第六話 歓喜と交差
此夢望とテュール・トゥトゥリアや右往左往がコラボをするという話題は瞬く間にストリーマー、そしてVTuber界隈に広く拡散された。
その中に長年ストリーマーとして活動してきた杏仁豆腐豆腐抜きや、元プロFPSプレイヤーのアレックス・ほっとけがいたことも一役買ったのかもしれない。
此夢望はこのたった半年の間に話術とFPSの腕で一気にストリーマーとして話題になった人物だった。
白く長い髪に赤い瞳、白い肌。
リスナーからカラコンかと聞かれ「両目とも視力良いから」と答えたことで元からその色だということが証明された。
ストリーマーとしては珍しい名前に、最初はVTuberかと思われていたことも相まって話題になったのだろうと言われていた。
既に四人が集まっていたdiscordに、此夢望がインする。
『ワリ、遅れた』
悪びれもせず入ってきた望の様子に、テュールが思わず笑う。
「全然、まだ集合時間前なので」
右往左往の言葉に、望が「そ」とだけ答える。
『もう配信付けるわ』
望がそう告げて配信の準備をするように微かな物音が聞こえてくる。
『自由人だなぁ』
アレックス・ほっとけの言葉に、杏仁豆腐豆腐抜きが『マジで。でもアレくらいのほうがやって行けんのかも』と笑う。
全員が配信準備を始め、OBSを準備する。どうやら望はOBSの設定に手間取っているようだった。普段Twitchで配信をしているため、YouTubeでの設定に慣れていないのだろう。
『なあ、これ配信できてんの? リスナー見てる? 教えろよ、OBSの設定』
望の言葉にリスナーが答えて教えているのだろう、望の『なるほどな、これな?』という言葉が聞こえてくる。
『私も配信取るよー、みんな大丈夫?』
『オッケー、こっちも取る』
テュールの言葉にアレックス・ほっとけが答えてマウスを操作する僅かな音が聞こえる。
「俺も取ります」
『はいよー』
それぞれが配信を取り、全ての配信にVALORANTの画面が映る。
『こんにゃにゃー! みんな、テュール・トゥトゥリアの異世界配信にようこそ! 今日はなんとなんと!! 此夢望ちゃんを入れて、右往左往くん、アレックス・ほっとけさん、杏仁豆腐豆腐抜きさんの五人でVALORANTをやっていきます! 私のかっこいいシーンあったら、みんなコメントで褒めていってねー! あ! モンゴリアン鈴木さんスーパーチャットありがとー!』
それぞれが一旦ミュートにして、それぞれの配信へと移る。
『はい、どうも始まりました。杏仁豆腐豆腐抜きのどうでしょう! VALORANT! いやもうね、普段スト6ばっかやってる俺がVALORANT!? っていうツッコミは俺がし尽くしてるんで、今日はゆったり楽しんで見てってちょうだいよ。なんと、元プロのアレックス・ほっとけと最近FPSで一気に頭角を現してる此夢望さん、フレンドのテュール・トゥトゥリア、右往左往と一緒にね、やっていきます』
『よーっす、みんなヴァロやってるか? ってことで、始まりましたアレックス・ほっとけの趣味VALORANTの時間! 今回は事前に告知してた通り、テュールに誘われて右往左往、杏仁豆腐豆腐抜き、そして新人ストリーマーの此夢望さんと一緒にVALORANTで勝って勝って勝ちまくるっていう配信です! 良いじゃんココ! ってとこは切り抜きまくって拡散してって! ってことで、始まります!』
「右ヨシ! 左ヨシ! 上ヨシ! 右往左往が今日も来た! ってことでね、今日も配信をしていきますーが! なんとなんと、みんなも知っての通り俺は此夢望のガチファンなわけですけども、今日は告知の通りテュール主催のコラボ配信! 此夢望、杏仁豆腐豆腐抜き、アレックス・ほっとけと一緒にVALORANTで勝利していくってやつね、え? お前VALORANT下手だろって? そりゃもう、アレックス・ほっとけと望がいるんだから勝利間違いなしよ、任せとけって! ってことで、配信始まるから前に詰めて詰めて!」
それぞれが配信の文言を終えたところでミュートが解除されていく。
『やっとOBSの設定終わったわ。んじゃ、今日はコラボ配信な。コラボ内容とコラボ相手は……あー、“本日の此夢望の配信予定”アカウントに書いてあるから、それぞれ見るように』
