第六十六話 48年が繋がった日
大聖堂前広場に、三度人が集まった。
前回より多かった。噂が広がったのだろう。庶民の列が広場の外まで続いていた。
イザベルが証言台に立った。
白い服を着ていた。顔色が違った。三週間前とは別の人間のように見えた。
「私はイザベルといいます」と彼女が言った。「三週間前、ここに座っていた患者です」
広場が静かになった。
「私は自分で歩けるようになりました。咳が消えました。熱がありません。七ヶ月ぶりに市場に行きました。生きています」
イザベルが一度だけ息を吸った。
「これは全部、本当のことです」
王立学術院の観察者が前に出た。「患者イザベルの状態変化について、正式に報告します。三週間の薬草療法と医学的処置により、肺機能の回復が確認されました。治癒魔法では到達できなかった段階まで改善しています。これを医学的処置による回復として認定します」
広場がざわめいた。
神官の一人が「これは偽造だ」と叫んだ。「患者が嘘をついている。教会への攻撃だ」
広場の空気が張り詰めた。
イザベルが振り返った。
「私はここにいます」と言った。「嘘ではありません」
静寂だった。
コンラート神癒長が前に出た。
「……私には反論できない」とコンラートが言った。「私が出来なかったことが、ここで示された。それは事実だ」
神官が「コンラート様!」と言った。
「事実は事実だ」とコンラートが言った。「私が批判するとすれば、私自身がより良い方法を示せた時だ。今の私にはそれができない」
広場が静まり返った。
俺は前に出なかった。
(全てはイザベルが語った。全ては記録が示した。俺が主張する必要はない)
広場の端にガーランド司祭がいた。静かに頷いていた。「三十年待っていた。ようやく来た」という表情だった。
エドワード王太子が側近に何かを言っていた。「これで動ける」という顔だった。
俺は内側だけで言葉を持った。
(三上哲也の四十八年間、ここで繋がった)
研修医三年目に失った患者。四十年間の手術室。救えた命と救えなかった命。前世で積み上げた全てのものが、今日この場所に繋がった。
あの時救えなかった命たちへ。あなたたちが私をここに送ってくれた。ここで繋がった。ありがとう。
(これは終わりではない。始まりだ)
ミリアが横に来た。「終わりましたね」と言った。
「始まりです」と俺は言った。「今日で、始まりが確認された。これからが本当の仕事です」
ミリアが「分かりました」と言った。「一緒にやります」
広場が動き始めた。人々が話し合い始めた。何かが変わった、という空気があった。
(王国の最大の病を診断するために生まれる、と古代の記録に書いてあった)
「術野の目」はまだ動いていた。広場を見渡すと、問題がある。直すべきものがある。城壁の向こうの貧民街にも。領地にも。王国全体にも。
(まだ始まったばかりだ)




