第三話 出発と驚愕
さぷらいず所属プロFPSチームであるびーすたーとのコラボが決定した鷺山めのこは、増えた溜め息に辟易としていた。
そんなに嫌ならば断れば良かったじゃないかと、めのこの中の冷静な部分が告げる。
しかし、配信で、Xで告げてしまったコラボの件について、今更撤回などできるはずも無かった。此夢望のコラボポストには此夢望のファンだけでは無く、さぷらいずの、びーすたーのファンまでもがリポストやいいねをし、凄まじい勢いで拡散されていく。
これまでに投稿されてきた数多の此夢望の切り抜き動画もいつの間にか再生数がうなぎ登りとなっており、誰もがびーすたーと新星此夢望との対決を楽しみにしていることが見て取れた。
『此夢望様
広報担当の葉山ヤマネです。この度、此夢望様のdiscordを伺いたくご連絡差し上げました。
要件のみで恐縮ですが、ご連絡お待ちしております。
株式会社さぷらいず広報担当 葉山ヤマネ』
ヤマネからの連絡に、めのこは再び頭を抱えた。コラボがあると言うことはdiscordで直接話をすることもあるということなのだ。
何度目か分からない深々とした溜め息を吐き出し、めのこはパソコンの前へと座り、discordのインストールを開始した。
ブルーの特徴的なアイコンがデスクトップに並び、それをダブルクリックして開く。
此夢望のアカウントを作成するとdiscord特有の不思議な言い回しのされるトップページを流し見すらすること無く消して、そのIDをヤマネへと送り返す。
どうやら、びーすたーと個人勢とのFPS戦になるらしいとのことを、めのこはリスナーからのコメントで知った。
「へー、俺は個人勢とチーム組むのか」
配信中の此夢望からの言葉に、コメント欄は相変わらずだと笑う。
──びーすたーと望どっちが勝つと思う?
──まだ個人勢組全員出てないからな
──びーすたーとやり合うならぺーたそとかどりっどとかじゃね?
──どりっどはマイクラ勢だろ、FPSは下手
「ま、俺がいる方が勝つから。みんな楽しみにしてろよ」
──アナグマが勝つから
──ハチクマ最強
──びーすたーの方が強いからwwぽっと出の個人勢乙w
──びーすたーのファンって民度悪いよな
──勝ってくれ望!!
「なになに、お前らが騒いだって配信者がどうなるかは分かんないだろ。良いからそこで指くわえて見とけよ」
わははと声を上げて笑っためのこに、リスナーがいつも通りの望だと安堵のコメントを送っていく。
「さって、雑談はここまで。今日はCoDやっていくから、よろしく」
配信画面にCALL of DUTYのロゴが浮かび上がり、コメントが流れていく。
──COD?めずらしくね?
──エペじゃなくて?
──コラボはヴァロなんだしヴァロのがいいんじゃね
──望ってコッドやってたんだ
「そう、俺実はCoDやってたんだよね。配信外で。俺ニートだからずーっとゲームやってんの」
お気に入りのゲーミングマウスを指先で擦ってにんまりと笑う。
──飯頼んだ?
──飲み物用意した?
「やっべ! サンキュ、準備するわ」
──いまマック月見やってるけど
──マック、シャインマスカットシェイクやってる
「ばっか! シェイクは喉渇くだろ!」
──マックフィズ沖縄パインみたいなの売ってるけど
「それだわ、天才」
──お前毎日マクドだな
「マクド派ね、マクドって呼ぶの大阪だけ?」
──どこ住みか分かんないけど海皇の海鮮丼は美味い
──くら寿司おすすめ
「飲み物だって言ってんだよな。コメダにしよ」
そう笑って話していためのこの、此夢望として作ったXアカウントのDMへ気に入って使っているゲーミングパソコンの企業から連絡が入る。
「ちょっと待っててな」
コメダ珈琲のたっぷりミルクコーヒーとカツパンを頼んだめのこは、そのままXのDMを開く。
『此夢望様
突然のご連絡失礼致します。
NOVA GEARマーケティング担当、笹本創と申します。
この度、弊社NOVA GEARと此夢望様とのコラボレーションモデルゲーミングパソコンの企画・開発についてのご相談をさせて頂きたく、ご連絡致しました。
詳細につきましては、ご返信を頂き次第、改めてご案内させて頂ければと存じます。
NOVA GEAR
マーケティング担当笹本創』
配信画面に映るめのこの表情が一気に明るくなる。
──なになに?なにが起きた?
