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冴えないおっさんプロゲーマー、TS美少女で成り上がりプロゲーマーに返り咲きます!  作者: 田中


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第一一話 実機と絵師

──やばいかもしれない。


 此夢望ファンアート界隈では有名人であるチンション爆上げ侍が、一つのツイートを世に放った。


──どうしたんですか?侍さん(A;´・ω・)アセアセ


──詳細は言えないんだけど、すごいことが起きてる…私の世界が変わるかもしれない\(^o^)/


 一四万のフォロワーを誇るチンション爆上げ侍が此夢望のファンアートを描くようになったのは、彼女がTwitchで配信をするようになった半月後だった。

 Xで共に配信者を描いていたフォロワーの全裸尻ペンペン丸からすごいストリーマーがいると聞き、普段は見もしないTwitchへと赴いたのだ。

 そこにいたのは薄手のTシャツ一枚でゲーム実況をする少女だった。


 白皙の肌に勝ち気な猫目、常に唇には笑みが刻まれて白い髪は後ろで適当にひっつめられている。

 彼女の前にはゲーミングキーボードとマウスがあり、黒と赤のヘッドセットで前髪が幾束か上がっている。Tシャツは豊満な胸で押し上げられてチンション爆上げ侍が特に性癖としている乳カーテンさながらだった。


──やばい!この子知らなかったの世界の損失すぎる


──チンションさんの絵柄で望を見たかったので共有しましたw


──マジでありがとう。ありがとう全裸、ありがとう神様、ありがとう世界


──次の新刊決まりましたわ


 チンション爆上げ侍がその日に上げたTシャツ一枚で歯磨きをしている此夢望のイラストは二四〇〇〇リポストに三一五〇〇いいねを記録した。

 まだ此夢望がそう知られていない頃だったこともあり、オリジナルを描くことのほとんど無いチンション爆上げ侍の珍しいオリジナルイラストとして紹介されるようになり、チンション爆上げ侍は「彼女はTwitchで配信してるストリーマーです」と訂正するのだった。


 そうして此夢望を追い続けて四ヶ月半が経過した頃だった。配信者界隈では人気があるパソコン・周辺機器企業のNOVA GEARからチンション爆上げ侍へDMが届いたのは。


『チンション爆上げ侍様


 突然のご連絡、失礼致します。

 NOVA GEAR商品企画部の奄美白百合と申します。


 この度、弊社とストリーマー・此夢望様とのコラボレーションモデルのパソコンを製作する運びとなり、そのイラストレーターとして、ぜひチンション爆上げ侍様へご依頼をさせて頂きたく、ご連絡致しました。


 以前よりチンション爆上げ侍様がSNS上へ投稿されている此夢望様のファンアートを拝見しております。

 弊社内でも複数のイラストレーター様を候補として検討致しましたが、チンション爆上げ侍様の描かれる、此夢望様の凛々しさと可愛らしさを併せ持った表現、また赤・黒を基調とした弊社製品との親和性を高く評価し、第一候補としてお声掛けさせて頂くこととなりました。


 現在予定しておりますご依頼内容は、コラボレーションモデルの筐体へ使用するメインビジュアルを中心に、購入者特典として使用する壁紙等を想定しております。


 詳細な制作内容、納期、報酬、著作物の使用範囲等につきましては、チンション爆上げ侍様にご検討頂けるようでしたら、改めて資料をお送りした上でご相談させて頂ければと存じます。


 なお、本件は現時点では未発表の企画となりますため、誠に恐縮ではございますが、企画内容ならびに此夢望様とのコラボレーションにつきましては、正式発表まで第三者への開示をお控え頂けますようお願い申し上げます。


 ご多忙のところ恐れ入りますが、ご興味をお持ち頂けましたら、一度ご返信を頂けますと幸いです。


 チンション爆上げ侍様と共に、NOVA GEARと此夢望様双方の魅力を最大限に引き出した製品を作り上げられましたら、弊社としても大変嬉しく存じます。


 なお、本製品の開発担当である加賀城遥斗も、今後のお打ち合わせに同席させていただく予定です。


 何卒、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。


 株式会社NOVA GEAR

 商品企画部 奄美白百合』


 そのDMを見た瞬間、チンション爆上げ侍は思わずデスクチェアからひっくり返り、同居人である妹から「うるさい!」と怒鳴られたのだ。

 そして、冒頭の反応へと戻る。


 結局、そこから幾度もやり取りをして実際にチンション爆上げ侍がイメージイラストを担当することになり、此夢望本人とも顔合わせをして挨拶や軽い雑談を行いイメージを固めたうえで五枚のラフを仕上げて送ったのが半月ほど前のことだった。


