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冴えないおっさんプロゲーマー、TS美少女で成り上がりプロゲーマーに返り咲きます!  作者: 田中


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第三二話 屋台と浴室

 夢梨さらばが両替所強盗を終えた時、既に時間は午前七時となっていた。

 Re:VIVALアジトのヘリポートへとスパローを下ろして格納庫へと片付ける。そして、ヘリポートから周囲をぐるりと見つめる。一階はプレハブ小屋にしか見えないアジトは、入ってみれば二階も屋上もある大きなものだった。

 体験するまでは分からないものだなと、さらばはゆっくり目を閉じる。


 GTAを落とした此夢望(このゆめのぞむ)は時間を確認すると思い切り伸びをする。大きな胸がTシャツを押し上げて双丘の形をあらわにする。首をぐるぐると動かすと、それだけでパキパキ音が鳴る。


「もう七時か、一旦終わるか?」


 疑問の形で落とした言葉と共にハンバーガーの包みを取るとミュートボタンを押して、冷めきって乾燥したハンバーガーへとかぶりつく。

 口内でもごもごと固まるそれをスプライトで無理矢理飲み下して、望は一つ、二つとハンバーガーを胃の中へと収めていく。いつも通りの無表情で、さして美味いとすら思っていない顔だった。

 スプライトはゲーム中に三本飲み終え、汗をかいた四本目を喉を鳴らして飲み下し、濡れた唇を手の甲で拭う。


──おつかれ望


──2時から7時までってまだ5時間だぞ


──まだじゃなくてもうなんだよな


──もうだよ、5時間は


──望いつも7時間やった後にぶっ通しで5時間とかやるだろ


 ハンバーガーを食べ終えた望がミュートを解除して、濡れて赤く染まった唇を開く。


「残り一週間しか無いんだから、やりたいだろGTA。ちゃんと」


 望がそう告げると、コメント欄が納得の声で埋まる。


──なるほどな


──分からんでもない


──うおちも残り1週間毎日インするって言ってたし


──テュルちゃんもね


──あと1週間しか無いんだ


──1週間しか無いの!?1週間って何日!?


──知らんのか?1週間は1週間だ


「……最初、右往左往から誘われた時はこんなハマると思わなかったわ。最初から参加しとけば良かったな」


 望は静かにそう言うとOBSの画面を開く。

 見慣れた画面だった。もう随分と長い時間、この画面と共にあったのだ。


「じゃあ一旦落ちるわ。寝て起きたらまたGTAやるから。“此夢望の本日の配信予定”アカウントはそう書いててくれるか? じゃあな、お前ら。また後で」


 その言葉と同時に望の配信が落ちる。

 そのままパソコンまで落とすと、鷺山(さぎやま)めのこはゲーミングチェアから立ち上がり思い切り伸びをする。肩甲骨や肘からパキポキと音が鳴り、気持ち良さそうな声がめのこの唇から漏れる。

 再度スプライトを飲んでからめのこはぺたぺたとフローリングを歩いていく。


 めのこが住む最上階の部屋はメゾネットになっており、部屋を出ると左側に階段が見える。不精なために初日以外上がった経験すら無いそこを無視して浴室へと向かう。

 湯張りボタンを押してから脱衣所の鏡を見る。

 大理石でできた大きな洗面台に、一抱えはある鏡。そこに少女の姿が映る。銀髪にも見える白く長い髪、猫のように勝気な赤い瞳、口角が僅かに上がっているせいで常に少し笑っているかのような口元。


「違うなぁ、やっぱ」


 思わず笑っためのこの耳に『お風呂が沸きました』の声が聞こえてくる。

 再びぺたぺたと足音を立てて自室のカラーボックスから下着と新しいTシャツを引きずり出す。適当に取ったTシャツには、怠惰な猫が描かれており『働くのは明日から』と文字が書かれている。

