第六十八話 医学院を作る
布告の翌日、会議が開かれた。
王太子と側近、ヴェルディア家、王立学術院の代表者が集まった。「王立医学院設立」という議題だった。
「初代院長は誰が引き受けるか」という問いが出た。
俺は「私が引き受けます」と言った。「ただし条件があります」
「条件とは」と王太子が聞いた。
「仕組みを作り次第、委譲します。私一人が院長を続けることは目的ではありません。私がいなくても医学が続く仕組みを作ること、それが初代院長の仕事です」
「委譲か」と王太子が言った。
「一人の人間に依存するシステムは脆弱です。医師が倒れれば医療が止まる。それでは制度の意味がありません。仕組みとして残す必要があります」
学術院の代表者が「……的を射た指摘です」と言った。「医術を制度化するということは、個人に依存しないということですね」
「そうです」
「承知しました。その条件で」と王太子が言った。
ミリアが「私は薬学主任を引き受けます」と言った。
「薬学主任」と俺は言った。
「薬草療法の標準化と教育を担います。イザベルさんの治療で使った三種の組み合わせを、記録として整理します。再現性のある処方として残します。それが私にできることです」
「それは重要な役割です」と俺は言った。「ありがとうございます」
ミリアが少し頬を染めた。
ガブリエルが「私は歴史資料の整理を担当します」と言った。「古代医師団の知識を掘り起こし、医学の歴史的基盤を作ります。禁書庫で筆写してきた資料がそのまま使えます。今後も調査を続けます」
「古代医師団の記録が残れば、医学の正当性の根拠になります」と俺は言った。「頼みます」
「任せてください」とガブリエルが言った。「これが私の使命です」
会議室に何かが満ちた。
(三人がそれぞれの「直す」役割を持った。これが仕組みになる)
「仕組みとして残す」という言葉に、王太子が「これが国家に残るものだ」という顔をした。
「細かい設立の手続きは学術院と王太子の側近が進めてください」と俺は言った。「私は診断と教育の内容を準備します。医師を育てるカリキュラムが必要です」
「カリキュラム?」と側近が聞いた。
「学ぶべき内容の順序と基準です。見てきたものを教えるには、体系が必要です。それを作るのが初代院長の最初の仕事です」
「時間がかかりますね」と王太子が言った。
「一年もあれば形になります。その後、最初の学生を取れれば」
「学生か」とエドワードが言った。「面白い言い方だ」
「育てる必要があります。私が教えられるのは限られた期間です。でも教えた人間が次の人間に教えれば、続きます。それが仕組みです」
会議が終わった。
廊下でガブリエルが「兄上」と言った。
「なんですか」
「禁書庫に入った時は、まさかこういう結末になるとは思っていませんでした」
「そうですか」
「兄上は最初から、こうなると思っていたんですか」
俺は少し考えた。「最初は、直したいものがあるからというだけでした。結末は考えていなかった」
「それでここまで来たんですね」とガブリエルが言った。「直し続けたら、制度が変わった」
「直し続けたら、直すための仕組みを作ることになった」と俺は言った。「どちらが先かは、分かりません」
「……それが術野の目ということですか」
「分かりません。でも、今日は良い仕事をしました」




