第六十七話 王太子の布告
翌朝、広場に再び人が集まった。
今度は布告のためだった。
エドワード王太子が前に立った。読み上げる声が広場に届いた。
「民間医療行為の合法化を宣言する。ただし教会の治癒魔法はその独立した役割を維持する。医学的行為と治癒魔法は、それぞれ異なる役割を持つものとして共存する」
神官の一部が「王権による宗教介入だ」と声を上げた。しかし「治癒魔法の独占は維持する」という部分を聞いて、声が弱まった。
(うまい)
王太子は「共存」という言葉を選んだ。対立ではなく、それぞれの役割の確認だ。教会を潰すのではなく、医学の隣に置く。その構造が大神殿の全面反撃を防いでいる。
ガーランド司祭が広場の端に立っていた。
静かに頷いていた。「これが答えか……」という表情だった。
三十年間、何かを待っていた人間が、ようやく答えを見た、という顔だった。
(あなたも長い時間がかかりましたね)
でも、答えが来た。それが全てだ。
ミリアが横にいた。布告を聞きながら、目を拭っていた。
「ミリア」
「お母さんが聞いたら、と思って」とミリアが言った。「この布告を。どんな顔をするかな、と」
「喜びますよ」
「そうですね」とミリアが言った。「喜びますよね」
父も長兄も、ガブリエルも、隣に立っていた。ヴェルディア家全員が揃っていた。
王都に来てから何ヶ月が過ぎたのか、数えていなかった。調査団が来た日から始まって、伯爵の越境があって、召喚状が届いて、王都に来て、鑑定院と戦って、ガブリエルが帰ってきて、公開実証があった。
全部が繋がっていた。
(前世の後悔の供養が、ここで一つ完成した)
救えなかった命たちへ、と前夜に思っていた。
今日、その答えが一つ出た。制度が変わった。仕組みが変わる。次の医師が生まれる準備が始まった。
「次は王立医学院を作らなければなりません」と俺は言った。
「もう次のことを」とヴィルが言った。
「直すべきことは続きます。今日のことは、始まりです」
「お前らしい」とヴィルが言った。
「そういう性質なので」
布告が終わった。広場が動き始めた。人々が話し合いを始めていた。何かが変わった、という空気があった。確かに変わっていた。
「術野の目」が動いていた。問題はまだ見える。王都にも。領地にも。王国全体にも。
しかし今日だけは、少し違う見え方がした。
(直した。一つ確かに直した)




