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48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


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第六十九話 レオンとして生きる

領地が見えてきた時、息を吐いた。


馬車の窓から、見慣れた山並みがあった。ヴェルディア領の山だ。バルカ村の採石場がある山も見えた。


(ここが私の場所だ)


王都に何ヶ月いたのか、正確には数えていなかった。でも帰ってきた、という感覚は一瞬で分かった。


館に着くと、父と母が出てきた。


「よく帰った」と父が言った。


「ただいまです、父上」


母ヘンリエッタが「お帰りなさい」と言った。それだけだった。でも目が笑っていた。


広間で報告した。民間医療行為の合法化。王立医学院の設立決定。初代院長就任。全部を話した。


父が聞き終わって「……よくやった」と言った。「お前がいなかった間、ヴェルディア領はちゃんとあったぞ」


「それが一番大事です」と俺は言った。


「バルカ村の石材は、今月初めて王都向けに出荷できた。ボロスが手配した」とヴィルが言った。「セイル村の農地は、グスタフ老人の話では今年が一番の出来だそうだ」


「良かった」


「あなたがいなくても、続いていました」とヘンリエッタが言った。「あなたが作った仕組みが続いていました」


仕組み、という言葉が頭に響いた。


(そうだ。仕組みが続いていれば、私がいなくても大丈夫だ)


夜、書斎に一人でいた。


(私は何者か)


三上哲也として六十七年を生きた。外科医として四十二年の仕事をした。そしてレオン・ヴェルディアとして、この世界で生き直している。


どちらが本物か、という問いは意味がない。どちらも本物だ。


「私はレオン・ヴェルディアです」と声に出した。


誰も聞いていなかった。でも声にすることが必要だった。


「三上哲也でもあります。しかし今は、レオンとして生きていきます」


それが全てだった。


翌日、ミリアと話した。薬草の新しい記録を見せてもらいながら、イザベルのその後の経過を確認した。


「これからも一緒に続けますか」と俺は聞いた。


「もちろんです」とミリアが言った。「王立医学院の薬学主任を引き受けました。やめるつもりはありません」


「良かった」


それから少し間を置いた。


「……一緒にいてもいいですか」と俺は言った。「医療以外でも」


ミリアが止まった。


俺も止まった。


(不器用な言い方だ。でも正直な言い方だ)


ミリアが笑った。「最初からそのつもりでした」と言った。


「最初から?」


「ヨハン様を診た夜から」


俺は何も言わなかった。


ミリアが「一緒にいてもいいですか、という言い方は変ですよ」と言った。「もう十分一緒にいますから」


「それはそうですね」


「……改めて言ってくれたのは、ちゃんと受け取りました」とミリアが言った。


窓の外にヴェルディア領の夕暮れがあった。


(ここで生きていく。レオン・ヴェルディアとして。術野の目を持って。ミリアと一緒に)


直すべきものは続く。終わらない。でもここに根があった。ここから続けていける。

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