103話:一人目の転校生
先生に喧嘩を売り、デカめの組織にも喧嘩を売った男子高校生。それが俺、桐生蒼矢です。
最近周りの男子達が羨ましい。なんで女子と話せるってだけで鼻の下伸ばせるんだろうか。別にその先に進むわけでもないのに勝手に期待していくそのバカさ。嫌いじゃないけどね。
今日の朝もまたそんなバカな男子が大勢現れているのだが
「おい聞いたか?転校生が二人も来るらしいぞ?」
「しかも一人はうちのクラスらしいじゃねえか」
「可愛い子かな。男だったらイケメンじゃないやつが良いな」
「だよな。俺達が余計にモテなくなっちまう」
「お前らバッカじゃねえの?今の今までモテてないんだから、そんな可愛い子が来たところでモテるとでも?」
「あ?おめえだって同じようなもんだろ」
「そうだぞ」
「良いのか?俺達全員モテないって自白してるぞ?」
「お前無駄に自覚しっかりしてるのな!」
朝から賑やかなこった。転校生と言われても今は石橋の事、言うてまだ回復はしきってない伊藤のフォローもちょくちょくやってるから正直二の次だ。
その後担任から聞いた話だが少し遅れてうちのクラスの転校生は来るらしい。しかも男だとそう聞いた瞬間の男子共の意気消沈の姿には流石に笑ってしまった。
今日はこの後剣を教える事にもなっている。姉貴に香坂に相楽に・・・全部で6人か。中々なハードワークだ。
剣は相当の天賦の才が無ければ良い師に教えてもらっても1ヶ月で達人クラスなんて無理だ。俺だって魔法併用してやってたから早かっただけ。正攻法でやったら半年は軽く越える期間が必要だったはずだ。
まあ単純に授業の剣道やるくらいならそんなにガチガチにはやんなくても大丈夫だけど、香坂とかはまず筋力を作るところからだ。
なんで俺が面倒を見るかって?単純だ。竹刀とは言え相手に勢い殺せずぶつけたら最悪病院送り。ならそうならないために手ほどきしようっていう理由が一つ。
それと、最近物騒な事も多いから自衛手段の為でもある。石橋がいつ本格的に仕掛けるか分からない。少なくとも操躯には負けないレベルまで育てるつもりだ。
まあそこまで行ったらこの国では相当上位の実力者だろう。そうすれば授業の中の練習はかなりのイージーモードだと思う。俺も剣道は知らないから基礎だけを教えるつもりだ。
さて、他にもテストまであと1ヶ月を切っているし、案外やる事は多い。そんな転校生に一喜一憂する暇も余力もない。
そう思ってたんだ。その転校生の名前と顔を知るまでは。
事件は昼休みに入って15分くらいたった時に起きた。この日はみんなでご飯を食べてた。それこそ他愛もない話をしたりしながら。
外では元気にバスケをする声も聞こえる。女子達は話題のスイーツの話で盛り上がってる。男子は、なんでエロゲの話してんだよ。買っちゃいけないだろ。
そんなツッコミを入れながら食べ進める。いつもと変わらない日常。自分でも思った。この流れは何かある予感って。
ふいにある声が会話に入ってくる。
「なあなあ見たか?例の転校生」
「ああ!可愛い子だったな。あれは人形みたいだったわ」
「あの子とお近づきになりてえ」
「いやーどうだろ。転校前にもういる気がするわ」
「それでも俺は諦めねえわ。彼氏がいないなら彼氏になってやるし、いたならいたで奪ってやるわ」
「え、ちょい引くわ」
やっぱり普段とは違う何かにつられるのが人の性か。しかも人の彼女奪うとかどこのエロ同人だよ。あ、やべ。見てるのバレる。
「へえ、そんなに可愛いんだ。見に行こうかな」
「なんだ煉牙。狙ってんのか?まあお前なら行けると思うぜ?」
「それ言うなら剣道こなせるお前の方が脈ありっぽいだろ」
「近くに女子がいるのに他の女子の話するんだ」
「え?まさか東雲俺の事・・・」
「あ、そうじゃないから大丈夫よ」
「なんなんだよチクショウ!」
「颯斗フラれてて草しか生えねえわ」
まあ男子はバカだけどこういうのが楽しいから嫌いになれないんだよな。
「そういやあの子名前なんだっけ?」
「お前覚えてないで告るつもりだったのか?里穂ちゃんだよ」
ふーん里穂か。里穂?どっかで聞いた事あるような・・・
「そうそう!筒香里穂。いやー、マジで狙おっかな。って、筒香なんて苗字初めて聞いたぜ?」
筒香?り・・・ほ?
