表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/65

第八話 水が語るもの

全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。

ここまで読んで「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

カーセン村は館から歩いて半刻ほどの距離だった。


ミリアと並んで歩きながら、俺はこの領地を歩くのが二度目だと気づいた。前回は一人で手帳を持って調査していた。今回は隣に人がいる。それだけで、何か違う感じがした。


「村長は何という方ですか」


「エルンストさんです。六十歳を過ぎた、少し頑固な方ですが、領民思いです」とミリアが答えた。


村長のエルンストは確かに頑固そうな男だった。


俺たちを見て、最初に言ったのは「子供が何しに来た」という顔だった。ミリアの顔は知っていたらしく、少し表情が和らいだが、俺への警戒は残っていた。


「腹痛の件を聞きました。水源が原因かもしれないと思って確認に来ました」


「水が原因? 何年もこの水を飲んでいるが」


「毎年、腹を壊す季節がありますか」


「……まあ、秋口には毎年何人か。慣れれば大丈夫だ、毎年のことだ」


毎年のことだから仕方ない、か。


俺は内心で溜息をついた。この世界で一番大きな「壁」がこれだと思う。壊れることへの諦め。当たり前だと思ってしまうと、改善しようという発想が生まれない。


「孫御さんはいらっしゃいますか」と俺は聞いた。


村長が少し表情を変えた。「……いるが」


「腹痛で困ったことはありませんか」


間があった。


「……毎年、秋には熱を出す。腹も痛がる」


「水源を見せてください」


水源は村の北側にある湧き水だった。見た目は透明で、きれいな水に見えた。ミリアが「臭いはないですね」と言った。


俺は水源に意識を向けた。


(術野の目──)


水の中が透かして見えた。水自体に色はないが、その中に浮遊する微細な汚染物質が、薄い褐色の靄として見えた。上流から流れ込んでいる。


「少し上流に何かあります」


岸沿いを上流に歩いた。十分ほど進んだところで、草むらの中に鹿の死骸があった。かなり腐敗が進んでいた。


ミリアが顔をしかめた。「これが……」


「腐敗した体から出た菌が、川を伝って水源まで流れ込んでいます。今は量が少ないですが、秋口は動物が川岸で死にやすい。毎年この時期に腹痛が増えるのは、それが原因だと思います」


「取り除けば治りますか」


「死骸を埋めて、水源周辺を清潔にする。それだけでも大きく改善します。それと、水を沸かしてから飲む習慣をつければなおいい」


ミリアが「沸かせば菌が死ぬんですか」と聞いた。


「熱に弱い菌は多いです。水が大きく煮立つまで沸かせば、かなり除菌できます」


「私の薬草で、水の殺菌力を高めることもできるかもしれません。ヨモギとナズナを煎じた水は雑菌を抑える作用があります」


「それは素晴らしい。一緒に試してみましょう」


村長に戻って説明した。エルンストは最初、「そんな面倒なことを」という顔をした。


「一週間だけ試してみてください」と俺は言った。「死骸を埋めて、水源を清掃して、飲み水を沸かす。それだけです。もし腹痛が減れば、それが答えです」


「…孫が毎年熱を出すのは、確かに困っている」


村長が考え込んだ。


「分かった、やってみよう」という言葉は、すぐには来なかった。俺は待った。


「……一週間だけだな」とエルンストが言った。


「はい。一週間後に確認に来ます」


「来なくていい。効いたら自分で報告する」


「分かりました。ではミリアさんの薬草浄化剤を置いていきます。使い方はミリアさんから聞いてください」


帰り道、ミリアが「村長は頑固でしたね」と言った。


「でも動いてくれました。それで十分です」


「孫の話を出したのは、計算していましたか」


「……正直に言うと、少し。でも孫の話を聞いた時は、本当に心が動きました」


ミリアが小さく笑った。「正直な人ですね」


「医師は患者に嘘をつかない方がいいと思っています」


「医師、ですか」


俺は少し詰まった。


「昔の癖が出ました。気にしないでください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