 Tシャツと下着だけを持って脱衣所へと戻る。

 服を脱いでランドリーシュートへ服を詰め込むと、鏡に映った見も知らない少女の体が映る。結局彼女が誰なのかは、めのこには分からないままだった。

 実際に存在した人間の体に立花勇人(たちばなはやと)の魂が入ったのか、それとも勇人のために与えられた体なのか。


 豊満な脂肪の塊がついているにも関わらず、わずかに肋(あばら)の浮いた体。細い手足。

 分からないことだらけだった。


 めのこは浴室の扉を開けて湯気の立つ室内へ入る。

 冷たいタイルが彼女の足裏を刺す。


 シャワーを出して頭を濡らす。目を開くと、まるで簾(すだれ)のように彼女の顔周りを濡れた髪が覆う。

 勇人がめのこになる前日の夜も、こんな風にシャワーを浴びていたなと彼女は微かに笑った。濡れた髪を両手で軽く揉んでから軽く絞り、シャンプーを二プッシュ取る。

 めのこはリスナーからお勧めされたボタニストのスムースを使っていた。香りの強くないそれを、めのこは気に入っていた。


 此夢望の「香りが強くないのが良い」と言う言葉に、様々なシャンプーの名が挙げられ、男性視聴者はいかにも居場所が無いかのような様子をしていた。

 それにも望は気にせず、挙げられたシャンプーを全て試したのだ。

 結局めのこはボタニストが気に入って使い始めてボディソープや洗顔料は無香料のものを選んだ。

 頭も体も洗い終えためのこは浴槽へと体を沈める。


「はあぁ……」


 いつの間にか冷えていた体を温める湯の熱さに思わず漏れた吐息に、めのこは思わず笑う。

 不意に日付けが気になり、彼女は浴槽の底へ手をついて足のほうに取り付けられている浴室リモコンを見る。

 表示されている日時に「やべ」と声を漏らす。

 その日は右往左往との食事を約束していた日だった。浴室リモコンに表示されている時間は午前八時を指している。ランチをという話だったのだ。

 ここから髪を乾かしてとなれば、明らかに時間が足りない。暫く悩んだめのこは浴槽から立ち上がり湯を吸って重くなった髪を絞ってタオルで適当に水気を拭って裸で配信部屋へと入る。


 パソコンデスクに置かれていたスマホを取ると浴室へと戻り再び浴槽へと体を横たわらせる。


──悪い、いま風呂。住所教えるから部屋来てくれね?


 ぐうう、と体を伸ばしためのこのスマホにすぐに連絡が入る。


──住所教えるって、危ないからやめろって!待つから!


──別に良いだろ、お前はよそに流さないんだから。東京都新宿区西新宿……


──超高級マンションやめろよ!心折れるわ!


──お前来るまでには風呂出てるから


 それだけ送ると洗面器にスマホをいれて肩まで湯に浸かる。

 八時三〇分までしっかりと湯に入っためのこは浴槽から立ち上がり、湯の栓を抜いてから洗面器の中に置いたスマホを取り、新しいタオルで水気を拭い新しいTシャツと下着を身に着けると肩にフェイスタオルを掛けてリビングダイニングへと向かう。

 髪の水気を拭いながらソファへ座り、モニターの電源をいれるとAmazon Fire TV StickのリモコンでNetflixを選択して一番手前にあったドラマを選択する。タイトルもあらすじも見ていなかったために気付かなかったが、どうやら海外ドラマだったらしく英語が流れ出す。


 モニターから流れる音声を無視して髪の水気を粗方取ると、ドライヤーで髪を乾かし始める。

 ある程度乾かしてから、そういえばリスナーから勧められたドライヤー前のヘアクリームがあったなと思い出し、髪へヘアクリームを塗り込み再び乾かし始める。

 なんとか髪を乾かし終えると時計は九時を回っており、立ち上がって冷蔵庫へと向かう。

 食物も調味料も入っていない冷蔵庫からペプシの二リットルペットボトルを取り出して、以前興味本位で購入したプリンの入っていたグラスへ注いで喉を鳴らして飲み下す。


 その時、インターフォンが鳴りスマホから確認すると見たことの無いブルーブラックの短髪に黒い目をしたシャツにスラックスの男性が映っており、それが右往左往だろうと推察してめのこはスマホから鍵を開けて「入って」と告げる。


「お、おじゃましま……す……」


 扉をゆっくりと開けて入ってきた右往左往に、めのこは立ち上がりダイニングから顔を出す。


「こっちこっち」


「……望、マジで良い家住んでんだ」


「そこそこ稼いでるからな」


 めのこの言葉に、右往左往がやや物言いたげな表情を浮かべる。


「今日どこ行く? 飯」


「回転寿司行きたいけど、望は?」


「あー、俺も回転寿司行きたいわ。くら行こ、くら」


 めのこの言葉に、右往左往はわずかに安心した表情を浮かべる。


「お前も回転寿司とか食うんだ」


「毎日マック食ってる俺に言うか? それ」


 思わず笑っためのこに、右往左往は「そうだよな」と笑う。


「着替えて来るわ、ソファ座っといて」


 めのこはそう告げてダイニングから出て自室へと向かう。

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