第一七話 変身と追走
銀行へと到着した夢梨さらばと仏はほっとけは、斬撃一閃を連れて金庫へと向かう。
鉄の扉を抜けた二人が積まれた金をバッグへと詰め込み、金庫を電動ドリルで破壊して宝石を奪っていく。
その時、さらばと仏はほっとけの耳にパトカーのサイレンが届き、警察が到着したことを伝える。それに仏はほっとけが声をあげる。
「こっちには人質がいるんだぞ!!! ほら、命乞いをしろ!!!」
仏はほっとけの促しに、斬撃一閃が一気に息を吸い込む。
「助けてくださーーーい!!!! 脅されて、ここにいるんですー!!!! 俺の妻と夫と二人の子供にマパは無事だよって伝えてくださーーーい!!!」
ヘッドセットを付けていた望が「うわ!?」と叫び、一瞬ヘッドセットを外す。それでもなお、彼女の耳はキーンと余韻を鳴らしていた。
──うるせーww
──誰だよ斬撃一閃って思ったらBBBのVTuberかww
──あーね?狼々恐々か
──うわ!え?見に行ってきたけど美人じゃね?これ男かよ
──うるせー、音圧つっよ!
──望が苦しんでるwww
怒涛のように流れていくコメントを横目に、望はもう一度ヘッドセットを着けてから「うるせーよ!」と斬撃一閃を殴る。
「次叫んだら撃つからな!」
さらばの言葉に斬撃一閃がもう一度息を吸い込むが、銃を構えたさらばの姿に小さく息を吐く。
「警察のみなさーん!!! 人質が殺されそうになってますー!!!! 助けてー!!!!」
再度の絶叫に、脳みそまで貫かれたかのような鼓膜の痛みを覚えて望はヘッドセットを外しこめかみを揉んでから再びさらばへと戻る。
「こっちには人質がいるぞ!! 突入してきたら人質を殺すからな!!!」
さらばの言葉に、再び息を吸った斬撃一閃を仏はほっとけが何度も殴る。
「痛い! 痛い、いたっ! なにすんだよ、なにもしてないだろ!! 警察のみなさーん!! 早く助けてください! 俺、いじめられて……いたいいたい! いた、死ぬ死ぬ死ぬ!!!」
さらばが金庫を開けている間にも斬撃一閃は叫び続ける。それに仏はほっとけが「そろそろ黙れ!」と殴り続ける。
「あ、あの! すみませんギャングのおふたり、飯持ってないですか、このままだとマジで死ぬ!」
その言葉に仏はほっとけが「なんで持ってないんだよ」と呟いてサンドイッチを渡してやるのを横目で見て、さらばは「終わったから行こう」と告げる。
「行くぞ人質!」
仏はほっとけがそう言って斬撃一閃を連れて行こうとした、その時だった。
「あ、ついでに連絡先教えてくださいよぉ」
「いますることか? それ」
呆れ返ったさらばの言葉に、斬撃一閃は「まあまあ、そう言わず。あ、どうも。俺はメカニックで働いてる斬撃一閃です」と告げてスマホを取り出し、さらばと連絡先を交換する。
「出張サービス受け付けてるんで!」
「なんでここで営業してんだよ!」
仏はほっとけの最もな言葉に、さらばは思わず笑い銀行の自動ドアへと向かう。
「あ! 犯人出てきた!」
「人質は無事なのか!」
「むしろ鼓膜無事ですか?」
警察からの問いに、さらばは「いや、鼓膜全然死んだわ」と応える。
「ですよね。どうします? 人質いたら俺たち即捕縛はできないんですけど」
そんな会話の最中に仏はほっとけが口を挟む。
「今回は新人の研修も兼ねてるからヘリ禁止、アタック二〇で、パトカー三台、バイク二台でどうだ?」
それに警察官たちがざわめき、誰が追うかと話し合いを始める。
「アタックってなんだ?」
「アタックは、ここでは追いかけるまで何秒待ってくださいねってこと。だからこのアタック二〇は追いかけるまで二〇秒待ってください、ヘリで追いかけるのは禁止で、追うのはパトカーが三台とバイク二台だけですよってことだな」
「へえ」
さらばと仏はほっとけが話している間に警察側でも追う人間が決まったのか、新人警官二人と熟練警官三人がそれぞれパトカーとバイクへと乗り込む。
「人質は俺、仏はほっとけが連れてて、金や宝石類は全部そっちの夢梨さらばが持ってるからな! どっちも欲しけりゃどっちも捕まえろよ!」
仏はほっとけがさり気なくさらばの紹介をし、バイクへと跨る。それに倣いさらばも自身のシッツ・ハクチョウドラッグへと跨った。
