第一三話 切抜と招待
「さて、やるか」
OBSを起動して配信画面を開いた此夢望がそう言い、APEXを開く。
──望おつー
──今日はエペ?昨日もエペだっただろ
──俺は望のエペ好き
──べ、別に嫌いって言ってるわけじゃないんだからね!
──OWとかもしてみてほしい
『物理法則でお遊びといこうか?』
好き勝手に文字で話すリスナーを一旦無視して、マッチングしてすぐにいつも通りホライゾンを選択してからぐうと伸びをする。
パスファインダーとライフラインを選択している二人は、ライフラインが此夢望と同じくプレデターであり、パスファインダーがマスターだった。
「お前ら相変わらずうるさいな。OW触ったことないわ。あれってヴァロみたいなもん?」
──OWはヴァロとは結構違うんだよな
──FPSの中でもヒーローシューター寄り
──望がやるなら望の新しい面見れる可能性微レ存
「あ、飲み物忘れたわ」
──またかよ
マッチングしてからの待機時間でUberEATSで注文しようとした此夢望がキョロキョロと周囲を見渡す。
そして自分の座っているゲーミングチェアの下やモニターの裏を見てから困ったと言いたげに頭を掻く。そして、その困った表情のままにリスナーへ問い掛ける。
「俺のスマホ知らね?」
──知るわけないんだよな
唇をへの字に曲げた此夢望が後ろで髪をひっつめてから再び周囲を見渡す。
──玄関は?
──出かけた時に履いてたパンツのポケットの中
──コートの中とか
「それだ!」
此夢望が椅子から飛び降りてフローリングをぺたぺたと音を立てて走り、扉を開けて出て行く。
──始まる始まる始まる!
──望!
「あったあった、玄関だったわ。お前らナイス!」
すぐに戻ってきた此夢望の手にはシアンブルーのiPhoneが握られており、満足気な表情でフローリングをぺたぺたと歩いてから既に始まっていたAPEXの画面を操作してボイチャを付ける。
「スピットファイアかL-スターが欲しいんだけど」
此夢望の声に、味方の一人が「うお!?」と声を上げる。
『え! 望!?』
『なに、有名人?』
男性二人が此夢望の声を聞いて話しだす。
『配信始めてから一年ちょっとでYouTube登録者九〇万人くらいの配信者だよ! ほら、NOVA GEARとコラボしてた!』
『ああ、アイツね。え? そいつがチームにいるってこと? あっつ』
『望、スピットファイアじゃないけどランページならある』
加藤田村麻呂という名前のパスファインダーを使用している男性がピンを立てると、此夢望はそちらへと走る。
ライフラインとパスファインダーが立っているそこに、ホライゾンが合流する。
ピンが立てられていたボックスに収められていたランページを拾い、弾とシールドバッテリーも拾っていく。
『配信者でプレデターってすごいな』
『マジですごいんだって、観てみろよお前も! 望、いま配信してんの?』
まるで憧れの人に会ったかのように捲し立てるパスファインダーに、此夢望は軽く苦笑する。
「してんな、配信」
『後で見るわ! うわー、俺、絶対アホな動きできないわ!』
『お前いつもアホな動きしかしてないだろ』
接敵していない間にと、此夢望がiPhoneを開いてUberEATSのアイコンをタップする。
「マックのおすすめある?」
『は? マックのおすすめ?』
ライフラインが困惑した声を出すと、パスファインダーが『これ、望のいつものやつだから』と言う。
──おい、味方困惑させんな
──えびフィレオ
──結局コーラが一番美味い
──あれ食った?チーズ月見
──うわ!今年まだ月見食ってないわ!
──今年の月見は美味い
──月見は毎年美味いだろ
「スプライトと月見にするわ。あ、月見三種類出てんの? 三つとも買お」
──いつもの大食い
──その体のどこに入ってんの?