──望の笑顔で白飯5杯は食える
「すっっっげえ嬉しいメール来たわ。ま、追って話は出ると思うから、その日を楽しみに待ってろお前ら」
にまにまと笑顔を浮かべるめのこに、リスナーたちはざわざわとコメントを打ち込んでいく。
その時、インターフォンの音が鳴り響く。
「ちょっと待っとけよ」
ヘッドセットをミュートにし、めのこが立ち上がる。カメラに映った、シャツの裾から覗く太腿にコメントが沸き立つ。
──口は悪いけど体は良いんだよな
部屋へ戻ってきためのこは、片手に白いレジ袋を提げていた。口は結ばれており、UberEATSが届いたことが分かる。
──何買ったの?
──コメダ?
ヘッドセットのミュートボタンを押してミュートを解除しためのこが「カツパンとたっぷりミルクコーヒー」と答える。
──カツパン食えんの?
──でもコイツバーガー3つ食うし
「ま、そういうことでCoDやってくわ」
ロゴが浮かんだままだったパソコンを操作してホームへと入る。
このゲーム内で最も目立つだろう赤と黒のスキンを纏ったプレイヤーが現れ、その背後には原宿にあっても不思議ではないほどのショッキングピンクと水色にイエローのタンクが鎮座している。
その画面には、Top 250を示すランクアイコンと、その傍らに刻まれた“#10”の数字が燦然と輝いている。
──世界10位に名前載ってた此夢望ってお前かよ!!
──TOP250の10位草……草……
──世界TOP10マジで?
──お前、毎日配信7時間やってエペとヴァロ5時間やって、どこにそんな時間あるんだよ
「ニートだからだって。見るな見るな! 人のランク勝手に見るなよエッチ!」
──TOP250の10位の此夢望が本人で草
──まさかCoDまでやってるとは思わないだろ
──望さんに憧れてゲーミングパソコン買おうと思ってるんですけど、どんなのが良いか教えてください!
「俺に? いますぐ欲しい感じ?」
コメダ珈琲の袋から四つ切りにされたカツパンを取り出してかぶりついためのこへ掛けられた質問に、彼女は軽く首を傾げて指に付いたソースを舐めとってから問いかける。
──いえ!しばらくお金を貯めてからにするつもりです!
「じゃあもうしばらく待ってみたら?良いのが出るかもしれないし」
めのこの言葉に、コメント欄が「?」で埋め尽くされる。それに、めのこはひとつ笑ってミルクコーヒーへ口を付ける。
「さて、やっていくか。良いか、今日はCoDデー! エペは? とか、ヴァロは? とか言った奴は袋叩きにしろよ!」
めのこがバトルロイヤルの画面へ入ると、ハートのサングラスに全身ピンクの服を着たスキンが現れる。
「俺、LMG好きなんだよな。スナイパーにもなるし、マシンガンとしても使えてSMGみたいに取り回せるし。LMGとSMG持ってれば楽に戦えるし」
めのこの言葉の通り、エアドロップにはめのこが事前にロードアウトで設定した多種多様なLMGのみが綺麗に並んでいる。それはまるで、武器商人が自分のためだけに誂えた銃火器を広げているかのようだった。
八時間ひたすら雑談とゲームを続けて、結局一八試合中一七勝を重ねていた。
──やっぱ望ってバケモンだよな
──TOP250のマッチで結局何勝した?こわすぎ
「っし、じゃあ今日の配信はこれで終わり。お前らも飯食ってクソして寝ろよ」
午前二時五〇分。ようやくめのこは配信を切って、ひとつ伸びをする。
そして、XのDMを開いた。
『此夢望様
突然のご連絡失礼致します。
NOVA GEARマーケティング担当、笹本創と申します。
この度、弊社NOVA GEARと此夢望様とのコラボレーションモデルゲーミングパソコンの企画・開発についてのご相談をさせて頂きたく、ご連絡致しました。
詳細につきましては、ご返信を頂き次第、改めてご案内させて頂ければと存じます。
NOVA GEAR
マーケティング担当笹本創』
何度確認しても変わらずそこにある文章に、めのこはガッツポーズを取る。
立花勇人の頃からずっと使い続けてきたゲーミングパソコン周辺機材の企業からのコラボオファーなのだ、喜ばないはずが無い。
『NOVA GEARマーケティング担当笹本創様
この度はご連絡いただき、ありがとうございます。
此夢望と申します。
コラボレーションモデルの企画・開発についてお声掛けいただき、大変光栄に存じます。
ぜひ前向きにお話を進めさせていただければと思っております。
詳細についてお伺いできますと幸いです。
何卒よろしくお願い致します。
此夢望』
何度もメッセージに問題が無いことを確認しためのこは高鳴る心臓を抑えながら送信ボタンを押す。
数瞬、送信中のマークがくるくると動き、送信されたことを確認する。
めのこは一人、部屋の中でゲーミングチェアの背もたれへと深く凭れかかる。
さぷらいずから連絡が来た時とは違う、静かな充足感がめのこを満たしていた。




