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48歳元外科医、転生先でハズレスキル『術野の目』を武器に医術なき王国を立て直す  作者: ヲワ・おわり


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第七十話 直してくれ

半年後。


王立医学院の第一期卒業式が、王都で開かれた。


十名の卒業生が並んでいた。男が六名、女が四名。年齢は十七歳から二十三歳だった。半年間、朝から晩まで学んでいた人たちだ。


ミリアが薬学主任として前に立っていた。白い上着を着て、学生たちに向かって話していた。「薬草の標準処方書・第一版」を全員に渡していた。


ガブリエルが「古代医師団の歴史書・第一巻」を持って廊下に立っていた。「次は第二巻を書きます」と言っていた。目が楽しそうだった。


遠くで、ヨハンが式を見守っていた。


(ヨハン。最初に俺が術野の目を使った相手だ。元気でいた)


俺は卒業生の前に立った。


「みなさん、半年間、よく学びました」


拍手が来た。それが静まるのを待った。


「一つだけ言わせてください」


十名が聞いていた。


「君たちの目で、この世界の壊れているものを、直してくれ」


それだけだった。


式が終わる前に、卒業生の一人が手を上げた。十九歳の男だった。


「先生、壊れているものが見えない時はどうするんですか」


俺は少し考えた。


「見えるまで、患者の話を聞き続けることです」


卒業生が「……分かりました」と言った。


「術野の目は誰にでもあるスキルではありません。でも、話を聞く能力は誰にでもあります。患者が話してくれれば、見えていないものが見えてくることがあります。まずそれから始めてください」


式が終わった。


クルトが近くにいた。「俺は何か直せましたかね」と言った。


俺はクルトを見た。


「十分直してくれた」と言った。


「どこをですか」


「情報を集めることで、見えなかったものが見えた。何度も。クルトがいなければ、モーランドの件は違う結果になっていました。ガブリエルの件も、エステルへの連絡も、あなたの動きが鍵でした」


クルトが「……そうでしたか」と言った。


「十分です」


クルトが少し黙った。「若様は変わりましたね」


「何が」


「最初は一人で全部やろうとしていた気がしました。今は違います」


「一人では直せないものがある、と気づいただけです」


「それが変わったということです」とクルトが言った。


廊下の窓からヴェルディア領の方角が見えた。王都にいたが、山並みが頭に浮かんだ。


(ここから始まった。バルカ村の水が戻って。橋が直って。農地が変わって。調査団が来て。伯爵の越境が止まって。弟が帰ってきて。患者が回復して。制度が変わった)


どこかで誰かがまだ壊れているものを待っている。


それは分かっている。終わらない仕事だ。でも終わらないことが、続く理由だ。


「術野の目」が動いていた。


廊下の石積みに小さな亀裂があった。雨が来る前に直した方がいい。


俺は小さな手帳を取り出した。書いた。「廊下・西壁・石積みの亀裂・要点検」。


隣でミリアが「また書いていますか」と言った。


「見えたので」と俺は言った。


ミリアが「……それで良かったです」と言った。「見えなくなったら、あなたじゃないですから」


術野の目は今日も、世界を診ている。

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