第一八話 追走と録音
「で?」
HITORIの問いに、さらばは「え?」と聞き返すことしかできなかった。
「え? じゃなくて、換金しに来たんでしょ、宝石。買い取ってあげるから出して」
「話早いな」
「当然でしょ、仏がそのスーツでここに来るってことはギャング案件なんだから」
窓口の向こうに立ったままそう言ったHITORIに、仏はほっとけが言葉を返してからさらばへと声を掛ける。
「HITORIにアイテムの中に入ってる宝石を渡せるか?」
「ああ、これか?」
「そうそう、ほんとに初心者じゃん。ハクチョウに乗ってるから玄人かと思った」
「これはパトロンに貰った金で買ったやつだからな」
さらばが返した言葉にHITORIが「わはは」と声を上げて笑う。
渡された宝石を鑑定している中で、HITORIが仏はほっとけへと言葉を投げかける。
「これ、銀行産?」
「そこ、関係あるか?」
「あるよぉ。二人とも指名手配掛かってるから。さらばはしばらく別名義で活動したら?」
その会話に、仏はほっとけが「コイツは元々白市民だ」と応える。それにHITORIが「偉いね」とだけ告げてから換金した金をさらばへと渡す。
「最初から黒市民になった仏とは違って白市民の立場手に入れてからやってるの偉いじゃん」
「俺だってタクシー会社経営してるっつの」
「タクシー会社に偽装したギャングでしょ」
ぽんぽんと続く会話に、彼らが既知の友であることをさらばは察する。
しかし、それに触れることは無い。何故ならそれはさして重要なことではないからだ。彼らが友であれ、同じ志を持つ者であれ、ただ重要なのはこの場でどのように遊ぶか、それだけだった。
「タクシー会社やってんの?」
さらばの問いかけに仏はほっとけが「そ、偽装会社だけどな」と言う。
「黒市民は大体そういう偽装会社持ってる。あの武器商人、ドングリも普段はタバコ屋だしな。あ、さらばタバコは? 持ってる?」
「いや」
「タバコ持ってないとストレス値下がらないから。ただタバコ吸ってる間は動けないから気を付けろよ」
そう告げた仏はほっとけがさらばへタバコを数個渡す。それにHITORIが「いい先輩してんじゃん」と笑う。
「さって、これでうちのギャングのことは大体教え終わったけど、気になることあるか?」
さらばは暫し考えてから口を開く。
「ボイスの撮り方教えてくれね?」
「ボイスぅ!?」
さらばからの質問に、仏はほっとけが素っ頓狂な声を上げる。そして、しばらく黙ってから再び話し出す。
「なんのために使うか分かんないけど、レコーディングスタジオまで送るわ。ちゃんと白市民に戻っとけよ」
仏はほっとけの言葉に、さらばは名前を園夢かなうへと戻してから来た時と同じ白シャツにスラックスへと着替える。
「じゃあな、HITORI」
「はいはーい、また宝石奪ってきたらおいで」
HITORIが明るい口調でそう言うのを背中に受けて仏はほっとけとかなうがバイクへと跨り次の目的地へと向かう。
「あー、そろそろ燃料が心許ないから先にガソリンスタンド行くか」
仏はほっとけの言葉にかなうも自分のバイクを見る。燃料は半分ほど残っていたが、同じタイミングで給油しておいた方が良いだろうと彼の後をついて走る。
「ここがガソリンスタンドな」
いつの間にか名前が“蓼虫交通タクシー 蓼虫ほっとけ”に変わっていた仏はほっとけが先にガソリンスタンドへと入る。四台のスタンドが立つその隣へディアブロス・カスタムを停めた蓼虫ほっとけが給油ノズルを取りバイクへと注ぎ始めるのを見て、かなうもそれに倣ってシッツ・ハクチョウドラッグへと給油を始める。
「給油ガン突っ込んだまま走るとガソリンスタンド爆発するから気を付けろよ」
「リアルだな、そこらへん」
「漏れたガソリンに火花が散ると車体も燃えるから、そこも気を付けろよ」
蓼虫ほっとけの言葉に、かなうは再びリアルだなと思うのだった。
「さってと、レコーディングスタジオだったな。場所は四〇〇八だからちょい遠いけど、行けない場所じゃないから。遠すぎたらヘリ出すけどな」
蓼虫ほっとけがエンジンを掛けて先を走る。かなうはそれについて再びハクチョウドラッグを滑らかに走らせていく。
街が徐々にビル群になっていく。こんな場所に本当にレコーディングスタジオなどあるのだろうかとかなうが周囲を確認しながら走っていると、それを察したのか蓼虫ほっとけが微かに笑う。
