第一〇話 協議と実機
NOVA GEARとのコラボパソコンは最終的にスタンダードモデル、パフォーマンスモデル、ハイエンドモデル、フラッグシップモデルの四種類が発売されることが決定した。
その全てのモデルに、起動時とシャットダウン時に此夢望のボイスが流れることも決定となった。
これには此夢望から相当な反発を受けたものの、コラボパソコンだからという加賀城遥斗からの粘り強い押しも有り決行された。
「俺、そんな長台詞喋らないですけど」
「はい、もちろんです。望さんのファンはほんの一言でも喜ぶので」
加賀城遥斗からの言葉に此夢望は相当に嫌そうな表情を浮かべながらもボイス収録のためにスタジオへ行き、実際にその声を録音したのだった。
NOVA GEARとのコラボパソコンの発売までには約半年が掛かった。
NOVA GEAR初のフラッグシップモデルということもあり、此夢望ファン以外からも期待を寄せられ、新情報が出る度に今か今かと待ち望まれていた。
企画から半年での発売ということで、あまりに駆け足での発売に心配の声も寄せられたが、それはNOVA GEAR公式YouTubeアカウントにアップロードされた動画によって終息した。
『スタンダードモデルがこれなのは良いけど、排熱が弱いな。もしこのモデル買ったヤツがちょっと重いゲームやったらすぐ煙吹くだろ』
『では、排熱ファンの強化と冷却液を……』
『この起動音どうにかなんない?』
『そこは此夢望モデルなので、それがファンには嬉しい部分ですね』
『このマウス、NOVA GEARのもうちょっと良いF7-PRO77にしてくれね? 使いにくくてさ』
『普段望さんが使っているものですか?』
『そう、これ重いわ』
ガチガチのゲーマーだからこその視点で全モデルの試作品を試運転して弱点や評価点を口にする此夢望の姿に、こんなにも強力な協力者がいるのであれば、それは半年で完成もするだろうと納得するのだった。
此夢望とNOVA GEARの開発担当との何十回にも渡る試運転は全て動画化され、NOVA GEAR公式YouTubeアカウントへと投稿されていた。その過程を見るほど、NOVA GEARファンは初のフラッグシップモデルへの期待度を高め、此夢望ファンは彼女の協力したコラボパソコンへの期待を高めていったのだった。
とうとうNOVA GEAR×此夢望コラボレーションパソコンが販売開始された日、予約サイトはサーバーダウンするほどに盛況だった。
結局、発売初期の予約・受注分だけでスタンダードモデルは約二八〇〇台、パフォーマンスモデルは約一一〇〇台、ハイエンドモデルは約四〇〇台、フラッグシップモデルは約一五〇台を売り上げ、計約四四五〇台の売り上げとなった。
赤と黒の軍服調のミニスカートを履いた此夢望が髪を掻き上げた姿が筐体に描かれ、彼女に被るように此夢望のサインがされている。
彼女のイラストは最初の会議で告げられた通りチンション爆上げ侍が担当しており、その凛々しさすら感じさせる描画はまさにNOVA GEARと此夢望を示すに値する作品だった。水冷ヘッドにはチンション爆上げ侍が手掛ける此夢望のアイコンが箔押しされたロゴカスタムであり、起動すると全体が赤のLEDでイラストが完成するようになっていた。
購入者特典として、チンション爆上げ侍が手掛ける二種類の壁紙と、アイコンのみの壁紙の三種類が保存されており、A4クリアポスターにアクリルスタンドまで同梱されていた。
そして、チンション爆上げ侍のイラストカードには直筆サインが入り、メッセージまで同封されていたのだ。
サインを書く此夢望の様子も動画として撮られており、サイン一〇枚を書く度にAPEXを一戦し、それがAPEX五戦につきサイン一枚になり、とうとう締め切りが課せられるほどになる姿まで撮られていたのだ。
