはいかない。止めさせてもらおう」


「俺を待つ男がいる。協力してもらえないというなら剣で語るしかないだろ」


「奇遇だね。僕もそう思ってたんだ」







石橋が走り出す。狙うは横からの一閃。それを刀で受ける。


「久々だよ。本気を出せそうだ!」


二人の男が激突した。

またまた不定期になっていますが、応援よろしくお願いします。

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