第四話 驚愕と邂逅
午後六時七分、鷺山めのこが起床すると枕元に置かれたスマートフォンに通知が入っていることに気が付いた。それに鼻から息を吐き出してから立ち上がり、髪を後ろで纏めて牛乳石鹸の赤箱で顔を洗い、リスナーにおすすめされた化粧水を適当に付ける。
そうしてからようやくスマホをスリープ状態から戻すと、Xのアイコンの上に二四件の通知を示す数字が記されていて、それだけで辟易とする。
Xを開くと、ほとんどはフォロー通知とリポストやいいねの通知ばかりの中、DMに二件の通知が輝いている。そこを開くと、一通はNOVA GEARからのもので、もう一通は知らない女性VTuberからのものだった。
先にNOVA GEARからのものを開けば、そこには先日のメッセージへの感謝と、納得のいくものを作りたいため試作品ができ次第使用を願う内容が記されていた。
『此夢望様
お世話になっております。
NOVA GEARマーケティング担当の笹本創です。
この度は弊社からのご提案にご返信いただき、誠にありがとうございます。
前向きにご検討いただけるとのこと、大変嬉しく存じます。
今回のコラボレーションモデルにつきましては、此夢望様にもご納得いただける製品として完成させたいと考えております。
そのため、試作機が完成次第、実際に此夢望様にご使用いただき、性能や使用感、改善点等についてご意見を頂戴できればと考えております。
頂いたご意見につきましては、可能な限り製品へ反映したうえで、最終的な仕様を決定させていただく予定です。
今後の詳細なスケジュールや仕様等につきましては、改めてご案内させていただきます。
何卒よろしくお願い申し上げます。
NOVA GEAR
マーケティング担当 笹本創』
まさか自分が口出しをして良いとは思ってもいなかっためのこは目を丸くして、胸の前で拳を握る。
普段筆無精で一切配信予定も書かないために非公式アカウントが彼女の代わりに配信時間と配信内容、プラットフォームを纏めているほどのめのこがすぐさまメッセージの返事へと取り掛かる。
『NOVA GEAR
マーケティング担当 笹本創様
お世話になっております。此夢望です。
この度はご返信いただき、ありがとうございます。
試作機について、ぜひ実際に使用させていただければと思います。
長時間のゲームプレイや配信での使用を通して、性能や使用感、気になった点など、可能な限り詳細にお伝えさせていただきます。
私自身、納得のいく形でコラボレーションモデルの企画・開発に携われればと考えておりますので、試作機の完成を楽しみにしております。
今後とも何卒よろしくお願い致します。
此夢望』
返信し終わっためのこは、続いて見知らぬVTuberからのメッセージを開く。テュール・トゥトゥリアというらしいブラウンのおさげに大きな丸メガネ、ソバカスにシスター服を着た女性だった。
『此夢望さんへ
こんにゃにゃー! 突然のDM失礼します!
個人VTuberのテュール・トゥトゥリアです!
以前から望さんの配信を見ていて、VALOめちゃくちゃ上手いな~! 一緒にやってみたいな~! と思ってまして……!
もしご迷惑でなければ、今度一緒にVALOでコラボしませんか?
日にちや時間は望さんの都合に合わせられます! Discordもあります!
もちろん難しければ全然気にしないでください!
お返事いただけたら嬉しいです!
よろしくお願いします!
テュール・トゥトゥリア』
そのメッセージに、めのこは数瞬考えてからモニターの前へと座り、電源を付けて配信を取る。VTuberのことを確認するため、その日はYouTubeでの配信だった。
配信を取ってすぐ、スマホが通知音を鳴らす。フォローしている此夢望の非公式アカウントのポスト通知だった。
『此夢望 18時45分
『VTuber勉強会』
プラットフォーム YouTube
URL http://~』
相変わらず早いなと、めのこはスマホを傍らへと置いてゲーミングチェアへ座り直す。
「えー、と。VTuberからコラボ依頼が届いたから、今日はVTuber勉強会とします」
──誰から依頼来たの?
──望に依頼するってことはFPS勢?
──まさかびーすたー?
