第二〇話 困惑と再会
「ハチクマ! お前、散々ドラッグに来るって言っただろ!」
カウンターの方から女性の声が聞こえ、園夢かなうが顔を出す。そこには赤いロングヘアをした女性が立っている。頭上には“散々ドラッグ 狐月”という名前が浮かんでいる。
その言葉に、ハチクマと呼ばれた此夢おれのが「望がここで働いてんのに別のところ行くわけないだろ!」と叫ぶ。
「お前、ハチクマか。あのコラボで戦った」
「そうです! えっ!? 覚えててくれたんですか? 嬉しいです!」
狐月に雑に返した人物と同一だと思えないほどの声音で返す此夢おれのに、狐月が「はあ!? 此夢望がいんの? このサーバーに!?」と声を上げる。
「この、園夢かなうさんが望!」
かなうは「コイツらRPする気一切無いな」と思いながらも狐月へと視線をやる。その狐月はしばらくフリーズしてから、一度大きく「はあ!?」と声を上げた。
「ちょ、マ!? え! マジかよ!」
狐月がカウンターの中に入ろうとするのに、火雷神が「やめてくださいねー。うち、お触り禁止なので~」と告げてかなうを守ろうとする。
それをかなうが止めてカウンターから出ると、その後ろを此夢おれのが追う。
「マジでアンタ此夢望?」
そう問い掛けた狐月に「そうだ」と応えると、狐月が何度か、何かを言おうと小さな声を出して、そしてかなうを見つめる。
「アンタの、FPSの腕に惚れてんだよ、アタシも、ハチクマもジョーズも……あと、アナグマも。今度アタシらとチームを組んでヴァロやってほしい」
真剣な声に、望は思わず喉を鳴らして笑った。
まるで、さぷらいずに戻ったかのように思えたのだ。もちろん、あの頃のフォックスは決してそんなことを言わなかった。
フォックスがびーすたーに入った頃、既にスパロウは三〇代で動体視力と指の動きだけでは勝つことができなくなり“弾を置くこと”と“予測すること”で勝つようになっていたからこそ、彼女にとって“スパロウ”という存在は老害だったのだ。
そんな彼女が、全盛期の“スパロウ”の体と老獪な“スパロウ”の動きをする“此夢望”を認めている。
まるで存在しなかった世界線が道の先に現れたようだと思ったのだ。
「なんで笑ってんだよ!」
フォックスの言葉に、ハチクマが「まあまあ」と宥める。
「望だって考えがあるだろ」
「良いぜ」
望の言葉がフォックスの耳へと届いたその時、かなうの声を堪能したのだろうウロウロが入店する。
「あ! かなう、ボイス最高だった!」
「えっ! 望、ボイスってなんだよ!」
ウロウロの言葉に反応した此夢おれのがすぐさまかなうへと向き直る。それに面倒臭そうに溜息を吐いたかなうを見た火雷神がかなうの前へと出る。
「はいはい、話は後でにしてねー。かなうはうちの従業員なんだから。おれのも今日でクビ。あとで客として入店してください~」
「俺客! 客だから! 園夢かなうの絶対叶うクレープ一〇〇個ください!」
ウロウロが叫ぶと、それに火雷神が「はーい、一〇〇〇万ですー」と返す。
「高くね!?」
「プレミア価格です~」
「じゃあ、仕方ないか」
ウロウロが大人しく支払うと、狐月と此夢おれの、ウロウロが店を出て行く。
「あっ! かなう、YOTSUBA入れよ!」
最後、狐月が言った言葉を最後に、クレープ屋の中は火雷神と園夢かなうだけになる。
「大変だね、かなうも」
「わるい、こんな騒がしくなると思わなくて」
「仕方ないでしょ。どうする? こっちは働いてくれるほうが助かるけど、他のところで働く?」
火雷神がそう問いかけると、かなうは「いや」と答える。
「白市民の身分は欲しいからな」
「あー、ギャングに入るんだぁ? いけないんだぁ」
明らかに楽しんでいる声が火雷神から発せられる。
それにかなうは「そうは言ってないだろ」と自身も楽しげに返す。どこかこのRPを楽しんでいる自分がいたのだ。
こんなことは初めてだと、小さく息を吐く。
FPS以外のゲームをこんなにも長くやっていたことも初めてだった。
