第二三話 並走と噂話
「さて、と」
フルーツポンチ〇ンポがヘリポートで呟く。目の前には紫色でメタル調の塗装が成されたヘリコプターが鎮座している。
「これが俺のヘリ、ヴォラタスです」
細長い流線形の機体に長いローターを備えた、男子ならみんな好きだろうと言わんばかりの形をしたヘリコプターに、さらばが「うおおおお!! かあっこいい!!!」と叫ぶ。
「ヘリ専任はみんな自分のヘリを持ってるんですよ。俺とパンプパンパース、ジャバウォックの三人ですけど、ヘリの操縦上手かったら、そこにさらばさんも入りますね!」
「自分のヘリ持てるのさいっこうですね」
「そうなんですよ、マジで最高なんで。とりあえず、まずは扱いやすいフロガーで練習しましょう。これはRe:VIVALのヘリなんで、誰でも乗っていいやつです」
ヴォラタスを格納してから全面が黒のヘリコプターが現れる。先程のヴォラタスよりもずんぐりとした形をしている。
「さらばさんはハクチョウ乗ってるし、スパローとか好きそうですよね」
「……スパロー?」
一瞬、さらばの声が僅かに固くなる。
しかし、その程度の変化に気が付いたのはさらば自身だけだった。
「じゃあ実際にヘリに乗って操縦してみてください。基本操作は飛行機と同じです。さらばさんは普段FPSやってるみたいなんで、マウスのほうが使いやすいですよね」
運転席へ座ったさらばの後ろに乗り込んだフルーツポンチ〇ンポがひとつずつ説明をしていく。
先程までのキーボード操作ではなく直感的に操作できるマウスに、さらばは一瞬「最初からこっち教えろよ」と心中で独りごちる。
危なげなく離陸し旋回と下降、上昇に後退と前進を繰り返すさらばにフルーツポンチ〇ンポが「うっまいですね!? マジで初めてですか?」と問い掛ける。
「FPSでたまに使いますね、ヘリ」
「期待の新人じゃないですか! Re:VIVAL支給ヘリがフロガー二機とマーベリック、サベージの四機なんですけど、これだけ上手かったら即採用ですよ、仏さんに伝えとくんで、明日はよろしくお願いします! ただまあ、サベージは武装ヘリで使用許可が出てるのは明日みたいな超大型犯罪の時だけなんですよね、なので仏さんに大型犯罪用のマーベリックもう一機買ってもらえるように言っときます!」
フルーツポンチ〇ンポの言葉の後にさらばが「マジ? 上手いなら良かったわ」と言い、危なげなくヘリポートへと着陸する。
その様子に、フルーツポンチ〇ンポが「マジで上手いですね!? 最高です!」と言葉を繰り返し、ヘリから降りて格納して歩き出す。
「さらばさんのヘリ、買いに行きましょう!」
「ああ、さっき言ってた」
「絶対スパロー好きだと思うんですよね。さっきの飛行場に航空機ディーラーがあって、そこで飛行機とかヘリが買えるんですよ」
話しながら階段を駆け下りて行き、地上に着いてからフルーツポンチ〇ンポが僅かに迷う。
「乗っていくか?」
「良いんですか!? いやもう、ほんっと、次はハクチョウ買います絶対!」
フルーツポンチ〇ンポがそう言うのに、さらばは思わず笑ってからシッツ・ハクチョウドラッグのエンジンをふかす。
ゆっくりと動き出した車体は一気に最高速度へと到達して二人の体を飛行場へと運んでいく。
「マーベリックとかフロガー、俺のヴォラタスなんかは正規の航空機ディーラーで買えるんですけど、サベージは四九七七にある特殊販売所に行かないと買えないんですよ」
「へえ、なんで?」
「軍用機なんですよね。だから一つのギャングで持てるのは一機、大型ギャングしか持てない、使えるのは大型犯罪からって制約がたくさんあるんですよ」
「なるほどな」
話している間に到着した飛行場の駐車場にバイクを置き飛行場内へ入るとNPCが立っているカウンターへとフルーツポンチ〇ンポが向かう。
「ここでカタログが見れるんで、見てください。正直スパローが一番良いですよ、全ヘリの中で最速かつかっこいいんで!」
フルーツポンチ〇ンポの言葉の通りに開いたカタログの中からヘリの機体とそれぞれのデータを確認してからひとつ頷く。
