102話:イシカワ・タイキ
「イジメ?それは本当か?」
「ああ。調べた限りだが、11,2の子供が受けたらまあ壊れちまうのも分からなくはないって思える内容さ」
「そんなにヤバいのか?」
「胸糞は悪い。だから飯終わるまで待ってんだ」
「マジか・・・お前がそんなに言うのかよ・・・」
「さて、そんじゃ話すけどよ・・・マスターは殺気とか絶対出すなよ?」
「善処します」
「ふぅ・・・イシカワ・タイキってのは」
それは桐生沙羅が小学5年生の時だった。当時の小学校では小さな子供がどうしてもやりがちなイジメはあったものの、まだ社会問題として捉えられてなかった時代だった。そのクラスには一人の男子生徒がいた。その名は石川 泰麒。クラスではお調子者でありながら勉強も出来たため、みんなから人気があった。
小学生の時にたまに流行る○○菌というイジメ。ある女子がその被害に遭っていて、さすがに見ていられなくなった泰麒はあるときこう言った。
「おいやめろよ。こいつに菌なんてないだろ?」
自分達の意に沿わない人間を排除したがるのが人間。それは子供でも変わらず
「せいぎのみかたきどりか?」
「うっざ。死ねよ」
「お前も菌あるだろ。泰麒菌だー」
そこからとんとん拍子にクラスの人気者は被害者へと変貌した。
「ここまでしか調べられなかったけどこの後何かがあったんだ。それのせいでラムール・ジュバに・・・」
「そうだな。いじめられて姿を消していたは置いといて、問題はなぜ今テロ組織にいるのかだ。それが分からないと何故幹部になったのかも分からない。姉貴が小5の頃だろ?血も滲むような努力をしたはず。そんな執念がどこにあるのか。それを俺達は・・・知らないといけない」
「イジメか・・・私達が人間に追い回されたのも同じなんだよね?」
「ああ。異端とか不純物を排除したがるのが人間だからな。子供のうちにそれを強く咎めないで育ってきたからこの国は異端に厳しいんだよ。異世界より厳しいぜ。というよりもグロニス。俺はその程度じゃ頭に血は登らないぜ?」
「どうだかな。ちなみにだがな?詩歌。私はマスターみたいな異端がいなかったら今こうして人間と関わっていないぜ?戦うことが常識だった場所で、殺さないなんて綺麗事打ち立てたんだ。ま、流石は遊侠なんて呼ばれるだけはあるな」
「その呼ばれ方嫌いだって言ってるじゃん・・・まあ良いや。とりあえず姉貴には俺の方から聞いてみる。また何か分かったら頼むわ」
「ういよ。そんじゃあな」
桐生沙羅は思い出していた。
丁度この日。小6のあの時、彼が行方不明になったと聞いた。クラスの何人かは逃げたとか言ってたけど、今考えてもおかしい。まだ小学生の子が親も警察も見つけられないなんてそんなのおかしいって当時思ってた。だからなんとなくだけど思うの。彼は生きてると。
でも手がかりもないし・・・なんで今彼を思い出したんだろう。多分だけど蒼矢に似てるからだ。誰かの為に危険を顧みない姿に彼を重ねたのかな。あの時私は何もしなかった。出来なかったししなかった。助けてイジメられるなら助けない方がいい。そう思ってたから。
私は弟よりも劣っている。私がかつて否定したあの子の男の部分も今は取り戻してると思う。ただそれが、私じゃなかったのがすごく悲しい。他の女があの子に与えてくれたんだ。少しパンツとか見せたけどそれじゃダメだったらしい。
それに・・・詩歌ちゃんが弟を支えてくれている。家族なんだから頼ってとか言ったけど頼れるところなんて一個もない。
こう思うと私に関わる男は心に傷を負うような人が多い気がする。昔そんなに活発な女の子じゃなかった時に私をみんなの輪に入れてくれた子に私は恩を返せなかった。会いたい。ごめんなさいと言いたい。声が聞きたかったと言いたい。
今どこにいるの?泰麒君。
同時刻。世界のある場所にて。
広い部屋に9人の男が座っている。
「それにしても、緊急の幹部会とは・・・いったい何の要件です?ボス」
「Iから話があるそうだ」
「俺達を呼びつける程か。任されてた件だとは思うが、つまんねえ提案でもしようもんなら分かってるな?」
「ええ、皆さんにも納得していただける案が完成しましたので本日はそのご提案を幹部の方々に」
「だそうだ。時間も惜しい。早速始めてくれ」
「はい。まず今回は、日本の星連会が潰された事件の調査結果とそれに対する措置の提案です。ではまず調査の結果の方から。今回は取り立てを行っていた際に何者かに襲撃され、アジトまでやられたとの事ですが、まず襲撃者は1名。警察もいたようですがどうやら事後処理の為だけに呼ばれたようです」
「ちょっと待ってくれ。うちに比べりゃ小さいとはいえ一人だと?ふざけてるのか?」
「もしそれが本当なら敵になった場合脅威になります」
「うむ。日本は良いマーケットだ。失いたくはないが・・・本当にそんな化け物がいるならリスクが高すぎる。本当なのか?それは」
「はい。ハッキングして得た防犯カメラの映像と警察内部の音声から間違いないかと」
「・・・なるほど分かった」
「では続けます。次は案の方ですが、これについては慎重に調べながらこの1名の近くに調査員を派遣し、人柄、実力、関係のありそうな事を調べ上げてから再度の検討をするべきだと考えました。今は手を下手に出さないがベストかと」
「だそうだが否定意見や疑問は?」
3人の手があがる。
「そんな悠長にやってて良いのか?もう調査員は選んで送り込んであるのかと思ったぜ」
「そこは俺達の意見を仰ぐのが正解だ。独断は危険だからな。だが、その調査員が誰なのかは気になる」
「私は一つだけ。もう少し彼らがやられた時の情報が欲しい。よく状況が見えてこない」
「とのことだが?」
「情報に関しましてはもう少し調べます。調査員に関しては・・・私が行きます」
「な?」
「正気か?」
「まあ確かに日本人の構成員は少ないが・・・」
「私はあのあたりが出身です。今の私はあの頃とは違う。すぐに仲良くなりますから・・・ご安心を」
「Iよ。お前の事は皆が知っている。無理はせんでも良いぞ?」
「ボス。貴方に拾ってもらって5年近くが経ちました。私みたいなガキを何を思って拾ったのかは分かりませんが、私としてもここで生きていくために過去とは決別をしたいのです。だから・・・私に行く許可をいただけませんか?」
「ふぅ・・・お前は強い目になった。真面目で強い。これからもより良い男になる。頑張れるな?」
Iと呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべる。
「もちろん。そのご期待にお答えしますよ」
我ながら最後は良い感じに仕上がったと思う。