「アタック二〇だな!」
警察である他人行儀自分遊戯からの確認に、仏はほっとけが「そうだ」と答えてエンジンをふかす。
「さらば! 健闘を祈る! ゴー!!!」
「そっちもな! アジトで会おう!」
仏はほっとけの言葉と同時にさらばのハクチョウドラッグが走り出す。
滑らかに走り出した黒と赤の車体を、ニトロの赤い閃光が追う。既に銀行は遠く見えなくなっていた。さらばは右折と左折を繰り返して後を追いにくくする。
そんなさらばの耳に、サイレンが聞こえ始めた。
カメラを動かして背後を見ると、バイクが一台とパトカーが一台着いてきているようだった。
パトカーには新人警官であるドン・モンキーが、バイクには熟練警官のトラジロウが乗っている。
「止まりなさーい! お前は既に包囲されている!」
明らかに嘘だと分かるトラジロウの言葉にもさらばは耳を貸すことは無い。
「止めたかったら追い付いてみろよ!」
さらばがそう叫び、再びニトロを作動させて走り出し、ウィリー走行で一気に空を飛び陸橋へと降り立つ。そのさらばを追い、トラジロウもニトロを作動させる。
「俺どうしたら良いわけ!? これ!」
「警察署に戻ってろ!!」
ドン・モンキーの泣き言にトラジロウが一喝して自身のバイクも陸橋へと上げる。
「マジで? 着いてくんのかよ!?」
さらばの言葉にトラジロウが「当然だ! 俺は警察署きってのバイク乗りだからな!」と返す。
さらばはFPSで鍛えた目で、凄まじい勢いで後ろへと消えていく街並みを見ながら次の道を探す。グッ、と一気に加速して次の角へと入る。警察車両よりもより速いシッツ・ハクチョウドラッグには熟練警官と言えど追いつくことは困難だった。だからこそ、読みで着いて行くしか無い。
それは、読みと予測で四〇代になるまでFPSの第一線で戦い続けた夢梨さらば(立花勇人)との最悪の噛み合いだった。
読みで曲がった道の先、そこにさらばの姿は無くトラジロウは「クソ!」とパソコンの乗ったデスクへ拳を叩き付ける。
トラジロウを撒いたことを確認したさらばはマップを確認して一七四三へとバイクを走らせる。そのさなかに、さらばがスマホを取り出して仏はほっとけへと電話をかける。
「もしもし」
『さらばか? え、もう撒いた?』
「そう、もう撒いたけど、お前は?」
『まだだな』
「ヘルプ行くか?」
まるで既知の友のように話すさらばの様子に、仏はほっとけが喉を鳴らして笑う。
『いや、お前が撒いたなら俺もすぐ撒くからアジトで待っててくれるか』
「りょーかい。ご武運を」
『ご武運を』
電話が切れる寸前、向こうからパトカーのサイレンが響くのがさらばの耳に届いた。
さらばがアジトへ戻ってから約二五分後。
アジトの駐車場へディアブロス・カスタムに乗った仏はほっとけが入ってくる。
「おつかれ」
さらばの言葉に仏はほっとけが「おつかれ!」と返す。
「初めての銀行強盗であれだけできれば上出来の上出来だわ。初心者どころか上級者だな」
「サンキュ、最高の褒め言葉だ」
肩を殴る仏はほっとけに、さらばも彼の肩を殴ることで応える。
「これ、どう山分けする?」
「今回はさらばが全部取っとけ。さらばの研修だったしな。……あ、換金所教えないとか。着いて来てくれ」
再び仏はほっとけがディアブロス・カスタムに乗り走っていく後ろをさらばがついて走る。
到着したのは三一〇二の小さな質屋だった。
ガラスの向こうに“宝石商 HITORI”という名前が頭上に浮かぶ女性プレイヤーが立っていた。
「あ、仏じゃーん! おひさ……でも無いか。一昨日ぶり~! 宝石?」
「今回は新人の顔見せもな」
「初めましてー、Pawn & JewelryのHITORIだよ、よろしくね」
HITORIの名乗りに、さらばも「俺は夢梨さらばだ、よろしく」と返す。
「せっかくだから連絡先交換しよ! この街では連絡先なんてあればあるだけ良いんだから」
HITORIの言葉に押され、さらばもスマホを出して連絡先を交換する。最初はウロウロだけだった連絡先が少しずつ増えていくのを、さらばは静かに見つめていた。