「……スパローにするわ」
誰にも気付かれないように鼻からゆっくりと息を吸って、細く吐く。
「良いですよね、スパロー! 俺もヴォラタスとスパローで悩んでヴォラタスにしたんですよ」
ふとフルーツポンチ〇ンポが「あ、この鯖ではスパローが単体購入できるんですけど、本家GTA Onlineだとコサトカっていうの持ってないと使えないんで気を付けてください」と告げる。
「ふうん」
カタログの中からスパローを選択してから駐車場へと出る。
「サンキュ、フルーツポンチ〇ンポ。ヘリ、助かった」
「これくらいお易い御用ですよ! さらばさんがヘリにハマってくれたら嬉しいですね、俺実は四機持ってるんで、また見せますね!」
フルーツポンチ〇ンポの言葉にさらばが思わず笑い声を漏らす。
「なんで四機もあんだよ、お前の体ひとつだろ」
「用途が違うんですよ、また見せますから」
「ああ、楽しみにしてるわ」
会話を重ねてから再びシッツ・ハクチョウドラッグへと乗り込みアジトへと走らせる。
「あ、通るしついでにガソリンいれていくか」
「良いですね、食事と水分、タバコと一緒でこまめな給油が大事ですから!」
フルーツポンチ〇ンポがそう言うと、さらばがそういえばと自分の状態を確認して路肩にバイクを止めるとクレープを食べてタピオカドリンクを飲み始める。
「どうしたんですか?」
「言ってくれて良かったわ、餓死するところだった」
「丁度会話に出して良かったですね」
二人で笑ってから、フルーツポンチ〇ンポも立ち上がりタコスを食べ始める。
「お前も?」
「俺もでした」
思わずお互いに苦笑してからバイクに乗り込みガソリンスタンドへと向かう。
到着したアジトでフルーツポンチ〇ンポを下ろすと、仏はほっとけと“パンプパンパース”、“ジャバウォック”が立ち話をしていた。
「あ、さらば。ヘリの操縦習えたか?」
「仏さん! 期待の新人すぎますよ、完璧です! マーベリックもう一機買ってください、価値あります!」
「お、おう……分かった、買っとくわ。そんなに上手いなら明日のオイルリグはサベージにパンパース、マーベリックにジャバウォックとさらば、フロガーにフルーツで行くか」
「それが良いと思います」
フルーツポンチ〇ンポと仏はほっとけの会話が終わったところでパンプパンパースとジャバウォックがさらばへと声を掛ける。
「初めまして、俺がパンプパンパースで、こっちが」
「ジャバウォックです。普段はヘリ部隊してて、白市民では蓼虫交通タクシーで働いてます」
二人の自己紹介にさらばも「夢梨さらばです、白市民ではクレープ屋で働いてます」と告げる。
それぞれが自己紹介をしてから連絡先を交換する。徐々にさらばの連絡先も増えていっているのが、どこか誇らしかった。
まるでこの場所にいても良いと言われているようだと思ったのだ。
「じゃあ、俺クレープ屋行ってきます。今日は出勤なんで」
「おー、行ってらっしゃい」
「また明日、さらばちゃん」
「今度ヘリ乗れよー!」
「え、さらばヘリ買ったん?」
それぞれが別れの挨拶をしてさらばを見送る。彼らの言葉を背中に、さらばがいつも通りの服へと着替えて覆面を取ってかなうへと戻る。
シッツ・ハクチョウドラッグへと跨がりクレープ屋へと到着すると中へと入る。
「こんにちはー」
そこにはいつも通り火雷神が立っている。
「はーい、今日もよろしくね」
「はい。……あ、明日はインするけど出勤はできないですね」
かなうの言葉に、火雷神が楽しげな声を出す。
「オイルリグだぁ! ウロウロに聞いたよ、明日なんでしょ? ギャングやるんだ、いけないんだぁ」
火雷神の言葉に、かなうは喉を鳴らして笑う。
「ギャングなんて言ってないですよ、明日はデートするんです。大事なデートなんで」
「店長はそれで騙されてあげましょう。また聞かせてね、“デート”の内容」
「はい、無事に終わったら教えます」
楽しげに話す二人の声を遮るように扉が開いて見知った警察署長が入ってくる。
それに二人は小さな声を漏らして笑った。




