第一六話 契約と変身
──ロスサントス
園夢かなうは赤と黒の塗装がなされたシッツ・ハクチョウドラッグに乗って街中を走っていた。走っているだけでもパトカーのサイレンが響き渡っている。
その中で、かなうはスマホを取り出してたった二人だけ登録してある電話番号を呼び出した。
『もしもーし? かなう?』
「そ、俺。犯罪が儲かるって聞いたんだけど、何が一番儲かんの?」
かなうの言葉に、電話口のウロウロが言葉を失い、そして一〇秒ほどしてから口を開く。
『あのさ、俺、警察なんだよな? 犯罪のことは聞かないでもらって良い? 無理よ、流石にそれを『この犯罪が儲かるからしておいで!』なんて言うの! 犯罪者増やすわけ無いだろ、このおバカ!』
「悪い悪い、じゃあ金の稼ぎ方教えて」
『普通に店で働いたら良いだろ。メカニックとかタコス屋とかクレープ屋なんかもあるんだから』
「店ね。一応ギャングの根城教えてもらえる? ほら、近くに行くの怖いし」
かなうの言葉に、ウロウロは暫し悩む。
教えれば確実に行くだろうことが“右往左往”には理解できているが、それを“ウロウロ”は知らないのだ。
ウロウロはゆっくりと息を吐いてから吸う。
『ギャングは三つあって、ひとつめが四〇七七、ふたつめが一七四三、みっつめが二九八一だから、近付くなよ』
「はいはい、サンキュ。またな」
それだけを聞くと、かなうは一番近い二九八一に向かうため、まずは白市民の身分を手に入れようとクレープ屋を目指そうとし、再びウロウロへ電話を掛ける。
「もしもし」
『どうしたー?』
「クレープ屋ってどこにあんの?」
『クレープ屋? 一九五六だけど』
「サンキュ、クレープ屋の面接受けてくるから、受かったら食いに来て」
『マジ!? あっつ! 絶対行くわ!』
かなうの「じゃあな」の言葉で電話が切られる。
「一九五六ね」
かなうがマップを開き、ピンを立てる。そして二九八一へ向かおうとしていたバイクをUターンして再び走り出す。
比較的近場だったためにすぐ到着したクレープ屋の扉を開けると、そこには二人の男女が立っていた。
「いらっしゃいませ!」
エプロンにコック帽を乗せた二人の頭の上には“クレープ屋 ヤマトタケル”と“クレープ屋 火雷神”という名前が浮かんでいる。
「ここで働けるのって、神だけですか?」
かなうの言葉に、火雷神の高く可愛らしい声が否定を返す。
「違う違う! この名前は両親が可愛い子供に元気に育って欲しいって意味で付けてくれたものだから! 本名だけど神様じゃないから!」
「俺のはここで働くためのHNです!」
「そういうことね。俺、昨日このロスサントスに着いて仕事探してるんだけど、人員増やす予定無い?」
かなうの言葉に、火雷神が「いいよ! ご飯屋さんなんて人がいくらいても足りないから!」と二つ返事で許可する。
「じゃあ雇用処理しちゃうね!」
火雷神がそう言うと、ほんの数秒でかなうの頭上の名前が“クレープ屋 園夢かなう”に変化する。
「これからよろしくね、かなうちゃん!」
「よろしく! かなう!」
「じゃあ、クレープの作り方教えるね」
火雷神が先に厨房へと入り、かなうがその後に続く。
「新しいメニュー作るか、園夢かなうの絶対叶うクレープ」
厨房に入ってすぐにヤマトタケルの声が聞こえてきて、かなうは思わず笑う。
「ここで指示通りに動くだけ。一回の調理でそこそこ時間かかるから気を付けてね! あと、ここで働いてる人は賄いでクレープとドリンク持って帰って良いから!」
火雷神の言葉に、かなうは「助かる」と頷く。
「それじゃあ、今日は研修も終わったし、次のインからお仕事よろしくね! 今日は私とヤマトタケルがいるから仕事も問題無いし!」
そう言われると「りょーかい」と返してドリンクとクレープを三〇個ずつ貰ってからクレープ屋を出る。
そして再びバイクへと跨ると、近くにあるギャングの根城である一七四三へと走らせる。
ギャングの根城はただのプレハブ小屋にしか見えない場所だった。
「すみませーん」
かなうの声に、男性が顔を出す。
「はいはい、白市民がなんの用ですか」
頭の上に“仏はほっとけ”と書かれている、スーツ姿の男性だった。
「ここで副業したいなと思って来たんですけど」
