112話:正気を失った心
果たして正気を失ってるのは誰なんでしょう・・・
休校になっている筈の校内、その中でも人はいないであろう武道場には午後9時半前という遅い時間にも関わらず、人の姿があった。
「長かったよ。夏海を失ってからやっとここまで来た。もう俺を止めるものはいない。後は俺が牙を持つだけ。それで・・・全てが終わる」
この学校の武道場には一つだけ真剣が置かれている。普段は危険の為、体育教師しか知らない暗証番号で台座から外れるようになっているのだが
「しかし、桐生君には驚かされた。まさか赤弾を一緒に捕らえる事になるとはね。彼は危険すぎるからな~、どうにか味方にしたかったけど、無理か。ま、良いや邪魔さえされなきゃ」
誰もいない。だからこそ応答は返ってこない。
「邪魔?俺がここにいることが邪魔になるんですか?」
筈だった。
「君は・・・何故ここに?」
「白々しい。あんたの狂人的な計画を止めに来たからに決まってるでしょう?ねえ、石橋 嶄十郎先生?」
「・・・やっぱり気付いていたか。かぁー、どうも上手くはいかないねぇ。てことは、彼の事もバレてるか」
「もちろん、先生のステークホルダーは調べ上げてますよ。その上でここに来ているんですから」
「なら話が省けて助かるよ。腰に佩いているその刀は物騒だから、そんな物危ないから寄越しなさい」
「やだよ、俺の愛刀なのに。てか、敵意むき出しの相手を前にして武器手放す程馬鹿じゃないですよ」
「敬語すら消えたか。ま、そんなのはどうでも良い。本題を聞こうじゃないか。君は僕をどうする気だい?」
「そんなの決まってますよ。止める一択です。今のあなたを、このまま行かせる訳にはいきませんから」
「そうかい。何故今の僕じゃダメなのかはさっぱり理解出来なかったが、僕にはこんなにも思ってくれる生徒がいたんだなぁ、嬉しくて泣きそうだ」
「涙の"な"すら出てないのにそれ言います?涙流せないのは13年前からずっとなんですか?」
しっかりと目を見据えて言った。その目は覚悟はしていても少なからず動揺が見える。
「大切な妹を亡くしたのに、失ったものは"慢心"でも"軽率"でもなく涙だなんて、あなたは何故・・・力と復讐に囚われてしまったんです?」
「随分と遠慮なく踏み入れるんだね。そうだね・・・何故か、か。考えたことも無かったけど恐らく・・・彼らがきちんと裁かれなかったからじゃないかな」
これはこの少し前の事・・・
「本当、夜景ってのは綺麗だな。人間が作り出したこの夜を照らす光は凄いよ」
アニメでは高い所から街を見下ろす強者の描写がよく出てくる。俺もそれを味わっている所だ。俺がいるのは684mのこの国一番の高い建造物の一番上。現在時刻は9時20分。こんな時間の都会の眺めは素晴らしいと目を見張るものだ。
「だが、この光は何も、美しいとは思わないな。美しいのはこのスカイタワーのライトアップくらいな物だろうな」
独り言が止まらない。誰かに聞かれれば恥ずかしすぎて死んでしまう台詞もこの夜の暗闇の中では包み込んでくれる。どんなにセンチな事を言ってもノープロブレムさ。
「でも、この刀をこっちで使うことになるとはね。もうお前の力は借りないと思ってたんだがな・・・力を貸してくれな、煉獄」
妖刀 煉獄。刀が持ち主を選ぶというのは有名な話だが、こいつはその最たる例。適応しない者は精神を犯され、適応する素質はあっても受け入れる器が未成熟だと吹き飛ばされるという刀だ。何故伝聞っぽいのかって?俺はこいつを持った時何故だかしっくり来て、こいつは大人しく俺に握られていたから。
どうせこの後使うから性能はそっちで紹介しよう。さて、そろそろ向かうか。
「石橋先生、俺はあなたを・・・止めますよ」
「裁かれなかった・・・」
「俺を調べたって言うなら知ってるだろ?事故として処理されたんだ。事故だから相手方は無罪、警察が揉み消した。恨むなと言う方が無理だろう」
