104話:ボスの思い
「それで?蒼矢、詩歌ちゃん」
「はい」
「学校からはお昼には帰らせたって聞いたのに帰ってきたのは6時。はて?どういう事でしょうかね。崎田先生嘘ついているのかしら?」
「いえ、本当の事ですね」
「ふーん・・・で?何をしていたの?」
「カラオケに行って」
「ボウリング3ゲームやって」
「優雅にコーヒー飲んで帰ってきました」
まるで台本でもあったかのようにハモってしまった。
「全く、一体学校で何があったのよ」
「本当にすみま・・・え?」
「え?じゃないわよ。蒼矢一人ならつゆ知らず、詩歌ちゃんまでもがこんな不良行為するなんて何かなきゃあなたたちならやらないでしょ?」
「・・・言わなきゃダメですか」
「ダメです」
深いため息をつく
「転校してきたんだよ。あいつが」
「あいつ?」
「筒香 里穂って言えば分かる?」
「筒香・・・ってまさか!?」
「消えていなくなったと思ったのに」
「蒼矢はいきなり取り乱す程だったんで気分転換でもさせないとって思ったんです」
「そういうことね。確かに、それなら気分転換って意味も分かるわ。予め知ってたんじゃないの?」
「いや、当日になって知ったよ」
「そうなの。なら今回の件は不問とします。で・も・ね?そういう事なら連絡は寄越しなさい。心配したんだからね?」
「すみませんでした」
「にしても彼女か・・・沙羅にも言わなきゃね。絶対接触しないように」
「ああ」
「なんで戻ってきたのかしらあの子」
桐生家では不安が空気を満たしていた。
同時刻、某空港にて
「久々だな、祖国も」
一人の少年が降り立った。格好だけを見れば一人で日本を観光しに来たようにしか見えないが
「俺の目的はなんだ?誰にも文句の言われない程の力とテッペン取る事だ。その為にもうこの国来なくてもいいように来たんだ。世界を見てみればこんな閉鎖的な国のテッペンよりもやっぱ向こうだな」
等と独り言を呟いていると
「何かお困りでしょうか?」
職員と思しき女性に話しかけられる。テッペン取ると言っているこの男の反応は
「ふえ?あ、あ、大丈夫ですよ」
童貞丸出し、まだまだ子供であるかのような反応であった。
「ふぅ、よし!気を取り直して」
次は目的地へ向かうための電車に乗るという試練に向かう。
「時刻表通りだと4分後か。まあ、来るとしても10分後くらいだろう」
彼の拠点としている国は鉄道のダイヤが守られるほうが珍しい国。そんな感覚でいたら
「まもなく○○行、○○行の電車が到着します」
「ん?え~~~!?時間ピッタリ?」
正確な電車の運行に驚くのであった。
「つ、着いた・・・やっと家だ」
やっとの思いで、日本の家に辿り着く。
「ふーん、一人暮らしするなら丁度いいか。協力者には感謝しないとな。良い家を手配してくれたもんだ」
一見中二病かな?と思ってしまうような事しか言っていないが、彼はある目的の為にこの国にいるので別に痛い人ではない。
「さて、今日はもう遅いし報告だけして寝るか。件の高校への編入は明後日、明日は俺という人間がどう噂されていたのかを調べなおすとするか。石川 泰麒は一体どんな人物として知られてるんだろうな。おっと、いけない。俺は新藤 拓人だった。石川 泰麒はたしか・・・俺が日本を出た時に死んでいるんだったな。別に復讐をしたい訳ではないが、あの時のクソ共がのうのうと生きているというのなら人生終わらせてやるってのもまた一興かな」
怪しげな笑みを浮かべながらパソコンを開く。そしてビデオ通話を繋げた。
「お疲れ様です。コードネームI、無事拠点に辿り着きました」
「ふむ、ご苦労だった。久々の郷土はどうだ?」
「ええ、電車の正確さや人の丁寧さには頭が上がらないですね。我々もそう言った点は学んでいくべきだと初日に気付けました」
「そうか。さて、これからどうするのかを聞かせてもらおう」
「はい。今回の目的は星連会に単身で勝利を収めたという人物の調査及びその人物の脅威度を判断する事、それから私が過去にケリをつけるという2つがあります。つきましては・・・」
今後の予定を全て話すと
「そうか。では、こちらからも指示を出す。まず一つだ。ターゲットの情報は分かり次第伝えよ。こちらでも調べてみる。そしてもう一つはちゃんと友達と何かをやるという青春を楽しんでこい」
「精一杯頑張ります・・・って今なんと?」
「青春を楽しんでこいと言ったが」
「いや、まあ仕事の空きがあまりに出るようだったらですね」
「それで構わん。今しかできない物だ。同年代と何かをやるというのは。少しでいい。体験しておけ」
「はい!ボスがそう仰るのなら」
「それではダメなんだが・・・まあ仕方ない。帰国の際には3日前には伝えてくれ。迎えの者を行かせる」
「ありがとうございます」
「よし、それではお開きにしますかね。I、疲れただろう。今日は任務は忘れてゆっくり休んでおけ」
「は!」
電話が切れる。新藤は大きなあくびをした。
「さて、そんじゃ明日調査をしっかりする為にも寝るか」
「泰麒・・・まあそれも仕方ない事か」
石川泰麒が偽名を使った理由として、かつて住んでいた地域で、死んだはずの人間と同じ名前だと気付いた人が現れた際に面倒だからだと言っていた。しかし
「お前の気持ちを計れない私達だと思うか?お前が忌々しいと思う親から貰った名前だから名乗りたくないという事くらい感づいておるわ」
マフィアとは言えど結局は人間。仲間にはどうしても優しくなってしまうのだ。
「お前を最初に見た時は驚いたのだぞ?それこそお前は今にも死んでやるとでも言わんばかりの、私ですらこれが死に前向きに向かう人間なのだと気付かされたくらい酷かったな。何があったかを聞けば察することは容易い。非合法の中で生きる私だが、お前を放ってはおけなかった。正しきことをして咎められ、擁護してくれるはずの存在にも責め立てられた。いかに辛かっただろうな・・・
だから私は私の後継者としてお前を育ててやろうと決めた。まだ小学生、伸びしろは色々あったし、何より優しい子。いずれは人の上に立てる素質を有していた。ただ一つ想定外だったのはお前が戦闘に関して天賦の才があったこと」
そこまで言ってため息を吐く。
「今回の協力者も、優しいがゆえに大切な物を傷つけられたのだったな。ヤクザは悪。反社会的は排斥。あの国は異端を排除したがる。本当愚かだ。パワハラとやらが話題らしいが、言ってしまえば恫喝に似た暴言なのだろう?そんな事を言うなど、ヤクザと何が違うと言うのだ?違いと言えば、反社会的か社会的かそうでないか判断したというただそれだけ。あの国は気付け。この化け物がもしも優秀、真面目がゆえに不当に虐げられたのならば・・・その刃はお前達へ向くことをな」
ボスと呼ばれるその人は窓の外を眺めに窓際へ立った。
「泰麒、人というのは殺すのは簡単だが生まれさせるのは膨大な労力と時間がかかるものだ。同じく、人を悪に染めるのは簡単であり、光に染めるのは難しい。お前が早まらない事を・・・祈っておくよ」
言い終えるとかけてあった上着を手に取り、羽織る。そして部屋を出ていくのであった。
ボスを凄く良い人にしてみました




