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105話:剣

さて、リンから貰った空間には剣術指導希望の人がいるわけだが。


「母さんは本気か?」


「本気よ。久しぶりに体でも動かしたいし、息子と同じ景色も見たいしね」


「俺と同じね。厳しいぜ?」


「承知の上よ。それじゃ、宜しくお願い致します。師範」


「はい、お願いされましたっと。さてさて、詩歌、相楽、堂本、香坂、姉貴、母さん。まずは6人で俺と乱戦するぞ」


「はい!・・・って、はい?」


「え?いやだから、1対6やるよって」


「いや、最初から実戦なの?」


「俺の剣は戦いの中で磨かれたものだ。それを学ぶにはまず斬られるっていう感覚を知る必要がある。まあ今回はこのクッション材で出来た奴だから痛くは無いよ。あ、それとここでの1時間は現実世界での3分。つまりだ。ここで20時間やりこんでやっと1時間が経ったって計算になるから時間の問題は安心してくれ」


「いや、みっちり出来てありがたいけどそんなに腕持たないよ」


「バーカ。土日も1時間ずつやれば次の体育までには相当強くなってるよ。ほら、その木刀で来い。大丈夫だ。戦争を知らないやつの剣なんて寝てても躱せるから」


「言うわね」  「言うじゃない」


7分後・・・


「当たらない・・・」


「なんでぶつかるの」


「体捌きが・・・違いすぎる」


「あの4人はこんな化け物とやりあってたってのかよ」


口々に感想を述べる。とりあえず師範役としての実力は示せたし、相楽は良い事を言ってくれた。


「そう。対一にしても対多にしても身のこなしが出来てなきゃどれだけ技術磨いても勝てない壁が出来てしまう。勿論、腕の筋力もいいつけ方を教えるし、技術も教えるけど何より、柔軟性を始めとした自分の体の改造。これがゴールなんだ。今日は金曜日。日曜日のラストにまた乱戦やるけど、その時は俺に当てられるようになれよ?そんじゃ修行の開始だ」


まずは素振りの正しいやり方。それから歩いたり走ったりしながら剣を振る練習。そんな基礎を今日は叩き込む。筋肉痛とかは安心しろ。リンに作ってもらった疲労回復薬があるからいくらでも出来る。ってマズ!俺だったら飲みたくねえわこんなもん。







開始から14時間。詩歌とかの戦闘経験あり組はもう出来てきた。問題は・・・


「やぁ!」


姉貴の剣のセンスが壊滅的な事。後6時間しか無いからさて、どうしたものか・・・


母さんはあと少し。香坂は才があったんだろう。綺麗なフォームになっている。


「姉貴ってさ、1年の時サボってないよな?」


「うん。成績も4取ってたけど」


「ふむ・・・荒療治行ってみるか」


「荒療治?」


「ああ。姉貴には今から死のイメージを見せる。それで殻を破れるかもしれない」


「死のイメージってそんなの出来っこなくない?」


「この場合の死はな?圧倒的質量の剣気だ。これを受けるとまあ心が弱ければ精神終わるが乗り越えれば強くなれる。どうする?」


「ほかの方法は無いの?」


「あるにはあるが、動きながらの素振りもピタッと止められてないんじゃ、時間だけが過ぎていくだけだぜ?」


「そうだね・・・お願い」


「ちょっと待って!精神ってどういう事?」


「死を疑似体験するような物だから自分の死という事実を受け止められなきゃって所さ」


そう言うと俺は集中する。ほどなくして


「う゛っ、すごいきもちわるい」


「何これ」


俺の周りを取り巻く何かに皆が気付き始める。


「姉貴。耐えてみろよ?」


一気に開放した剣気は一直線に飛んでいく。





















「耐えてみろよ?」


私はその言葉の意味を理解出来なかった。剣気とは?そんな考えだったことがまるで馬鹿だったと思えるほどにこの後苦しむことになるなんて思いもしてなかったけど。


ある時からだ。いきなり体の力が抜けた。それだけじゃない。辛うじて開いている目で蒼矢を見てみるとさっきまでとは違う、「絶対的存在」とでも比喩するような感じに見えた。まるで別の存在にでもなったような。


そしてもう一つ気付いた事があった。呼吸もままならず薄れゆく意識の中で見えた皆は平気な顔をしていた。なんで?私はこんなに苦しいのに。それでも、この今ある力が抜ける感覚、徐々に薄れる意識が蒼矢の言ってた死なんだと悟ったところで私の意識は途切れた。

























「案外もった方だな」


「ちょっと!意識失ってるじゃないの!」


「ああ。こうじゃないと荒療治にはならないからな。それよりも、失禁もない。既に呼吸が整い始めてる。姉貴はマジで育てれば剣豪クラスにはなれるかもしれない」


「それよりもって・・・ねえ、大丈夫なのよね?」


「ああ。大丈夫だ。20分もすりゃ目を覚ます。今回はあくまで筋肉を麻痺させるほどじゃないから。まあ後遺症も無いだろ」


「・・・ねえ。こんな光景が戦いだって言うの?」


「戦い?こんな生温くないよ。一面屍と赤色しか見えないなんてのが所謂激戦地だ。長期化した戦いならよくあるだろうしな」


「ちょっと気分悪くなってきたかも」


「・・・それでいい。そんなの慣れるな。だが覚えといてくれ。俺が日曜日まで教えるというのは惨状を作り出す技を手に入れる土台が出来上がってしまうという事だ。だから、力は使いようだと色んな奴が言ってるんだ。それでもまだ俺から学ぶか?まあ剣道の授業レベルなら毎日の筋トレで軽く追い越せる」


冷酷な目に一瞬で切り替わる。そしてこう言った。


「これ以上の力を・・・あなた達は欲しますか?」


























今日のメニューが終了した。


これ以上の力を欲するか?

この問いにまさか全員がはいと答えるなんて想定外だった。何せ、普通の感性なら望まないだろうと思っていたから。


中二病真っ盛りの男子でもないのに、剣を極めた末路も見せたというのに、一人に至っては死ぬという感覚を教えたのに。みんな逆に気合が入ってしまった。


人に刃をを向けるという事を一応理解してそれでも剣を振ることを選ぶ。本当女性ってのは逞しいな。そうでもなきゃお腹で子供を育てるなんて無理って事か。


驚いたと言えば姉貴だ。一振り一振りの力の入り方が自然になっていてとても20時間しか指導を受けていないなんて思えない。今の姉貴なら乱戦の戦い方さえ教えれば不良5,6人なら相手に出来るだろう。


さて、こんな最中でも情報収集だけは欠かさなかった結果、星連会の上、美濃連合がどうやら動き出したと聞いている。この土日何も無ければ良いななんて思った。


明日は俺が持ってる真剣(軽めの)を持たせてみようと思う。剣を学ぶ上で避けては通れない人の命を奪えるモノの重さ。それを知ってもらうんだ。


そして理解してもらおう。人に(きっさき)を向けるという事の意味を。そして俺が戦いを避けた理由も。







あれ?さっき俺フラグ建てたか?

ちょっとしたら名言製造機が現れますのでお楽しみに。

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