「この辺はレコーディングスタジオとかボイス屋が多いからな。あとタバコ屋とかドラッグも多い。ドラッグ買うならこの辺でな」
「ドラッグ?」
「麻薬密売のギャングがいるんだよ、この辺には。YOTSUBAっていう」
かなうは「ふうん」と吐息のような相槌を打ってから視点を蓼虫ほっとけに固定して進んでいく。
「ここだ、レコーディングスタジオ。ここで撮ったボイスを隣のボイス屋に持ち込んだら着信音とかに使えるように弄ってくれるから」
最後までしっかりと説明をした蓼虫ほっとけに、かなうは「サンキュ」とだけ返してハクチョウドラッグから降り、レコーディングスタジオへと入っていく。
「いらっしゃいませー!」
軽やかな甘い声がスタジオの受付から聞こえる。ピンクの髪をツインテールにしている女の子だった。
「あ! 初めましてのお客様ですね、みーとは肉花みーとです。みーちゃんとかお肉ちゃんって呼んでください!」
「どうも。えー、ボイスを撮りたくて」
かなうの言葉に、肉花みーとが「はあい!」と声を上げる。
「こちら、ボイススタジオへどうぞ! このマイクの前でおしゃべりをして、決定を押すとボイスが撮れます。そのボイスで良ければもう一度決定を押して完成です! いくつか撮る時はそれを繰り返してくださいね。ボイスはひとつ撮るのに一〇〇〇万、ボイス加工に一〇〇〇万かかります!」
「なるほど、サンキュ」
「はあい!分からないことがあったら、また聞いてくださいねー!」
肉花みーとがそう告げてスタジオから受付へと戻る。
かなうは一度、二度と深呼吸をして、もう一度深々と息を吐いてからマイクへと向き合う。
「仕方ない、やるか」
マイクに向き合うとボイス録音ボタンが現れ、それを選択する。
「おい、ウロウロ。電話だ。早く取れよ。ウロウロ、聞こえてないのか? さっさと取れって。おい、その耳は飾りか? でーんーわ、来てるって」
ひとつめのボイスを撮り終わり決定を押すと自分の声が流れ込んで来て、望は思わずヘッドセットを自身の耳から引き剥がす。
──お家芸ww
──そろそろ自分の声に慣れろ、自分の声だぞ
──未だにパソコン起動音が嫌らしいのおもろい
コメントの流れに望は「うるせー」と返して、再びヘッドセットを装着する。
かなうは嫌そうにもう一度息を吐くと再び決定を押し、再度録音ボタンを押す。
「ウロウロ、通知」
望は決定を押す前に先にヘッドセットを外し、流れ終わっただろうタイミングで装着して二度目の決定を押す。
「メッセージ来たから見とけよ」
最後のボイスを撮り終えると、望はヘッドセットを外して思い切り伸びをしてから深々と息を吐き出してアイテム欄に入ったボイス三種を確認してから受け付けに立っている肉花みーとの元へと向かう。
「あっ! ボイス録音お疲れ様です、良いボイスは撮れましたか? あとはボイス屋さんで加工してもらってくださいね!」
「どーも」
三〇〇〇万を支払ってから肉花みーとの声を背中に受けて、望は隣にあるボイス屋へと入る。
受け付けの中で暇そうに座っている、明らかにカタギには見えない外見の男性がかなうを確認すると居住まいを正す。その頭上には“なんでもボイス加工ショップ 但山本”と名前が浮かんでいる。
「はいはい、いらっしゃい。ボイス加工ショップです、先に隣で録音してもらいました?」
「してきたしてきた、この三つを頼む」
「はいはい、三つね。この長いのは?」
「それは電話用で……」
確認を繰り返してから但山本が「はいはい」と頷いてからスマホに設定できる形へとボイスを加工していく。
「はい、これで使えるから。人に渡す場合は、その人の前に立ってアイテムから渡すようにね」
「サンキュ」
「はいはい、じゃあ三〇〇〇万支払いお願いしまぁす。番号は七番ね」
但山本のスマホへと送金を完了すると、かなうはすぐにボイス屋を出てシッツ・ハクチョウドラッグへと跨りウロウロへと電話をかける。
「もしもし」
『あ、かなう? どうした?』
「ボイスできたから取りに来いよ」
『マージで!? すぐ行く、どこにいんの?』
「四〇〇八から、一九五六方面に向かう予定」
『了解、じゃあ先にクレープ屋で待ってるわ』
ウロウロの言葉にかなうが返事をすることなく通話を切って発進する。