──びーすたーは今度コラボするから無いだろ
「テュール・トゥトゥリアっていう女性Vだな、マジでV知らないからお前ら、失礼にならない程度に教えろよ」
そう言いながら、めのこはYouTubeでテュール・トゥトゥリアを検索する。メインプラットフォームはYouTubeのようで、自分で切り抜き動画やショート動画も作っている個人VTuberのようだった。
──テュルちゃん!?
──あー、よくヴァロやってるね?
──声可愛い
──おっぱいでっかくて眼福
「そういう情報じゃなくて、もっと理解しやすい情報寄越せって」
──登録者数7万人の個人勢で、活動歴は2年半。可愛い声とエロめの体がチャームポイント。普段はヴァロとエペメインで活動してるけど、どっちもそこそこの戦績。VTuberのフレンドが多めでよくコラボやってる
「そうそう、そういうの。お前分かりやすいな」
めのこは適当な切り抜き動画をクリックして動画を流す。丸メガネにそばかすの女の子が元気に「こんにゃにゃー!」と挨拶をして、早速VALORANTの画面へと移っていく。
そこそこの戦績という評価ではあったが、プロには劣るものの一般人よりは上手い程度の腕はあるようにめのこには見えた。
その時点でめのこは傍らに置いていたスマホを取りDMを開く。
『テュール・トゥトゥリアさん
DMありがとうございます、此夢望です。
コラボのお誘いありがとうございます。ぜひ一緒にVALORANTやらせてください!
配信も少し拝見しました。普段からヴァロやエペをされているとのことで、一緒に遊べるのを楽しみにしています。
日程については基本的にいつでも大丈夫です。
他に参加予定の方や、決まっている内容などがあれば教えていただけると助かります。
Discordも必要でしたらお送りします。
よろしくお願いします!
此夢望』
送信したDMに、即座に連絡が返ってくる。それに驚いためのこが軽く跳ねると、コメントが湧く。
──びっくりした猫w
『此夢望さん
わー!! ありがとうございます!!
めちゃくちゃ嬉しいですー!!
今回は5人でVALOフルパできたらと思っていて、私のほかに
・アレックス・ほっとけさん
・右往左往くん
・杏仁豆腐豆腐抜きさん
の3人にも声を掛けています!
アレックスさんは以前プロチームに所属していたストリーマーさんで、右往左往くんは私がよく一緒に遊んでる個人Vです!
杏仁豆腐豆腐抜きさんは配信歴の長いストリーマーさんで、普段はストファイをメインにやってます!
みんな此夢望さんと遊べるの楽しみにしてます!
日程が決まったら改めて連絡しますね!
あとDiscordのIDも送ってもらえたら助かります!
よろしくお願いしますー!
テュール・トゥトゥリア』
メッセージに送られてきた名前に、めのこは何度か瞬きをし、スマホを片手に口を開く。
「アレックス・ほっとけ、右往左往、杏仁豆腐豆腐抜きについて教えてくれん?」
──アレックスは元ヴァロのプロだけどびーすたーに2連敗してからプロ退いてるヤツ
──プロの時はアレックス・仏って名前だったな
──杏仁はストリーマー歴激長!もう10年以上?ニコニコの頃からやってる
──右往左往はテュルちゃんと良くヴァロやって遊んでる男性V
──ほっとけはストリーマー歴2年、プロ歴合わせたら5年?くらいで、登録者18万人
──右往左往のヴァロ歴は短めでエンジョイ勢って感じ
──杏仁はメインプラットフォームTwitchでフォロワー数70万人
──本職スト6。杏仁は
──FPSとかGTAとか誘われたら結構なんでもやってる
──右往左往は個人勢でもう4年?5年目?で、メインプラットフォームはYouTube、登録者数は11万人
「なーるほど? じゃ、俺そいつらとコラボするから」
めのこはそう告げると、DMへ自身のdiscord IDを付けて返事をしてからVALORANTを開く。
「ヴァロの話してたらやりたくなったからやるわ」
めのこの言葉から数秒後、再びXが通知を告げる。
『此夢望 20時38分
VALORANTへ移行』
「非公式アカウント、マジで仕事早いよな。いつも感謝」
──望が一切配信告知しないからな
──あのアカウント、望公認なのか
──お前のフォローアカウント、ノヴァギアとマクドナルドと本日の此夢望の配信予定だけだろ
そのコメントの流れに笑うだけ笑って、めのこはいつものチェンバーをピックして走り出す。




