第二一話 再会と銃声
此夢望は警察署へウロウロを送り届けた後駐車場で自身のバイクであるシッツ・ハクチョウドラッグを片付けてからGTAを落としてヘッドセットを外してぐっと伸びをする。
──望乙
──おつ~
──お、今日は配信終わり?
──初めてのGTAにしては長かったな
──切り抜き大変だぞ、これは
──切り抜き師頑張れ!
──それにしても凄い奴らと会ったなww
──のれんに柳川ってBBBの爆音暴徒だろ?アイツあんな面白かったのかw
──望おつ~水取りに行ってたら終わってたわ
──初めてのGTAで6時間半はやばい
コメントが好き勝手に話す中で望は伸びをしたまま左右に体をしならせて筋を伸ばす。
それからヘッドセットを頭へと乗せ直す。
「はー……っし、GTAやったしエペでもやるか」
──ほぼ7時間GTAやった後だぞ、何言ってんだコイツ
──GTAは前座
──望いつ寝てんの?
「ゲームやってない時間に寝てるに決まってんだろ」
──当たり前みたいに言われても
コメントと会話しながら望が立ち上がる。Bluetoothのヘッドセットは彼女の頭に引っかかったままだった。
「ちょっと軽食取ってくるからコメントで場繋いどいて」
いつも通りの望の言葉に、コメント欄は既に慣れた様子で流れていく。
──相変わらずすぎる
──本日はお日柄も良く
──もう夜だろ
コメント欄が慣れきった会話を繰り返していると、あんぱんと牛乳を持った望が戻ってくる。
まるで張り込みをする刑事のような食事に、思わずコメントからも「刑事かよ」というツッコミが飛ぶも、望は一切気にせずミュートボタンを押してミュートにするとゲーミングチェアに胡座をかいて無表情でパンを胃の中へ落としていく。
──相変わらず不味そうに食うな
──望が食べると全部不味そうに見える
──もっと笑顔で食えよ、企業が泣くぞ
──一番マックに貢献してるのに絶対マックから案件が来ない女
──望ってGTAで会ったヤツ全員誰か分かってんの?
コメントの言葉に、あんぱんを牛乳で流し込んだ望が律儀にミュートを解除してから「知らね」と言って再びミュートにしてあんぱんを食べ始める。
──でかくね?そのあんぱん
──火雷神が合同会社EveryDayのストリーマーのライフ係長な
──ヤマトタケルはあれだろ、さぷらいずのストリーマー部門のTOITOI
──アレTOITOI?TOTOじゃありません、TOITOIです、名前だけでも覚えていってね!の
──ライフ係長、名前だけ知ってるわ
──サイレント†騎士†が個人VTuberの鍋式亘る(なべしきわたる)
──良くヴァロ配信してる奴な、望といつかコラボやりたいって言ってたから接点できて喜んでそう
「一気に言うなって、覚えられねーから」
望の言葉に、コメントが一瞬止まるも再び流れ始める。
──HITORIが個人ストリーマーの山吹獨な、コイツはマイクラ勢
「おーぼえられねぇってば!」
──望が覚えられなくても…俺たちがいる、だろ?
──キッ
──望ってあんまコラボしないよな、なんで?
あんぱんを食べ終わった望が包装紙をゴミ箱へ投げてホールインワンを決め、牛乳を飲みきったところで完全にミュートを解除する。
「コラボって大変だろ、お互いの予定擦り合わしたり、やりましょうって連絡したり。そういうのを全部したくないから」
別段大仰な理由も無く、ただそれだけといった様子の望に、コメントが「それだけかよww」と笑い始める。
そこに、ひとつのコメントが流れる。
──代わりに、コラボの依頼をする非公式アカウントを募るのはどうですか
それに望はペットボトルのほうじ茶を一口飲んでから背もたれへと体をもたれさせる。
「それは良くないだろ。そこまでファンに、非公式アカウントにさせたらファンダムが大きくなりすぎて、俺の手を離れる」
──望って意外と考えてるんだな
望はそのコメントに「そ、俺って結構頭良いから」と笑い、APEXを起動する。
ホーム画面が映り、マッチング待機画面へと移る。
「さっきの、非公式アカウントをって言ってくれたヤツ、意見はサンキュ。お前らも責めるなよ、アイツを」
──りょ
──まあ、そこまでファンがやったら、それはちょっと違うしな
──俺たちは望の活動を支えるだけだから
──うおちから来ました
右往左往の配信から流れてきたコメントに、望が思わず笑う。
既に彼らは友達のように遊ぶことが多くなっていたのだ。いつか食事でも、と約束をした日も記憶に新しい。
──うおちと望の同人誌がめちゃくちゃ良くてファンになりました
「同人誌?」
思わず問いかけた望に、コメント欄が騒めく。
──誰かコイツの口を塞げ!
