第二五話 紙袋と集合
──午前二時
ゲーミングチェアに座った此夢望がパソコンを付ける。いつも通り彼女の声が流れただろう起動音が消えてからヘッドセットを掛ける。
NOVA GEARの三万程度の競技用ヘッドセットの良質なクッションが耳を包む。きちんと2.4GHzで繋がっていることを確認してから、両手を前に出して親指から曲げていき小指から開いていくいつものルーティンを終わらせる。
OBSを起動してYouTubeを立ち上げ配信準備を始める。
──望おつ
──オイルリグ?
すぐに顔を出した常連に、望は「そう」とだけ告げてGTAを立ち上げている間にスマホでUberEATSを開いていつも通りマクドナルドを開いてから夜食用のハンバーガーを五つとドリンクを七つ頼む。
すぐに注文を準備中の表示が出る。
──飲み物は?
「いまUberした」
GTAが立ち上がり、ホーム画面が映ると“かなう”は迷い無く街へと入る。駐車場でバイクを取り出すと乗り込んで一七四三へと走らせる。
ふと思い立ち、道路にバイクを停めると、その場でスーツに着替えて名前を“園夢かなう”から“夢梨さらば”へと変更する。
クレープ屋からも名前が消えていることを確認すると、再びバイクを走らせる。
到着したRe:VIVALのアジトには既に七人ほどが集まっていた。
「お、来たか」
Re:VIVALのトップである仏はほっとけがさらばへ声をかける。
「今日マーベリックに乗るっていう?」
その場にいる構成員たちがさらばへ挨拶をしていく。
「まあ、一気に全員は覚えられないだろうから追々な」
そこで、仏はほっとけがマイクの前で手を二度パンパンと叩く。
その瞬間、全員が静かになる。
「今日はこの鯖始まって最初のオイルリグだ! 構成員はヘリに乗り込んで北西のプラントに向かう。引火もするし、入り組んでて死角からの射線もある。今回は警察だけじゃなく、YOTSUBAとの戦闘もある」
そこで仏はほっとけが一度言葉を切る。
そして全員の顔を見渡すかのような僅かな時間をおいてから、もう一度口を開いた。
「ヘリはサベージとジャバウォックのマーベリックが上空に、さらばのマーベリックとフロガーは現地で人員を降ろして、そのままリグ内部での戦闘に入ってくれ」
仏はほっとけの言葉にフルーツポンチ〇ンポが「オッケー」と声を出す。
それを皮切りに、それぞれが「了解」「分かった」「よろしくな、ほっとけ!」と声を上げていく。
「多分警察も、YOTSUBAも全力で来るからな。楽しんでやろう!」
それぞれが「やるぞー」と声を出し、自分の武器を確認し始める。
「さらば、スーツを着てるのが全員Re:VIVALだ。YOTSUBAは全員黒とか青、緑のつなぎで、警察は青い制服に帽子を被ってる」
「へえ、分かりやすいな」
「ああ、これは超大型犯罪の時の、この鯖のルールで絶対にその決められた服装で、外見で惑わせないってことが決まってる」
仏はほっとけの言葉に「へえ」とさらばが頷いて武器の確認に移る。
初めてRe:VIVALに所属した時に仏はほっとけから渡された拳銃に、ドングリから自分で購入したタクティカルSMGにマークスマンライフルMk2、軍用マシンガンMk2がきちんと納められているのを見て、使いやすいようそれらの位置を変更していく。そして、いまのうちにと食事と水分補給、タバコを終えていく。
「緊張してないか?」
一緒にマーベリックで飛ぶジャバウォックがさらばへと近付いてそう問い掛ける。
「いや」
答えたさらばにジャバウォックが僅かに笑い「流石期待のルーキーだな」と呟いてから「ああ、そうだ」と言葉を続ける。
「Re:VIVALヘリ部隊のジャバウォックだ。銃撃戦は弱いが、ヘリの扱いならこの中でも一、二を争う程度だと自負してるから、よろしく頼む」
その言葉が聞こえたのだろう、パンプパンパースが背後からジャバウォックの背中を一度殴る。
「昨日挨拶できてなかったよね、アタシもRe:VIVALヘリ部隊のパンプパンパース。地上戦は弱いけど、手榴弾の扱いとヘリの扱いなら負けないから。サベージ任されるくらいだからね」
