110話:神は悟る
短めですがとりあえず。
「底抜けのお人好しって凄いよね。いかなる時にも誰かを助けちゃうんだから。そうは思わない?ローリエ」
「彼の話?そうね、持て余してる力を名目の元に正々堂々行使できる場所を求めてるようにしか見えないけど」
「それはそうさ。でも考えてみて?いきなり見知らぬ所に来て世界救ってください!なんて言われたんだよ?普通なら困惑するしそんな面倒なんで自分がって言いたくなるはず。でも彼は、それを受け入れた。そして世界でも屈指の実力者となった」
「何が言いたいの?」
「例えあり余る力を使いたいだけだったとしても、それが何の為に使われるのか。それ次第でその力は英雄になり、破壊者ともなる。人間が人間である限り彼は英雄からは逃れられないのさ」
「元から彼が英雄だったってこと?」
「心はね。人間って面白いんだよ?だってさ?自分の中のものさしでしか何かを判断する事が不可能なのに自分のものさしだけで見るななんて言い出すんだもん。
向こうの世界にはね常識とは偏見の塊みたいな言葉があるらしいけど神からしてもそれは事実だよ。僕達だって全てを知ってる訳じゃない。なのに崇め奉られれば恰も全知全能かのように振る舞う必要がある。彼は神と同じ苦労をしている。天は人の上に人を作らないかもしれないけど、人は自分より上の何かを拠り所にしなければ何も出来ない。
だから神は生まれ、英雄は、偉人は生まれる。そんな不完全な状態を何万年と維持しておきながら自分達は賢いだなんて言い出す。そんな憐れにもがく人間達の中で彼はもがくフェーズを抜けたんだよ」
「もがき続けて今檻から飛び出した虎はどうなると思う?」
「凶暴じゃない?」
「そう。でもね?ただ凶暴なんじゃない。相応の力を持っているんだ。これから先どうなるかはそれこそ神のみぞ知る世界だよ。それでも、少なくとも若いから蒼矢より偉いとか権力があるから強いなんてふんずりかえってたら狩られる。こっちの世界は彼を上位存在と認めた。だから今変わろうとしてる。
さっきものさしの話をしたけど、蒼矢だって自分のものさしを元に判断している。違うのはそのものさしの長さと頑丈さだ。ものさしの強度に傲りが生まれれば止めるさ。ただ、僕は見てみたい。彼のものさしはどんな世界を作り上げるのか」
「その第一歩がこの後の一連の出来事なのね。でもいつかは手綱を付けなきゃいけないわよ?彼は戦う事は吝かではないと言っていた。あんな力を無尽蔵に使われたら」
「権力という名の力に抗うなら妥協はいけない。敵が力を惜しみなく使うのなら全力で対抗する、戦いの基本だよ。頭が良いと思い込んでる人間ほど権力による戦いを求める。善悪の判断が付かない子供の教育には体に教える必要がある。例えそれを教えるのが子供くらいの年齢だったとしてもね」
「これからあの世界はどうなると思う?」
決まってるよ。そう笑う。
「神ですら腐り、上に立つものも腐らなければいけない世界に投じられた一つの大きな浄化剤。戦争は起こらなくても、荒れるだろうね。荒れた結果がどうなるかは人間が紡ぎ出すストーリー。なに単純さ。今までと変わらず歴史が作られるだけさ。その時人間がどうあるのか、僕は楽しみでしょうがないよ」
「あなたも彼も随分と好戦的じゃない。そんなに戦いはお好きなのかしら?私はあんまり好きじゃないけどなんで男の子ってみんな戦いたがるのかしら」
「イーヴァースと仲が良かったなら分かると思うけどなー。彼だって欲するもののために戦い続けた。男に限らないよ。戦わなきゃ手に入らないモノがある。生きとし生けるものはその時に原動力を手にするのさ。それが戦いに繋がる。なにも変な話じゃないだろ?僕も欲しいものがある。だから今戦い続けるんだよ」
「可愛い顔と背丈してかっこいい事言うのね。でもそうね。私も欲しいものが今出来たわ。でも私の場合は戦いでは手に入らないから別の方面で努力するけど」
「良いね。頑張ろ」
「はぁ・・・まずは気付いてもらうところからね」
「ん?」
「似た者同士が仲良くなるとはよく言ったものだわ」
そう言うとどこかへ消えていく。
「目標が見つかったようで何よりだ。さて、僕もディールの所行くとするかな。僕の目的の為には彼の協力が不可欠だ」
立ち上がって軽くストレッチをする。
「ともに戦える日を楽しみにしてるよ?蒼矢」




