第二八話 疲労と愉悦
午前五時丁度。
Re:VIVALのアジトへと戻ってきた面々はテーブルを中心にして輪になり座る。誰もが心地好い倦怠感に包まれ、談笑している。
その中で、仏はほっとけが手を二度叩く。
それだけで誰もが言葉を噤んだ。
「鯖始まって初の超大型犯罪、達成おめでとう!」
「おめでとう!」
「マジでいけると思わなかったわ!」
仏はほっとけの言葉と同時に、再び騒ぎ出す面々に、仏はほっとけが「落ち着けって!」と言葉を発する。
「今回、全員の力があってやっと達成した目標だったが、その中でも功績が高かった奴らに多く報奨金を与えたいと思ってる。良いか?」
「当然。俺なんて序盤の序盤に死んだから一〇〇万で十分だわ」
ポッピンポップドッツの言葉に、彼よりも早くダウンしたララバイアグラが「お前は一〇万でも十分だろ!」と声を上げて、互いに笑いながら言葉を重ねていく。
「えー、まずラストにサーマルでさらばを援護したジャバウォック! 三〇〇〇万!」
ワッと上がった歓声と拍手にジャバウォックが「ありがとう! ありがとう!」と謙遜することも無く受け止める。
そんな彼に、爆音奏が「せめて謙遜しろよ!」と笑う。
「次に、ポリスマーベリックとYOTSUBAのヘリを相手取ってジャバウォックの援護と空を制したパンプパンパース! 三〇〇〇万!」
「ありがとうございます! サベージ任せてくれたおかげです!」
パンプパンパースが少し恥ずかしそうにそう言うと、フルーツポンチ〇ンポが「おかげでフロガーも落とされなくて助かりました」と声を掛ける。
「そして、ほぼ全ての荷を運び込んでRe:VIVALの儲けを確実なものにしたフルーツポンチ〇ンポ! 三〇〇〇万!」
「ありがとうございます! 皆さんの援護のおかげです!」
上がる歓声に、さらばも二本目のスプライトを手に微笑ましさすら覚えて眺めていた。
「最後に、ラストの強敵たちを打ち倒してRe:VIVALの勝利を確実なものにしてくれた、期待の新人夢梨さらば! 五〇〇〇万!」
まさか自分の名が呼ばれるとは思ってもいなかったさらばは思わず目を瞬かせ、そしてミュートにしていたマイクを付ける。
「フルーツポンチ〇ンポを警護して、最後まで守り抜いた仏はほっとけに、俺の報奨金から二〇〇〇万を!」
さらばの声に「そうだ!」「お前のおかげだぞ!」「ナイストップ!」と一気に声が上がる。
さらばの言葉に、フルーツポンチ〇ンポとパンプパンパース、そしてジャバウォックもそれぞれが「俺の報奨金から一〇〇〇万をほっとけに!」と言葉が掛けられる。
「馬鹿野郎! 俺の取り分が一番多くなるだろ!」
仏はほっとけが笑いながら言うと、ジャバウォックが立ち上がり仏はほっとけの肩を殴る。
「取ってろよ、俺たちのトップだろ」
そう告げられると、仏はほっとけが僅かに言葉を失い、そして「はー……」とマイクに深く吐き出された呼吸音が入る。
「ありがとな、お前ら。お前らのトップで良かったわ」
そして、足を叩いたような音が聞こえ、仏はほっとけが「残りの報奨金六〇〇〇万を、それぞれに分割して与えていく!」と告げるのだ。
その喧騒を聞きながら、さらばは再びミュートにして目を閉じ、ゆっくりと呼吸をする。
ゲーミングチェアにもたれかかる此夢望の目に、ようやくコメントが映る。
──望おめ!
──ラストの3連戦手に汗握ったわ
──穴熊戦マジ良かった!之はあそこ切り抜いてくれ!
──潤滑戦だろ!熱かった!
──ウロウロマジでww俺は弱いってwww
──それなwまあうおちはマジで弱いからw
そんなコメントを眺めながら、望はハンバーガーの包装を開いてかぶりつく。
完全に冷めて喉に詰まるようなそれを、スプライトで流し込む。
──うおち弱いんだから望も手加減してやったら良かったのになw
──手加減してやれよ望!ウロウロ可哀想だろ!
