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冴えないおっさんプロゲーマー、TS美少女で成り上がりプロゲーマーに返り咲きます!  作者: 田中


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第一二話 絵師と切抜

 おっぴろげ之スケトウダラが此夢望を見つけたのは完全な偶然だった。Twitchを流し見している時にワイプで切り抜かれた少女の姿と、彼女が操作しているとは思えないほど精緻な射撃技術に思わず入室したのが始まりだった。

 此夢望は常に威風堂々としており、不敵な笑みを浮かべてキーボードとマウスを使って世界を駆け回っている。

 おっぴろげ之スケトウダラはそんな此夢望に憧れて切り抜き師を始めたのだった。ただ切り抜くだけでなく、彼女をイラスト化して描いたものに切り抜き音声を合わせたのだ。


 少しずつ技術が上がり、最初はただそれっぽく動かしていただけのものが現在ではアニメかと見紛うほどにまで成長していた。

 切り抜き師として自己を殺し、おっぴろげ之スケトウダラはYouTubeアカウントを之の一文字で運用していた。

 しかし、その特徴のあるイラストのお陰かコメント欄でその名を見ることも少なくは無かった。


 そんな中、おっぴろげ之スケトウダラは此夢望の配信中の言葉を聞き、言葉を失う。


 それは彼女がCoDの配信をしている時のものだった。既に世界一〇位に入っていた彼女は、普通なら雑談なんてしながらするような緊張感では無いはずだった。

 それでも、いつも通りピンク色のスキンにカラフルな迷彩を被せたM4 LMGを抱えて、モニターから一切目を離さずに口を開いたのだ。


『いつも、俺の切り抜きしてくれてるヤツ』


 静かな声の後にサイトが覗かれ、生き残りが一人消える。


『俺はああいうのよく分からないし、その活動でどういう層が助かってるのかは分かんないけど、そのお陰で俺を知ったとか、それが生きる糧になるとか、そういうことを言うヤツもいるから』


 再びサイトが覗かれ、タン、タンと数度銃声がして静かになる。


『俺も世界に拾ってもらった立場だから、お前らのおかげで生きてる人間がいるなら、その働きは誇れよ。俺が褒めるから』


 時間にして、ほんの三〇秒ほどの言葉だった。

 それでも、此夢望というストリーマーが“切り抜き師”へ言葉を掛けたのはそれが初めてだったのだ。

 非公式アカウントのうち、此夢望が公認しているものは“此夢望本日の配信予定”というXアカウントと此夢望の配信をそのまま切り抜く“ストリーマー・VTuber切り抜き”というYouTubeアカウント、そしておっぴろげ之スケトウダラが運用する“之”だけだったのだ。

 そんな中で、配信のさなか良く話題に上がるのは非公式アカウントのみで、切り抜き師については基本的に口を閉ざしていたのだ。


 その言葉に、おっぴろげ之スケトウダラは何も反応できず、ただその瞬間を切り取ったのだ。

 此夢望にピンク色のスキンを着せてサイトを覗かせ、そしてその姿に音声を乗せる。


──之さん、喜んでて草


──自分の活動が推しに理解されて応援されてんの羨ましい


──なんか時々望って優しい声出すよな


──望が人気になって嬉しい反面、俺たちの望なのになって気持ちが半分ある。インディーズバンドがメジャーになった時みたいな寂しさ


──このアニメみたいにぬるぬる動くイラストまじで凄いよな

 これは望じゃなくても触れたくなる


 いくつもいくつも届くコメントに、おっぴろげ之スケトウダラは決して返事をしなかった。いいねを付けることすらない。

 ただただ、自己を殺して切り抜きを続けるのだ。

 おっぴろげ之スケトウダラにとって、それが此夢望を応援する方法だったから。


 おっぴろげ之スケトウダラが切り抜いた中で一番再生されているものは、此夢望がTwitchで初めて配信をしたものだった。


『お前らのそのコメント、全部撤回させてやるからな。見とけよ。もし少しでも上手いと思ったらフォローしろ、俺との約束』


 その、自信満々な声と、おっぴろげ之スケトウダラの柔らかながら色合いのはっきりとしたイラストが徐々に広まり、此夢望のリスナーを増やした一端にもなったのだった。



──スケトウダラさん


 Xでチンション爆上げ侍に声を掛けられる。同じ此夢望のファンアートを描く者同士として、チンション爆上げ侍とおっぴろげ之スケトウダラは仲の良いイラストレーターだったのだ。


──どうしたんですか?


