11.青髭夫妻と熊さんとお嬢さん 一泊目!!
※ちょっといかがわしいです、百合っぽいのでご注意ください。
「ごちそうさまでした」
小食なお嬢さんがぺこりと言うと、イリア夫人は「あら、お気に召しませんでしたか?」と小首を傾げます。
「あ……えと、お腹いっぱいで」
「はんっ、どうせお茶菓子たくさん食ったんだろ。そこの棒っきれはともかく、お前は太―――いだだだだだっ」
「にゃーん」
「ええ、やっちゃいなさい、べーちゃん。」
「このっ悪魔使いが!!」
「お嬢さん、ソース付いてる」
「え!?」
今まで夫人の足もとで寝ていた猫ちゃんが急に伯爵の足に悪魔の所業を始めるのをなんともいえない顔で眺めていると、子爵の大きな指がお嬢さんの珠のような肌を拭いました。
真っ赤になって俯くお嬢さんに「お嬢さんはドジっ子だなあ」と朗らかに笑う子爵は、なんだか機嫌が良さげです。
「ああそうだ、ねえリーゼさん、明日―――私の絵を描いてくれませんか?」
「」
「おい、じゃあその間俺とテディは何すればいいんだよ」
「そこらでお絵描きでもしてたらどうです」
「冷たい!」
「じゃあ、男二人で久しぶりに狩りでも行かない?」
「……そういや最近行ってないな」
「大物頼みますよ!―――ねえ、リーゼさん?」
「え、あ……け、あの……」
まさかのお願いに固まるお嬢さんですが、話を振られて思い出すのは今日の熊さん殺人事件です。
咥えられた腕、襲いかかる小熊、背後で首を絞めて折る子爵、現れる親熊、退治する殿方二名、まさかの夫人による銃殺、目がぐりんとする熊、狐を仕留める猫ちゃん―――
(……どうしよう…何で私、こんなに弱いんだろう……)
殿方二人に勝とうなんて思いません。でも、あの(見かけだけだと温厚な)イリア夫人よりも格下な気がするのです。
片手に銃、足元に獣の喉を噛み切る忠実な猫を従えるような、…そんな大人に、いつかなれるでしょうか……。
「怪我……しないでください」
いや―――なれない。
お嬢さんは、大人になっても老婆になっても、きっと見送る側であり続けるのでしょう。
隣で役に立ちたいと願っても。お嬢さんは良くも悪くも"お姫様気質"なのです。
王子様が来ないと、何もできない。
「……ふ、は、っはっはっは!おお、怪我しないで泥だらけになって帰ってくるよ!泥落とすの、手伝ってくれるかい」
「は、はいっ」
「ヴェルンハルト様、ハンカチを忘れずに行くのですよ」
「お前は俺の母親か!それにあの、あれだ、準備に忙しいから持って行かないだけで…」
「忙しくてルンルン気分だから忘れるのでしょうに」
「にゃーん、にゃー」
「あ?てめーはイリアの足もとで媚び売ってりゃあいいだろ」
「そうですよ。今日狐を狩ったのだから我慢なさい」
「にゃーん…」
お嬢さんの言葉にはにかんだ笑みを浮かべて、子爵は元気よくお嬢さんの頭をわしゃわしゃと撫でまわします。
最後にやっぱり、髪を一房するりと撫でつけて。―――お嬢さんはなんだか恥ずかしくて、ますます俯いてしまいました。
でもぽかぽかしてきて、お嬢さんは自分の事なのに、これがどういうことなのかよく分かりません―――そんな、四人がきゃっきゃと胃にもたれる雰囲気で居ると、執事長が深々と頭を下げて告げました。
「湯の準備が出来ております」
すると夫人は、パッと八重歯を見せて、
「リーゼさん!一緒にお風呂入りましょう!」
私、妹いないから女の子だけできゃっきゃできるお風呂って入ったことないんですよー、とはしゃぐのに対し、時間の停止していたお嬢さんは口をパクパク、夫である伯爵は―――
「ダメダメ!絶対ッ駄目だ!!」
「えーっ」
「おま、お、俺がどんなに一緒に入ろうって誘っても頷かなかったくせに!!この顔だけの女には厭らしく誘うのか!!」
「まー口の悪い子ですねえヴェルンハルト様。うら若い娘さんを森に置き去りにして無理に逢引させようとしたヴェルンハルト様?リーゼさんから聞いたんですよヴェルンハルト様」
「うっ……で、でも!」