そんなコメントにも、望は一切反応を返すことは無い。ただ食事を終えたハンバーガーの包み紙を適当に丸めて紙袋の中へと捨て、もう一口スプライトを飲み下す。
そしてミュートを解除した望は、再びGTAの世界へと潜るのだ。
さらばに入金された三〇〇〇万により、彼女の残金は一億二〇〇〇万になっていた。
さらばは、最初に貰った三億五〇〇〇万はやっぱり多すぎたなと思わず笑うのだ。
「仏はほっとけ、良い犯罪だった。楽しかった」
そんなさらばの言葉に、仏はほっとけも「こちらこそ、ナイスプレイ」と笑いを返す。
まだ戦勝モードのRe:VIVALアジトから出たさらばは自身のシッツ・ハクチョウドラッグを持ち出して朝焼けのロスサントスを走り出す。
途中で人質を取り、彼女は銀行へ入る。
まだオイルリグ後でバタバタしてるだろう警察へ、まるで挑戦状を叩き付けるかのような動きだった。
銀行内の全ての現金や宝石を奪ったさらばの耳に、パトカーの警報音が鳴り響く。
銀行から出てきたさらばの姿に、警察の早乙女トトロが力の抜けたような声を出す。
「お前……お前、さっきオイルリグ終わったとこだろ……」
「オイルリグ序盤で死んだ警察だけで追って来いよ。足りないだろ? 運動が。こっちは一人だからヘリ無し、パトカー三台とバイク二台でどうだ。アタック一五」
さらばの言葉に、警察が「分かった」と返す。
誰が追うか相談している警察の様子を眺めながら、望はぐうと体を伸ばして肘と肩、肩甲骨をポキポキ鳴らす。
ようやく追う人間が決まったらしく、早乙女トトロがさらばへと向き直る。
「のれんに柳川、坂からオレンジ、十々承知、ケツに鉄パイプ、カレソ・ベントーレがさらばを追う」
「了解」
さらばが応え、シッツ・ハクチョウドラッグへと跨がりエンジンをかける。
「アタック一五で良いんだな!?」
バイクへ跨がったのれんに柳川が問うと、さらばは「もっと短くしてほしいか?」と聞き返す。
「ばっか! 長くしなくて良いかって言ってんだよ! おい、コイツ捕まえるぞ絶対!」
のれんに柳川の言葉に、さらばが思わず喉を鳴らして笑い、エンジンをふかす。
「ゴー!!!」
さらばの言葉と同時にシッツ・ハクチョウドラッグが一気に加速する。背後を見たさらばの視界に、一五秒遅れで走り出す警察車両が目に入る。
先程までの緊張に次ぐ緊張も楽しかったが、さらばはいまこの瞬間が何よりも楽しかった。
FPSを最も愛していたと言っても過言では無いさらばが、こんな思考になるとは彼女も思ってはいなかっただろう。それでも、この時間を楽しいと思える自分が嬉しくてたまらなかったのだ。
後ろを確認しながら走ると、直線を迷いなく追ってくる警察の姿に、さらばは右折してすぐの十字路を更に右折する。
そうすれば警察が予測で追いかけてくるしか無いと理解していたのだ。
そして、再び後ろを見ると追ってくる警察は四人に減っていた。バイクが二台とパトカーが二台。それを確認したさらばはニトロを発動して右折と左折を繰り返しながら山の方向へと向かう。
山道を走るさらばを追うのは、二台のバイクだけだった。
のれんに柳川と坂からオレンジの二人。
岩肌と木ばかりのその山は、登るのも一苦労で降りるには効かないハンドルを操作し、命をベットする必要がある。それほどに危険な場所だった。
その山の頂上で二台のバイクを待ち、予想通りやってきたバイクを確認したさらばがゆっくりと息を吐いて、その道無き道を見つめる。
「やっと追い詰めたぞ!」
「さすがにそこから降りるのは無理やろ!」
二人の言葉を後目に、さらばは再びバイクのエンジンをふかしてその山肌を降り始める。ウィリーを繰り返し、ブレーキとアクセルを重ねて降りていくさらばの後ろを、坂からオレンジとのれんに柳川が転がり落ちていくのが見える。
「死んだか」
呟いたさらばがようやく平坦な道へと辿り着くと、トゥルーへと電話をかける。
『こんにゃにゃー! 園夢ちゃんどうしたの? 怪我?』
「いや、山の中腹に警察が二人転がってるから治療頼む」
『えー! 山、やだなぁ。救急隊に声掛けとくね!』
トゥルーの言葉にさらばが思わず笑い、NPCの人質を解放してRe:VIVALのアジトへと向かって再びシッツ・ハクチョウドラッグを走らせる。
そのさなか、さらばはウロウロへと電話をする。
「もしもし、ウロウロか? 夢梨さらばだけど」
『ん? ああ、どうした』
「さっき銀行強盗して追ってきた警察が二人山の中腹に転がってるから回収よろしく」
『はあ!? え、どういう』
そこでさらばは通話を切る。思わず笑い声が漏れた。
まだ始まったばかりにも関わらず、素晴らしい一日だった。