 丁度冬コミの半年前で、それぞれが次の冬コミに向けて新刊を考えている頃合いだった。


──右往左往×此夢望のアンソロジーを企画してるんですけど、スケトウダラさんも寄稿していただけないですか?


──えっ!自分がですか?


──朕、スケトウダラさんのイラスト大好きなんです


 チンション爆上げ侍からの言葉に、おっぴろげ之スケトウダラは嬉しい気持ちが湧き出す。


──どうして右往左往×此夢望なんですか?こないだのコラボ以外に関係ありましたっけ?


──それが!実はうおちって望の大ファンらしいんですよ!


 チンション爆上げ侍からのプレゼン資料に、おっぴろげ之スケトウダラは思わず苦笑をする。その中に切り抜き動画があるのを見つけて開く。


『俺! 望に絶対着いて行くから! ア゛ーーーーー!!! 死んだ!!!!』


 音量注意のタイトルと同時に鼓膜を劈く右往左往の声に、おっぴろげ之スケトウダラは思わず頭を押さえる。


──うおち、望のガチファンらしくて自分の配信時間を望の配信に重ならないように調整してるらしいんですよねw


──“ガチ”じゃないですか!w


──本人曰く恋ではないらしいですwwでもこんなの、うおちと望のカプ本描かないと嘘じゃないですか


──アンソロ、誰が参加するんですか?


 おっぴろげ之スケトウダラからの問いに、チンション爆上げ侍の返事がしばらく止まる。名前を羅列しているのだろうかと待っていると、その通りだったようで言葉が返る。


──朕と、漫画で山田一浪三浪さん、太郎さん、ダイスケ山田さん、スネコスリさんで、小説で清流さん、斎藤さざれさん、匿名人物βさん、揚げ出汁トマトさん。イラストで便ジャミンさん、轟けつよつよソードさん、豊洲市場浪速支店さんです


──大物だらけじゃないですか!


──スケトウダラさんが入ったら更に箔が付きますね!


 チンション爆上げ侍からの返事におっぴろげ之スケトウダラは思わず声を上げて笑い、そしてカレンダーを見る。

 まだ新刊の内容は決まっていなかったが、アンソロジー一作程度足しても問題無いだろうと頷く。


──では、参加させてください


──やったー!ありがとうございます。原稿、楽しみにしてます!


 チンション爆上げ侍との会話を終わらせてから不意にTLを見る。そこには先程話していたチンション爆上げ侍がイラストレーターを務めたNOVA GEAR×此夢望コラボのパソコンについてのポストがある。

 それを、そっとクリックする。


 スタンダードモデル、パフォーマンスモデル、ハイエンドモデル、フラッグシップモデルと並ぶ名称の下に数字が並んでいる。


「これからも切り抜き続けるし、買おうかな」


 ハイエンドモデルと書かれたそれを押して、三六回払いを押す。


「月二万ちょっとか」


 少し高い買い物だが買えない金額では無い。

 既にくたびれてすぐに熱を持ちたまに落ちる古びたパソコンでは切り抜きを続けるのも苦しいだろうと、おっぴろげ之スケトウダラは物臭に足を伸ばして鞄を手繰り寄せる。

 鞄の中から気に入って買ったマルジェラの財布を取り出すと、そこからクレジットカードを引っ張り出す。


 選べる項目は全て初期設定のままカートへ入れて精算画面へと移る。


──三六回払いまで分割手数料〇円キャンペーン!


 そう書かれているのを確認するとクレジットカードの情報を入力していき、支払い方法を分割へ設定する。


「すごいな、チンション爆上げ侍さん」


 静かな言葉と共に購入ボタンを押し、おっぴろげ之スケトウダラはパソコンをシャットダウンする。

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