「言い訳は聞きたくないですヴェルンハルト様。誰かさんのせいで茶飲み友達もいないんですよ、私にも友人くらい作らせてくださいませヴェルンハルト様。もう二十歳真ん中ですよ?大人になってくださいヴェルンハルト様」
「な…名前連呼するな!」
「顔だけ女」にずっきりときたお嬢さんですが、夫人のネチネチとした責め方に同情してきました。
最終的にキレたのか負けたのかよく分からない伯爵は、拗ねてテーブルに突っ伏してしまったのですが。
「ではモントノワール子爵、ヴェルンハルト様、女どもは先に失礼させていただきます」
「ごゆっくりー」
「……ふんっ」
「…もう、ヴェルンハルト様?そんなに寂しいなら、入ればいいじゃないですか」
「えっ!?」
「―――男二人で。仲良く。裸体を暑苦しく見せ合ってお風呂に入ればいいじゃないですか」
「」
「あー、入っちゃう?」
「ふざけんな!!むさくるしいわ!」
怒鳴ると、伯爵は自棄酒を呷りました。
*
「良い湯加減ですねぇ」
「は、はい……」
「でもやっぱり、ふふ、若いですねえ。お肌ぴっちぴち」
「ひゃあっ…あ、あう……!」
「まあ可愛らしい。そんな怯えてないで、足をもっと、そう。……」
「あ、の……んっ」
「ほら、ね……イイでしょう?」
「んんっ!……ぅ…」
「ふふふ、力抜けますよねえ?私も母にされたとき、そうなったものですよ」
「ふ、……ぁ、アリア…せんせぇ…!――に、です、か……?」
「そうですよ。"お上手さん"になれば旦那様の寵愛を得られますからね」
「ひゃ、ああ!…ま、まってぇ、そこ、突かないで……!」
「あらあら、リーゼさんったら、今とても可愛いお顔をしてますよ?」
「やらあ!…らめ、んあっ」
「ふむ、だいぶ良い頃合いになりましたね。―――さて、」
「は………あ、ぁう……」
「次は美脚マッサージいきますよ」
「も、もういいれす!あの、あの……もうむりれす!!」
「駄目ですよぅ、リーゼさんの足は柔だから、ただの足ツボだけじゃあ……いいですか、若いからって胡坐をかいてるとおぞましい老後が待っていますよ」
「いやれしゅ!やっ」
「いいからお出しなさいっ」
「きゃあ!」
お風呂場で凝り固まった足をほぐしてくれた夫人の、絶妙な腕前に破廉恥な声を上げていたお嬢さんは、ぐすぐすと泣きながら浴槽の隅に逃げていました。
視界の端では猫ちゃんが泡だらけのもこもこの状態に何故かなっていて、今は石鹸を転がしながら追いかけています。
「ほら、いいですね、ちゃあんと覚えるんですよ。まず、こう!」
「ひんっ」
「で、こう回して……」
「く、くすぐったいれふ……」
「最後に―――」
「んんっ!」
敏感なのか、お嬢さんはなんだか苦しくてしょうがないのです。
お嬢さんが若いくせに凝りやすい体質と気づいた夫人は、よくベッドの上で伯爵にマッサージをしては日々健やかであるようにと頑張る、達人さんでした……。
―――妹が欲しくてしょうがなかった夫人は、その後体の洗い方から髪の洗い方まであれこれと口をだしじゃれだしてお嬢さんを苛め続けたそうです。
「………しむ………」
夫人を残して風呂から上がったお嬢さんは、逆上せてふらふらとしています。
扉の向こうでは狐狩りをした猫ちゃんを丁寧に洗う夫人の賑やかな声が聞こえていました…。
「……はあ、……でも体軽い……」
ルーディン家秘伝のマッサージはよく聞いて、気分は妖精です。
あとは水でも飲もう―――お嬢さんがのろのろと顔を上げると、侍女が着替えと布を手に待っていました。
そこからは皆さまのご想像通りあれこれと世話を焼かれたのですが、その度にお嬢さんは「これは私のですか?」と尋ねてしまいます。
というのも――――下着も、寝間着も、お嬢さんが鞄に詰めた物と違うのです。
お嬢さんが持ってきたものも確かにフリルがありましたが、でも子供っぽくて。寒がりなので長めの寝間着でした。
でも今身に着けてるのは薄布で何だか不安になるようなもの。寝間着なのに背も肩も露出してるどころか肌の色が浮いて見えるだなんて、まるで売春婦ではありませんか!