並んで話すジャバウォックとパンプパンパースにさらばが「夢梨さらばだ、ヘリ部隊に配属された」と告げる。
「地上戦では力になれると思う」
そんなさらばに二人は「よろしく」と返してから食事と水分補給を始める。
そのタイミングでインターフォンが鳴り、さらばはヘッドセットを着けたまま玄関へ向かい、地面に置かれた袋を取ってスプライトを取り出して飲みながら配信部屋へと戻る。
「よし!」
そのタイミングで仏はほっとけが声を上げた。
「午前三時四〇分! オイルリグ開始まで残り二〇分だ! 忘れ物は無いか? トイレ行っとけよ!」
その声に、頭上に“ララバイアグラ”と名前が浮かんでいる構成員が「はーい」と声を出す。
「シャワー浴びてきて良いですかー」
「良いわけないだろ」
その問答に僅かな笑いが起きる。
穏やかな時間だった。いまから超大型犯罪を起こすギャングとは思えないほどに。
「あ、そうだ。今日は半グレの“ポッピンポップドッツ”が地上戦班として来てくれてるからな」
仏はほっとけの紹介に、ポッピンポップドッツが一歩前に出る。
「よろしくお願いします、半グレになる前は警察やってました!」
「なんで半グレに落ちてんだよ!」
当然とも言える“爆音奏”の笑いを含んだ問いに、ポッピンポップドッツが、こちらも笑いを含んだまま言葉を返す。
「汚職がバレました!」
思わずそれぞれが笑い声を零してしまう。
さらばは、半グレに落ちる前から半グレだろと脳裏に思わず過ぎるも笑い声を漏らすだけで終わらせる。
ふと時間を見ると、既に午前三時四五分になっていた。
仏はほっとけがもう一度手を叩く。
「準備始めるぞ! ヘリ部隊は乗り込んでくれ! 地上部隊、ヘリに乗れ! 全員乗ったら声を掛けるから離陸するように!」
その言葉に、それぞれがバラバラに是と声を上げる。
最初にフルーツポンチ〇ンポがフロガーの操縦席へと乗り込む。その後ろへポッピンポップドッツとララバイアグラ、爆音奏が乗り込む。
「離陸してくれ!」
仏はほっとけの言葉にフロガーの体が持ち上がり離陸して少し進んだところで滞空する。
次いでサベージへパンプパンパースが乗り込んでそのまま離陸の指令が出される。パンプパンパースもフロガーの近くで滞空をする。
「先にさらばがマーベリックに」
その言葉にマーベリックを格納庫から取り出して乗り込む。
「離陸してくれ!」
ヘリコプターのエンジンをかけてなお明瞭に聞こえる仏はほっとけの声に、コイツの声通るなと思いながらさらばはその機体を浮かせて危なげも無く滞空させる。
最後のマーベリックにジャバウォックと仏はほっとけが乗り込み、四機のヘリが並んだ。
「オイルリグに向かってくれ!」
仏はほっとけの声が響き、先導するようにジャバウォックのマーベリックが先を行く。その後ろをサベージとフロガーが続き、殿をさらばのマーベリックが飛ぶ。
教えられた操作そのままに進むさらばのマーベリックに、様子を伺っていたジャバウォックとパンプパンパースは随分と安心したようだった。
「さらば、操縦上手いじゃん!」
「やっぱフルーツポンチは教えるの上手いな」
それぞれが好き勝手に声を出していると午前三時五〇分に石油採掘プラントへと到着する。
そこには既に一機のヘリが着陸しており、YOTSUBAが到着していることを告げていた。
「午前四時一分までは銃撃不可! 警察介入は午前四時一分三〇秒から!」
ヘリが着陸したと同時に降りた仏はほっとけが声を上げる。
「おつかれ、ほっとけ」
「おー、おつかれ。鮫」
YOTSUBAのトップである鮫鑢が仏はほっとけへと声をかける。
黒いつなぎの鮫鑢と白いスーツの仏はほっとけが並ぶとまるで光と影のコントラストにすら見える。
「FPSプロゲーマーチームが構成員のYOTSUBAとタイミングかち合うの最悪だわ」
「空戦最強のRe:VIVALもだろ、おかげでうちは狐が空戦に取られてるからな」
トップ同士が和気あいあいと話している中、二人のマイクからタイマーの音が響く。
「YOTSUBA! 狐は空に! 他は全員中へ!!」
「Re:VIVAL、行くぞ! 中に入れ! 銃撃は一分からだからな!!」
オイルリグが、始まった。