此夢望を知らなかった、見ていなかった層まで彼女のことを知り、面白いストリーマーだということが知られるようになっていった。
『加賀城さん』
『はい?』
『マジでNOVA GEAR店舗に俺の等身大パネル置かれんの?』
『そうですね、一応東京・大阪・愛知・福岡の各店舗には置かれる予定です』
『それさぁ、やめない? 俺、ストリーマーなんだけど。VTuberでしょ、そういうことすんの』
『今回のコラボを受けてのものなので』
サインの合間になされる会話に、此夢望が小さく唸る。その様子すら、ファンから見れば可愛らしい猫の威嚇のようなものだった。
結局、此夢望が全てにサインをし終えるまでに編集されているだろうにも関わらず一時間超えの動画が七本になっており、彼女のファンであっても全てを観ることは難しいだろう数になっていた。
NOVA GEAR公式ホームページには此夢望コラボレーションモデルへの導線ができており、そこに入るとNOVA GEAR公式アンバサダーであるVTuber宮丸ともえとの対談の様子が観られるようになっていた。
『NOVA GEARファンの皆さーん! こんばんは! 今日はなんとなんと! 大人気ストリーマーの此夢望ちゃんが来てくれていまーす!』
耳の下で大きく膨らんだふたつ結びの金髪に猫のような口、大きな赤色の瞳をした女の子が両手を顔の近くへ持ってきてガオーとポーズを取る。
『どうも』
『今回、NOVA GEAR×此夢望ちゃんのコラボレーションモデルが発売ということで、実際にNOVA GEARから此夢望ちゃんへも贈られたフラッグシップモデルで此夢望ちゃんにゲームをしてもらいながらパソコンの性能について聞いていこうと思います!』
『とりあえずなんでも良いって言われたんでエペで大丈夫ですか』
宮丸ともえの3Dアバターの映っている辺りを見つめる此夢望に、宮丸ともえが腕で大きく丸を作る。
『はい! それでは~……此夢望ちゃんのAPEX実況しながらパソコン性能聞いてみた! スタート!』
緩く始まったそんな動画は、再生時間が五時間にまでのぼっていた。生配信がそのまま対談として残されていたようだった。その中には実際に購入した人からの一言を紹介するコーナーもあったようだが、その全てで此夢望はゲームをしながら返事をするという此夢望ファンにとっては見慣れた姿を見せられていた。
そして、そんな此夢望の姿を見ることでNOVA GEARファンは五時間の配信とゲーム負荷に耐えられるパソコンであることを実際にその目で見せられているのだということに気が付き、そのフラッグシップモデルがどれだけ高性能かを理解させられるのだ。
『ふー、はい! これでNOVA GEAR公式アンバサダー、宮丸ともえとストリーマー此夢望ちゃんとの対談は終了でーす! みんなー! 此夢望ちゃんに聞きたいこと、全部聞けたかなー?』
そう問いかけた宮丸ともえが自分の右耳へ右手を付けて聞く姿勢を作る。
『うんうん、聞けたみたい! もしもこれ以降で此夢望ちゃんに聞きたいことがあるんだってみんなは、此夢望ちゃんのYouTubeちゃんねる……ごめんなさい! Twitchまでお願いしまーす! それでは、NOVA GEAR公式アンバサダー、宮丸ともえでした!』
ばいばーい! と宮丸ともえが大きく手を振る横で此夢望は軽く頭を下げ、対談動画は終わった。
この動画が投稿されてからパソコンの販売数はやや上がり、NOVA GEARは過去最高益を更新したと言われるほどの業績を誇った。
実際に高負荷をかけてゲームをし続ける此夢望がノンストップで五時間以上パソコンを駆動させていたのだ、それが宣伝にならないはずが無かった。結局、最終的にはスタンダードモデルとパフォーマンスモデルの売り上げが一・二倍となったと、此夢望は小耳に挟んだのだった。