──同人文化を持ってくんな!nmmnだぞ!
ワッと湧いたコメントが同人誌コメントを押し流していく。
──ここは右往左往の配信じゃないからな!
それが決定打だった。
──ごめんなさい、うおちのノリを持ち込みました
その謝罪コメントに、マッチング完了画面へと移った望が「良いって」と言う。マッチング画面でいつも通りホライゾンをピックすると、味方がニューキャッスルとバンガロールをピックする。
「お前らも、俺に代わって怒ってくれたことは感謝するけど、人格否定まではすんなよ。みんな同じリスナーだろ」
それだけを告げて望はボイスチャットをONにして音量を上げる。
地上へと降り立ち武器を漁ると、同地点に降り立っていた敵と接敵する。オルタネーターしか拾えなかった望が大きな舌打ちをし、撃ち合いながら移動して箱から彼女の好む武器種のうち、ランページを拾い撃ち合っていた相手の頭を撃ち抜く。
「死ぬかと思った! バッテリーが欲しい!」
『え? なんか此夢望の声に似てね?』
『まさか、さっきGTAやってたから別人だろ。シールドバッテリーならひとつある』
バンガロールとニューキャッスルが話しながら、ニューキャッスルが望へシールドバッテリーを渡す。
バッテリーを巻きながら減った弾数に望は小さく息を吐いた。
「弾を取りに行きたいな」
『賛成、弾の枯渇が激しい』
『移動するか』
三人がそれぞれクリアリングしながら安全地帯へと走りつつ箱を開けていく。
「おっ」
思わず声を出した望に、二人が反応する。
『どうした?』
「いや、スピットファイア見付けてテンション上がっただけ」
『やっぱ望だろお前! 望はスピットファイア狂いだぞ!』
バンガロールがニューキャッスルに「まさか」と言いながら数瞬黙る。
『望だわ』
配信画面を確認したのだろうバンガロールに、コメントがにわかに湧く。
──初めまして!
──望のこと、よろしくお願いします
──口下手だけど悪い子じゃないんです
「誰目線だよ」
望が思わず笑ってからサイトを覗く。
一〇〇メートル先に動く人影が見えたからだった。
覗いたサイトの先、そこにシールドバッテリーを巻いているパスファインダーがいる。
望はそのパスファインダーを1~2倍可変式ホロサイトで捕捉し、一発撃ち込む。
米粒ほどの大きさしか無いパスファインダーの頭に弾が当たり、プレデター帯と言えど珍しい長距離からの射撃に、敵のバンガロールがパスファインダーへの射線を切るようにスモークを焚いたものの、僅かに出ている体から頭を予測し、その位置へ追い撃ちを重ねる。
ノックダウンの表示が出て、パスファインダーが倒れたことが望に知らされる。
『よく狙えたな、いまの。サイトなに使ってんの?』
『さすが望。俺なら諦めるね』
『それな。あっこにいるわ、ヘッショ狙えないし諦めるかになる。望は諦めないから望なのか』
二人の会話に望は何も言うこと無く再び走り始める。そんな望にバンガロールとニューキャッスルもついて走っていく。
順調に人数が減っていき、残り六人という表示が出る。その瞬間、背後からのヘッドショットと左からの射撃にニューキャッスルが落とされ、それに即座にスモークを焚いたバンガロールがスモークの影から三〇メートル先にいたヒューズの頭へ二発弾を撃ち込んだと同時に左と背後からの射撃に落とされる。
望は思わず細い息を吐いてから、グラビティリフトで岩陰へと移動し、バンガロールを落とした左側の銃声の主を狙おうとスピットファイアを構える。
左から目の前へと回り込んできたライフラインへ銃弾を撃ち込む。
その瞬間、正面からヒューズとライフラインの銃弾が望の頭部と身体へ吸い込まれ、最後に背後から響いたスナイパーライフルの一発が彼女の頭を撃ち抜く。
画面には二位の表示が浮かんでいた。
『ごめん望!』
『せっかく望とできたのに、マジでごめん!』
バンガロールとニューキャッスルの言葉に望は「楽しかったわ、おつかれ」と言葉を残して退室する。
「やっぱ楽しいわ、エペ。あと二、三時間はやるか」
そう告げた望は再びマッチング待機画面へと入る。