 企業とやり取りをしていてもコミケは待ってはくれない。次の新刊をどうするかとチンション爆上げ侍が悩んでいた矢先に始まったのが個人勢のコラボVALORANTだった。


 此夢望のアカウントをフォローしていても最初の三ポストから一切増えないポストに困惑していたところ、同じく此夢望のファンをしていた安らか胸大福からの情報で、非公式アカウントが此夢望の配信情報をいち早くポストしてくれていると聞き、そのアカウントをフォローしてしばらくのことだった。


──此夢望VALORANT配信

 テュール・トゥトゥリア、右往左往、アレックス・ほっとけ、杏仁豆腐豆腐抜きとのコラボVALORANT

 配信媒体 YouTube


 その情報を見てYouTubeチャンネルへ足を踏み入れて、チンション爆上げ侍は雷に撃たれたかのような感覚に陥った。

 初めて見た右往左往というVTuberの姿に、チンション爆上げ侍は目を見張ったのだ。


 表情豊かな兎頭にモノクル、執事服。

 此夢望という存在と対極にあるかのようなその姿に、チンション爆上げ侍はこのカップリングを描けと神に叫ばれたような心地すらした。


──今年の冬コミ新刊は右往左往×此夢望です!


 チンション爆上げ侍のツイートに、何故右往左往!? という反応もあったものの、既に切り抜きが上がっていた此夢望に犬のように着いて行く右往左往のショート動画を貼ることで理由を見せつけ、早速パソコン前で液タブを開く。


「此夢望コラボのパソコンって、絵描き的にはどうなんだろ」


 普段店員に勧められるがまま購入していたパソコンのことが気になって、液タブをそのままにGoogleを開く。

 しかし、専門外の自分には難しいことばかりが書かれており眉を顰める。


「ねえ、ユウカぁ」


 別部屋にいる妹の名を呼びながら部屋を出ると、妹は暖房の付いた部屋の中でタンクトップにショートパンツを穿いてだらしなくテレビを観ていた。


「なに?」


「ユウカ、パソコン詳しいでしょ。ちょっと聞きたいことあるんだよね。パソコンってさ、値段が高いほど絵を描くのも快適なんでしょ?」


「お姉ちゃん、何に使うの?」


「絵かな、クリスタとPhotoshop。あとはたまーに動画弄るくらい」


 スマホに上げられた此夢望モデルのパソコン一覧をユウカはチラリと見る。そして指先でツイと操作して、ひとつのモデルを却下する。


「じゃあ一〇三万のフラッグシップはいらない」


「えっ」


「何驚いてんの。あれ、配信しながらFPSやったり、動画録画したり、それでも性能余らせたい人向けでしょ。絵描くだけなら完全にオーバースペック」


 妹はチンション爆上げ侍のスマートフォンを取り上げると、NOVA GEARの比較表を指でスクロールしていく。


「スタンダードでも絵は描けるけど、お姉ちゃん、キャンバスでかいしレイヤー馬鹿みたいに増やすじゃん」


「馬鹿みたいじゃないだろ」


「この前七〇〇レイヤーあったって言ってたでしょ」


「必要だったからだって、それは」


「だから五〇万台のパフォーマンス以上。メモリ多い方がいいし、クリスタとPhotoshop同時に開いて、資料でブラウザ何一〇枚も出すなら余裕あった方がいい。SSDも仕事で使うなら大きい方が楽」


「じゃあ五〇万の?」


「普通ならそれで十分。でもお姉ちゃん、3D素材も使うし、動画も触るし、これから企業案件増えるんでしょ?」


「……増えたら嬉しいくらい」


「だったら七〇万台のハイエンド。長く使うならこれ」


「一〇三万は?」


「いらない。お姉ちゃんが高いの欲しいのは、性能じゃなくて自分が描いた絵が載ってる上位モデルが欲しいからだけでしょ」


 痛いところを突く言葉に、チンション爆上げ侍は思わず口を閉ざす。


「なるほどね、ありがとうユウカ」


「それにしても、コラボレーションモデルとは思えないほど気合い入ったパソコンだね」


 スマホをツイツイと操作するユウカは、そこに映るハイエンドモデルの情報を眺めて呟く。


「あと、絵描きならパソコン本体より液タブの色の方ちゃんと気にしなよ。一〇〇万のパソコン買ったって、モニターの色が狂ってたら意味ないから」


「……妹が急にプロっぽい」


「お姉ちゃんが何も知らなさすぎるだけ」


 話はそれで終わりとばかりに、ユウカはコタツの上へチンション爆上げ侍のスマホを置くとポテトチップスを指に挟む。


 次に買う大きな買い物が決まって、チンション爆上げ侍は少しだけ気分が上がっていた。

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