ミュートにすらしていなかったのだろう望の前口上が聞こえて、四人が思わず笑い声を漏らす。
『今回はランクも差があるし、あんまりやったことない杏仁豆腐豆腐抜きさんもいるからアンレで良いかな!?』
テュールの言葉に、アレックス・ほっとけが『それが良いかもな』と応える。
アンレートモードへ入り、マッチングが成されてキャラピック画面へと移る。
望はいつも通りチェンバーをピックし、杏仁豆腐豆腐抜きがブリムストーンをピックする。
『俺コイツで良い? よく知らないけど、リスナーがコイツは煙出すおじさんだから補助するならオススメってさ』
『良いと思う! 私はレイズ貰うね!』
それぞれが選んでいく中で、右往左往はセージをピックする。
『セージ?』
「俺、やっぱあんまヴァロ上手く無いから、みんなの援護したいんだよな。チームを勝利に導くのに回復役は必須だろ?」
その会話を聞きながら、アレックス・ほっとけはソーヴァをピックする。
それぞれの強みを活かすキャラピックに対して、抜けているところを埋めるための情報役としてのピックなのだろう。
それぞれが自分の得意なこと、得意なものをメインとして持ち出しているのだ。
画面上にそれぞれの名前が出ている。
此夢望、アレックス・仏、テュール・トゥトゥリア、杏仁豆腐豆腐抜き、右往左往。
全員、YouTubeやTwitchを観ている人間なら知っている者も多い名前だった。
『みんな、アンレだから気負わずに行こうね!』
テュールの言葉に、右往左往が一番に「そうだな!」と応える。
『いや、そこは俺だろ! スト6メインだぞ、俺は!』
杏仁豆腐豆腐抜きのツッコミに、テュールが小さく笑い声を上げる。
『あ、鈴木一世・二世さんスーパーチャットありがとう! 頑張ってください、ありがとうがんばるよー!』
待機画面の中、ようやくゲームが始まる。スポーン位置でぐるぐると忙しなく動いているのは右往左往だった。
「お、君の鼓膜にキスをしてあげるぢゅるるちゅるちゅぱぱむちゅーるさん久しぶり! 元気だったか、お前! スーパーチャットありがとな!!」
『なんてなんてなんて?』
右往左往の読み上げた名前に、思わずアレックス・ほっとけが反応する。
「ちょっと前まで来ててくれてたんだけど、ここ最近姿見てなかったから、君の鼓膜にキスをしてあげるぢゅるるちゅぱぱむちゅーるさん」
『よくそれ噛まずに言えるな』
杏仁豆腐豆腐抜きの静かな言葉に、耐えきれなくなったのかテュールが吹き出す。
『YouTubeってそんなに長い名前使えるんだな』
ごく普通の調子で告げられた望の言葉に耐えきれなくなったのか、テュールが声を上げて笑い出す。
『も、やめてよ二人とも! 真剣な調子で言うから、面白くって!』
「そういえば!」
突然の右往左往の大声に、杏仁豆腐豆腐抜きが『うお』と声を上げる。それに怯む様子も無く、右往左往が言葉を続ける。
「望のNOVA GEARコラボパソコン見たんだけど、アレマジでやばいね!? 絶対買うわ!」
右往左往の言葉に、配信画面に映った望がにんまりとチェシャー猫のような笑みを浮かべる。嬉しそうな笑顔にも見える。
『だろ? ライト層からガチ勢まで使えるように、二〇万レベルから一〇〇万ちょい超えくらいまでのモデルを作る予定だから楽しみにしとけよ』
望の言葉に「マジ!?」と右往左往が再び声を上げる。
『へー、ストリーマーがコラボPC出すの珍しいな』
『そういうのVTuberのイメージだったね』
『同意見』
アレックス・ほっとけと杏仁豆腐豆腐抜きが話している間にも、右往左往は望へあれこれと話を聞いている。
『俺がいくらでも口出して良いらしいから、最高のもんに仕上げるつもり。マジで期待してて良いから。ただ、声録んのだけマジでどうにかしてくれねぇかな』
本気で嫌がっているかのような望の声音に右往左往が笑う。その時、スポーン位置の壁が消え、望が一番に駆け出して行った。
その後を四人が追い、それぞれの持ち場へ散開する。
『俺どこ行ったらいい感じ!?』
『テュールと望さんが接敵した時とかに煙出して、出し方は多分リスナーが知ってるから!』
杏仁豆腐豆腐抜きとアレックス・ほっとけの会話に右往左往は思わず唇を緩め、そして引き締める。望から引き離されないように必死だった。