「それな」
「なあ!」
俺は思わず詰め寄ってしまう。
「うぉ!桐生じゃないか。なんだよ、お前も彼女ねら」
「筒香ってのは・・・ホントか?」
「ああ、そうだけど。どうした?そんなに取り乱して」
「あ、・・・いや、ごめん。教えてくれてありがとう」
「おう」
俺の思考は一瞬で埋め尽くされた。筒香という珍しい苗字。里穂という名前。俺の記憶にはそんな人・・・一人しかいない。
「あいつが、帰ってきた?」
「おい蒼矢。どうした?」
「何かあったか?顔色クソ悪いぞ?」
「だ、大丈夫。ちょっと急にクラって来ただけだ」
「いや、でもお前」
と、そこへ担任が来る。
「あ、先生。なんか蒼矢の気分が悪そうなんです」
「ほう。どれ、見せてみろ」
先生が俺の顔を覗き込む。
「ふーむ、悪い事は言わん。今日は帰れ」
「は?」
「は?じゃない。明らかに疲れ切っている。しかもこの感じは・・・トラウマによるものだ。ぐっすり眠るか気分転換するか。何にしろこのまま授業を受けていても頭には入らないだろう」
「まあ・・・そうっすね」
「ならば帰れ。なに、明日また元気に登校してくれればそれで良い」
「それじゃ・・・お言葉に甘えて」
「ねえ、もしかしてだけど」
「どうした?桜木」
「あ、いえ。私も付き添いで帰ります」
「じゃあ車私が呼びましょうか?」
「東雲の提案はありがたいが、それだと親御さんに迷惑がかかる。桜木。頼んだ」
「はい」
こうして俺の帰宅が決まった。
帰り道。
「ねえ、里穂ってもしかしてあの時の?」
「ああ、恐らくな」
「そうなんだ」
「やっぱさ・・・トラウマって簡単に消えないんだよ。もう好意が消えてたとしても」
「無理はしなくて良いよ。最近ずっと戦い続けてたんだからどっかで休むのも大事。今日は寝たら?」
「・・・多分さ?これは寝たんじゃ治らない。剣でも振ってないと忘れられない」
「そういう事にして教えてくれるんだね?真面目だから色々抱えちゃってるんだね」
抱きしめられる。良い匂いもする。
「泣く事が恥ずかしいって思うなら家に帰ったら泣いちゃっても良いんだよ?家にはあなたを知っている人しかいない。男だから泣いちゃいけない訳じゃないの。もう勇者じゃないんでしょ?なら、辛いなら泣こ?一旦吐き出しちゃおうよ」
「泣けるわけがない。確かに傷ついたさ。告白した事を嫌だと言いふらされて家族にまで攻められたけど、全ては俺が告白なんて真似しなきゃ良かっただけだから。自分で蒔いた種だ、泣くわけには・・・いかないんだよ」
「そうばかり考えてたからあなたは壊れた」
「ああ。自覚出来る程にな」
「壊れたから世界も救えた?」
「だろうな。普通の神経してたら殺戮が当たり前の世界で殺戮は最低限なんて言うと思うか?」
「そうね。そして私も美奈ちゃんもあなたに助けられた」
「力を持て余したガキの暴走だよ」
「良いじゃない、誇れば。誰もが見捨てた存在をあなたは助けられる。そのお陰で今私が隣にいられるんだって、壊れたから今の自分がいるんだって・・・そう思うしかないんじゃない?」
「まあ、そうかもな」
「それにさ?蒼矢が悪い事したって言ってもほとんど善行の為よ?たまには反論の余地もないような事しても良いんじゃない?気も紛れるかも」
「例えば?」
「カラオケにボウリング。気分悪くて早退したのに遊びまくる。この背徳感良くない?」
「優等生にやれと?」
「成績だけで良いじゃない。優等生は」
「だな。付き合ってくれるか?俺のプチ傷心旅行に」
「もちろん」
隣にいてくれる人、支えてくれる人の大切さ。荒んだ心ではどうしても忘れがちだ。それでも、こうやって思い出させてくれる。俺は本当に、良い友を持ったと感謝でいっぱいだった。
次回、担任の激怒?