(…さ、さむい…)
顔に色々と塗りこまれると、「あら?」と声を上げた侍女の一人(なんだかのんびりした人です)が「お手紙がありましたよ」とお嬢さんに手渡します。
髪にもあれこれと塗り始める侍女に隠れるように、お嬢さんは手紙を開きました。
【あんな乳臭い下着を履いて、そんなので落とせると思っているの!?】
………。
第一文がこれです。字から察するに、お嬢さんの母の筆跡でしょう。
そういえば荷物詰めたと思ったら女中にパッと取られてしまったのだったと思い出したお嬢さんは、重たい動きで続きを読み――ガツンときました。
【伯爵はね!色っぽい美人しか相手しないんだから!!】
伯爵には奥様が居ます。しかもあんな良い人で、しかし喧嘩を売ったらエライ目に逢わされそうな方の旦那を寝取るなんて度胸も欲もありません。
これならいっそ、「子爵と寝てこい」と言われたか―――
(……え、あ、あああああ!!ちが、べ、別に、うん、そ、そりゃ、テディさん良い人だし、温かいしって、えっと?…あっと……)
真っ赤になったお嬢さんを心配した侍女さんが、ほんのりレモンの味がする水をお嬢さんに差し出してくれたので、有難く飲み干しました。
(……ごほん、えっと、……なんで伯爵?)
お嬢さんだって泊まる場所が分からなかったのに―――と首を傾げますが、実は子爵はお嬢さんに隠していただけでお嬢さんの家族には伝えておいたのです。
泊まり先を聞いたお嬢さんの家は……ええ、たぶん、自分の娘との婚姻が結ばれなかった故に、どうにも執着してしまっているのかもしれませんね。
それとも子爵を馬鹿にして、二股かけさせてあれこれ得をしようと思ってるのかもしれません。思惑の詰まった手紙です―――が、当然ながらお嬢さんはよく分かりませんでした。
それでも、
「…テディさんを、馬鹿にしないで」
熊さんだけど。パッと見、怖そうだけど。
口調がのんびりしてて、とても朗らかな人。でもしっかりしてる。ちゃんと、手を引いてくれて。
―――私を撫でる手が、とても愛しい。
「…あら、奥様も上がられるみたい」
「猫ちゃんを抱き上げる手伝いをしてらっしゃいな」
侍女さんの会話で、お嬢さんはハッと手紙をくしゃりと丸めましたが、雑に入れられたもう一つの手紙に気付いて、急いで読みます。……とてもびっちりとした字でした。
【なんでアンタ伯爵に媚び売ってんのよあの方は私の王子様なのよアンタみたいな根性悪は熊がお似合いよ!いいわね、私がどれほど気立ても良くて役に立って美人か!あんたのきったない口で教えるのよ!あと伯爵の今の奥様との仲も教えなさいねどーせあと数か月も持たないんだから!どんな馬鹿な女かよく見とくのよ!絶対伯爵には私が必要なのそれを××がお得意の×××して××とか!ああいやだわ×××な女って!……】
お嬢さんはお姉さんが大嫌いでしたが、何故か今は感謝を告げたいです。
すっごく。……気が抜けました。
(…あの人が伯爵とイリア様の仲睦まじいところを見たら、絶対発狂するわね)
そしてどんな薄汚い口で罵ろうが、夫人は爽やかな笑顔でぶっ刺し毒を盛り込むのでしょうし、背後からぶすりとやろうものなら銃でバーン!な気がします。もしくは猫ちゃん攻撃かもしれませんが。
「……わたしも、イリア様みたいになりたいな」
強くて、曲がらない。とても優しい人に。
*
なかなか「一泊目」が終わらない……。
わりとどうでもいい没シーン案↓
・肉を盛りまくる子爵。肉を食い千切るぬこ⇒つまんなかったので没
・四人の食後シーンで青髭夫妻がイチャイチャしすぎ⇒書いてて苛々したので没
・女の子の入浴ちょっとエロいシーンではなく野郎の汗が飛び散るシーンにしようとした⇒誰得なのか不明だったので没。
・入浴後お着替えシーンに力入れて長文⇒書き終わった後読み直してドン引きして没