「だから・・・あの時揉み消しに関わった人達を殺し、加害者も殺して、全てを指揮した大臣を暗殺する計画なんて立てたんですね石橋先生。いや、偽名ではなく本名で呼びましょうか。黒木 壮之助さん」
「その名は捨てた!!俺は復讐を成し遂げるまではその名は名乗らねえ!自分の命と同じくらいに大事だった妹を守れなかった弱者の名など口にするなっ!!」
やっと、感情を表に出したか。
「本気で、現文部科学省の大臣を殺せると思ってんのか?死刑は免れないのに?」
「構わねえよ。俺が復讐をすればその分、あんなゴミ共に踏み躙られる人も減る。2つのメリットがあるんだ。やらずにはいられねえよ。それに、死ねるなら本望だ。何の因果か、あの当時リストカットしても、電車に飛び込んで死のうとしても何故か死ねなかった。やっと妹に会えると言うならあいつらぶっ殺して俺もすぐに後を追うさ。今度こそ、あの世ではこの刃で夏海を守る」
「・・・その計画さ、破綻してんだよ」
「あ?」
「その計画を成功させるなら第一、軍の大部隊を相手に出来る戦力が必要だし、選りすぐりの護衛を軽く倒せる奴がいて初めて成功する。もしも、あんたの私兵で出来ると思ってるなら大間違いだぜ?美濃連合二代目会長さんよ」
「それも知ってるか。まあ、安心しろ。あいつらだけじゃない。不思議には思わなかったのか?ハイジャックによるテロの情報をなんで仕入れられたと思う?」
「・・・なるほど、つまりは国の中枢を混乱に陥れる為か。それが、石川泰麒と手を組んだ理由」
「そうさ。あいつらは情報リテラシーが足りない。鵜呑みにしてくれる。数ヶ所でのテロなんてそっちに人員が割かれるだろう。特に、684mなんて高い建造物が落下してきたらどんな被害が出るかわかったもんじゃないしな」
「良い性格してんな。まあテロに関してはこっちで対処済みだから安心しろ。ちなみにさ、あんた勘違いしてるから教えるぜ。俺はさ、あんたに復讐をやめてほしいわけじゃないんだよ」
「??どういう事だ」
「俺言ったよな?大臣を殺せると思ってんのか?って。ようはさ、計画変更しないの?って聞きに来ただけさ」
「・・・は?いやいや待て待て。君止める流れじゃなかった?」
「ん?俺も調べてるうちにあんたの復讐を止めて良い理由が見当たらなかったよ。法治国家の癖に、公正じゃないし、ましてや法を破るのが勝ち組に入る条件みたいになってるし。この辺で一発、調子に乗ってるバカどもにお灸を据えないとって思っちまったからな」
「・・・・・・・・・」
絶句。まあそりゃそうだろな。
「俺さ、人間って未完成だなって思うんだよ。獣性を露わにする事を良しとしない癖に、女手に入れるにはそれを見せなきゃいけない。不倫に浮気に寝取られ展開ってそのせいで起こるだろ?矛盾を体現した存在だって思ってる。政治家なんてもっとだ。私は誠実です。みたいに言っときながら、裏では反社会的勢力と繋がってるなんてもはや常識。法整備しときながら従わないんだ。俺達子供には規律、規範は守って動きましょうと言うくせに」
そこまで言って俺は煉獄を鞘から抜く。
「敬語なんてクソ食らえとしか思えないよな?そんな権力と腹の肉以外立派な物が無い、生物としては最弱の奴に頭下げなきゃいけない。俺はそんな国嫌だね。だから行動するよ。それに教えてやんねえとな。度を過ぎた悪事は・・・身を滅ぼすって。圧倒的な力の前では・・・権力なんて海の藻屑だってさ」
「なんだ・・・その刀。まさか、妖刀?」
「お、分かるか。良いね、やっぱ強いんだな。これ見て喋れるって凄いぜ。俺から言う事はただ一つ」
悪い笑顔を今してるだろう。だがこれで良い。
「妹を愛してるってんなら、あいつらには生き地獄味合わせなきゃダメだろ。だからよ、死なせてくれってお願いされるくらいに痛めつける。最高の復讐を一緒にしようぜ」
次回は少し回想です。もしかしたら次の次もかもしれない