「今日はクレープ屋終わりでいいよ。ものすごい量のクレープをおれのが作ってくれたから」
苦笑と共に告げられた言葉に、かなうも同じく苦笑を零してから「じゃあ」と告げてクレープ屋を出て行く。
そこにはウロウロだけが残っており、狐月も此夢おれのも残っていなかった。
「あの二人は?」
「警察の前でYOTSUBAとか言ったから流石に逮捕だわ」
問い掛けたかなうにウロウロは苦笑と共に返す。
「ああ、YOTSUBAって?」
「ドラッグギャングだよ。ドラッグ売って稼いでるギャングのこと。タバコ売ったりもしてるから気を付けろよ」
「ふぅん」
「入るなよ」
「入らねーよ」
二人で話しながらバイクへと跨る。その後ろへ、まるで当然のようにウロウロが座った。
「は? なんだよ、お前!」
「パトカー持ってかれたんだって! 狐月とおれのを逮捕した時に! 警察署まで送ってください!」
ウロウロの言葉にかなうは深々と息を吐き出してバイクを発進させる。
「あ、そういえば明後日大規模犯罪が起きるから気を付けろよ。警察がほとんどそっちに吸われるから、危ない時は俺のスマホに直接通報してくれん?」
「大規模犯罪?」
ウロウロが言うと、かなうは「そういえば仏はほっとけがそんなこと言ってたな」と思い出したものの、そんなことをおくびにも出さず問いかける。
「オイルリグってやつで、Re:VIVALとYOTSUBAの二組織が戦う、ガチの大規模犯罪だから。警察も大量投入されるし」
「へえ、大変そうだな」
「マジで大変だわ。めちゃくちゃ死ぬしな、プレイヤーもNPCも。警察側も死んだら蘇生されるまで逮捕もできないし、ユニオンヘイストとか客船強奪とかと同じくらいヤバい犯罪」
なんとも嫌そうなウロウロの言葉に、かなうが「警察も大変なんだな」と呟く。
「そ、オイルリグの間だけ警察にならないか、って言ってもそんな簡単になれる職業じゃないからな」
「俺はクレープ屋気に入ってるから、悪いな」
「いや、それは仕方ない。ギャングにならなかったら良いわ」
警察署の場所をマップで確認しながら走っている中で見覚えのある黒のバンシー900Rが右折してマップを見ていたかなうのシッツ・ハクチョウドラッグを弾き飛ばす。
「いってぇ!!」
思わず叫んだかなうに、慌てて降りてきたのれんに柳川が「ごめええええん!! かなう!!! マジでごめんかなう!!!」と叫ぶ。
そんなのれんに柳川に、かなうが「慰謝料払え! 二度目だぞ!!」と叫ぶ。
「柳川! お前!!!」
「署長もいるじゃん!!!! ごめーーーん!!! 署長、俺、また牢に入ります!!!!」
泣きの入ったのれんに柳川が即座に謝罪し、かなうとウロウロへ入金してからビルの壁へと走り、そこで二度目の自爆をする。
「これにて御免!!!」
「お前! どこで手榴弾買った!?」
ウロウロが叫ぶと、のれんに柳川が「違って! 違ってぇ!!」と叫び、そこに白いスズメが颯爽と走ってくる。
「こんにゃにゃー! 個人医が来たよ、患者ここー?」
スズメから降りてきたトゥルーが声を上げると、そこに立っているウロウロとかなう、そして死亡しているのれんに柳川を見て「またぁ?」と呟く。
「もー、また二〇〇〇万もらうからね」
「いくらでも持っていってくれ……俺は署長とかなうを殺した……」
「いや、死んでないわ」
のれんに柳川の言葉に、かなうが即座に否定をする。
「多分また捻挫だからね。大丈夫だよー」
トゥルーがそう告げてのれんに柳川の蘇生をしてからウロウロとかなうの処置へと入る。
やはり捻挫だったそれに湿布を貼ってからトゥルーが医療バッグを持つ。
「はい、じゃあ二人は被害者だから二〇〇万ね」
「悪いな、二度も」
「私はお金になるから大丈夫! 次は轢かれないようにねー」
トゥルーがそう告げてスズメで去っていくと、ウロウロが車をコンパウンドしてから、大人しく両手を挙げて待っていたのれんに柳川へ手錠を掛けて再びバイクの後ろへと跨る。
「警察署まで頼む」
「はいはい、行くか」
バイクへと跨ったかなうが警察署へ向かって道路を走って行く。




