24.無血戦争④
まさか、あのジェニーが敗れたなんて。あたしたちはしばらく掲示板の前で、ボー然と固まってしまった。
「ちょっと!あなたたち!どっちのファンなの?早く入場しないと席がなくなるわよ!」
あたしたちはハッとして受付の方を見た。係りのおねえさんが、こちらに向かって手招きしながら声をかけてきたのだ。
「もう満席に?」
なるほど、さっきトルベが言っていたのはこういうことか。人が少ないのではなく、すでにほとんどが入場を済ませているのだ。それにしても、この馬鹿デカイ闘技場が満席?
「あ、あたしたちは…」
あたしは慌ててアイリーンに貰った来賓用の観戦チケットを差し出した。
「あら、ずいぶん若いから魔法少女ファンかと思ったら、来賓なのね?来賓席は指定だから大丈夫よ」
そう言って受付のおねえさんは入場券と引き換えてくれた。
「あ、あの、そこの前回の結果って…」
「ああ、そうなのよ!わたしは前回の受付はいなかったから詳しくは分からないけど、来賓たちの間はその話題で持ちきりよ。だから中に入れば誰かしらに話が聞けるんじゃないかしら?」
なるほど、確かにそうか。来賓席には各ギルドの上層部が多く列席しているのだ。噂話が入ってくるに違いない。
「では、参りましょうか」
あたしたちは来賓用のゲートを通り、いよいよ闘技場の中に足を踏み入れた。
「……っっ⁈!‼︎……」
その瞬間だった。耳を劈く爆音があたしの脳天を貫いた。
そして目の前に広がる光景ーー
どこを向いても人、人、人。
その観衆のあまりの数にあたしは圧倒されてしまった。
「驚きましたか?これが、無血戦争です。大したものでしょう?」
既に何度も観戦歴のあるトルベが冷静に話しかけてきたが、あたしの耳には全く届かない。すべて歓声にかき消されてしまうからだ。
「まだ始まっていないんでしょ?何でこんなにうるさいのよ?」
あたしは声量を上げ、隣のマリーネに尋ねた
。マリーネは自分の声では届かないと確信しているようで、何も言わずただ闘技場の中央を指差した。
「あれは、魔法少女⁉︎もう始まってるの?」
「そうじゃねえ、あれはウォーミングアップさ。戦いの前に自分の身体と会場の空気を温めてんだよ」
この喧騒を物ともせず、突如背後からその声は聞こえてきた。それはあたしたち三人がよく知っている声だった。
「ハーヴィン局長⁉︎」
「よう、ここにいるって事は、うまくいったみてえだな、ルナ・シュタイン」
局長と別れてからまだ数日しか経っていなかったが、妙に懐かしい感じがした。マリーネなどは目を潤ませているようだった。
「あたしたちがここにいること、よく分ったわね。あ、もしかしてアイリーン?」
あたしは精一杯大きな声で尋ねた。しかしこれ、いつになったら収まるんだろ?
ーーーと思った途端、次第に喧騒は収まり始めた。
「あ、終わった。これで普通に話せるね」
「ああ、だがすぐに相手ギルドのウォーミングアップが始まるから、またうるさくなるがな。とはいえ今度はあっち側だから今程ではないけどな」
そう言って局長は観覧席の反対側を指差した。なるほど、次に出てくるギルドの魔法少女ファンはあっち側にいて、今しがた終わった魔法少女ファンはこっち側にいるって訳だ。
「あれ、でもここって来賓席じゃなかった?あたしたちはどっちのファンでも無いよ」
この疑問にはトルベが答えた。
「最上段はすべて来賓席なんです」
「あ、そうなんだ」
「あらあら、なにも知らないど素人が何で崇高な無血戦争の闘技場、しかもこの来賓席にいるのかしら?」
それはハーヴィン局長の更に背後から聞こえてきた。まるでリュゼのような、気位の高い耳障りなあたしの嫌いな声だった。一体誰だ。あたしは眉をひそめ局長の背後に目をやった。そこにいたのは声同様、高貴なドレスを身にまとった、もはや絶世の、と言えるような美女だった。
「あ、う……」
文句を言おうとしたあたしは、相手の圧倒的な存在感に言葉が出せなかった。
「なにしてるの………こんなところで何してるのよ、………ママ‼︎」
叫んだのはマリーネだった。
え、ママ?
えーーー‼︎‼︎