『此夢望……これか。うわ!? 同接五万!? やっべ。こんな若い子がマジでプレデター? 人生分かんないな』
接敵してサイトを覗き話しながら敵を撃ち、シールドバッテリーを使い、その最中にも『な? すごいだろ望は』とパスファインダーが得意気に言う。
『お前が得意気にすんな。……え、あれ見えてんの? 点だろあんなの』
配信画面をチラ見しつつ自分のモニターを見つめていたライフラインが呆然と呟く間にも、ホライゾンとパスファインダーが敵をダウンさせていく。
その弾の置き方、半身を出して敵を確認する時間、その全てが、プレデターの中でも上位層の動きにしか見えなかった。ライフライン自身もプレデター帯では比較的上の方にいるという自負があったからこそ、言葉を失うしかなかったのだ。
その時、ピンポンとマヌケな音が鳴る。
「やば! ウーバー届いたわ……まあ、置き配にしてるし」
そう言った此夢望だったが、何度となくインターフォンが鳴り続けて「ふざけんな! 置き配にしてるだろ!!!」と叫ぶ。その瞬間、彼女の声が聞こえたのか、インターフォンの連打が落ち着く。
──配達員可哀想
──FPSしてる時のピンポン連打以上に腹立つもの無いからな
──第五人格してる時も腹立つ
その時、discordにメッセージが届く音が聞こえ、此夢望は傍らに置いたiPhoneのロックを解除して液晶をチラ見しながら交戦する。
プレデター帯での戦闘ということも有り、余所見をしながら撃ち合うだけでもシールドが削れて回復が増える。
チラリと見えたアカウントは右往左往のもので、“GTA”という単語が見える。そこだけ確認した此夢望は前線へと駆け出してラスト四人のうちバンガロールの脳天を撃ち抜く。
『此夢望ってマジで一八歳? 完成されきってるだろ、プレイが』
ライフラインの呟きに、パスファインダーが『だから人気あるんだって!』と興奮したように告げる。
ライフラインも決して下手では無く、パスファインダーもしっかりとキルを取っている。
しかし此夢望の動きは更に一枚上手だった。何よりもヘッドショットと弾を置く位置が完璧だった。
まるで、自分ならそう逃げるとでもいうかのように。
パスファインダーが、ゆっくりと息を吐き出す。
三人のモニターには『YOU ARE THE APEX CHAMPIONS』という文字が浮かんでいた。
「ナイス」
最後にその一言が聞こえ、此夢望はチームから消えた。
此夢望はiPhoneを操作しながら玄関扉を開ける。そこにはビニール袋に入ったマクドナルドの紙袋が置かれており、それを持ち上げて部屋へと戻る。
──望おつかれ
コメントの労りに、此夢望は「サンキュ」とだけ返して右往左往から届いたメッセージを読む。
何故か望のイラストをdiscordアイコンにしているせいでテュールから「分かりにくいよ!!」と怒られたこともある右往左往は、それでもそのアイコンを変えることは無かった。
紙袋を漁ってスプライトを取り出した望が「そういえばストロー無いんだった」と独りごちて、直接口を付けてごくごくと喉を鳴らして炭酸を飲み下す。
「ハンバーガー食うから」
そう告げた此夢望がヘッドセットのミュートボタンを押して袋から取り出したハンバーガーにかぶりつく。
華奢な少女に巨大なハンバーガーという組み合わせに、リスナーが俄に湧く。
──これを見るために生きてきた
そんなリスナーを無視して、此夢望は数度瞬いてから再び最初からdiscordのメッセージを読む。
『望おつかれ! 配信中なのは分かってるから返信は後でで大丈夫だから!
毎年、15日間だけ配信者とか漫画家とかひっくるめて遊ぶGTAの巨大鯖があるんだけど、今年は望もどうかなって思ったんだけど。GTAはRPしながらギャングとか飯屋とか救急隊、警察なんかになって遊ぶゲームでさ、合わなかったら数時間やって終わるでも良いし!』
右往左往からのメッセージに、食事中にも関わらず此夢望は初めてミュートを外して口を開く。
「なあ、配信者ひっくるめてのGTA鯖って分かる?」
──10日くらいだけしかやらないあれな?
──年1のやつ
──盛大なごっこ遊びだから望がやるなら見てみたい
「分かんねー。まあ良いか」
此夢望は再びミュートにしてハンバーガーへかぶりついてからdiscordに『参加するわ』とだけ告げてスマホを置く。