「マージ!? 歓迎歓迎。俺らのギャングは“Re:VIVAL”って名前で全員スーツ着用、顔は隠してOKなんだけどいけそう? あと、白市民は活動時は名前隠しな」
仏はほっとけがギャングの説明をつらつらとしていく。
「で、ギャングになったからって職業名は変わらないから安心して大丈夫。あとは……銃とか持ってる?」
「いや、昨日来たばっかなんだよな」
「オーケー。じゃあ今回はうちの組織のやつ使っていいから。で、次からは武器商人とか、武器買える場所っていうのがあるからそこに行ってもらうことになるね」
仏はほっとけの説明に、かなうは「ふうん」と相槌を打つ。
「明後日、オイルリグ襲撃があるから、もし参加したいならここに一七時半までに来てくれるか? ヘリの操縦も教えるし」
「分かった、もし銃撃戦になったら、ある程度は力になれると思う」
「ナイス! 期待しとくわ、その腕に」
仏はほっとけが、かなうの肩を軽く殴る。それにかなうも彼の肩を軽く殴り返してから、そういえばと声を掛ける。
「金儲けのやり方教えてくれる?」
「やる気満々だな、お前。じゃあ銀行強盗行くか」
仏はほっとけがかなうのバイクを見ると、彼も自分のバイクを持ってくる。
ディアブロス・カスタムで黒にグリーンの塗装がなされているのが分かる。それにかなうは「かっこいいな」と落とす。
「だろ。俺の相棒よ。お前も相当良いバイクだな」
「この街に来てからの相棒だからな」
お互いバイク乗りらしく互いのバイクを褒め合い、それから仏はほっとけがかなうへ銀行強盗に必要な物品を渡していく。
「これ全部無いとできないから気を付けてな。あ、先にスーツと覆面買いに行くか」
仏はほっとけの言葉に「所属してる間の服はスーツだったな」と言うと、彼は「そう」とだけ応える。
ディアブロス・カスタムで先を走る仏はほっとけの後ろを、かなうがシッツ・ハクチョウドラッグで追って走行する。到着したのはブティックだった。
「スーツは何番のでも良いし、色も好きなので良い。あと白市民は顔を見られると厄介だから覆面も買って、それが終わったら銃も買いに行くか。拳銃だけだと心許ない」
「ん、りょーかい。名前はどうやったら隠せんの?」
かなうの問いに、仏はほっとけが一つずつ丁寧に教えていく。それにかなうは「なるほどね」と頷いて買い物を済ませる。
黒のジャケットとスラックスに赤のシャツと赤の革靴、ネクタイは黒だった。その顔には子供が落書きをしたような絵が描かれた覆面が着けられていた。
「良いね。じゃあ行くか」
ブティックを出て、再び二人でバイクを走らせると三七〇七の位置に白いトラックが停まっているのが、かなうの目に映る。
「あれがこの街の武器商人の根城な」
「へえ」
既にかなうの名前は“クレープ屋 園夢かなう”ではなく“夢梨さらば”になっていた。
「ドングリ、銃売ってくれ」
仏はほっとけの声にトラックの後ろ扉が開く。
「こないだ売っただろ」
「新人の分だって、いまから銀行強盗行くから」
「新人か。じゃあ五パーセントオフで売ってやるから、これからもご贔屓に」
出された購入可能品一覧を見て、さらばは「じゃあ……」と呟く。
「タクティカルSMGとマークスマンライフルMk2、軍用マシンガンMk2が欲しい」
「マジ? 結構するけど」
「あと一億七〇〇〇万あるからいけるだろ」
「なんで新人がそんなに持ってんだよ」
ドングリの言葉に、仏はほっとけが静かに同意し、そしてドングリからさらばへと銃が受け渡される。
さらばのスマホからドングリのスマホへと入金が完了すると、仏はほっとけが「サンキュ、またなドングリ」と告げてバイクへと跨る。
「また来いよ、太客!」
ドングリの言葉に仏はほっとけが思わず吹き出して、ディアブロス・カスタムのエンジンをふかす。
「さて、武器も調達できたし行くか」
仏はほっとけと共に銀行へ向かう道すがら、彼が道を歩いていた男性を捕まえる。
「コイツ人質にしよう」
「人質!? え、人質!? お前らギャングか、クソ! 俺には妻と夫と二人の息子がいるんだ、やめろ!!」
NPCでは無くプレイヤーだったらしい男性が喚き倒すのも気にすること無く、男性──斬撃一閃を捕まえ、引きずったままバイクを走らせて銀行内へと入る。




