第六十五話 母への答え
一週間後、イザベルの部屋を訪ねた。
ミリアが先に来ていた。イザベルが椅子に座っていた。昨日より顔色が良かった。
「熱を測りました」とミリアが言った。「昨日より下がっています」
「咳は」と俺は聞いた。
「今日は朝に三回だけでした」とイザベルが言った。「先週は一時間に何度もしていたのに」
「術野の目」を向けた。
(変わっている。菌の集積が薄くなっている。右葉の濃い部分が散らばり始めている。体が自分で戦い始めた)
「回復軌道に乗っています」と俺は言った。「まだ完全ではありませんが、体が正しい方向に動いています」
イザベルが「……本当に」と言った。
「本当に」
ミリアが記録を確認していた。「薬草の効果が出ています。三種の組み合わせが正しかった」と言いながら、記録に何かを書き込んでいた。そして止まった。
「ミリア」と俺は声をかけた。
「……これは」とミリアが言った。声が詰まっていた。「お母さんはこの段階で助けを求めました。でも誰も来なかった。同じ症状で、熱が下がって、咳が少し減って、でも誰も来なかった」
「今は来た」と俺は言った。
「来た」とミリアが繰り返した。「イザベルさんは来てもらえた。それだけで、この先が変わる」
ミリアが記録を机に置いた。部屋の隅の方に向いた。
俺は何も言わなかった。
横にいた。それだけだった。言葉が要る時と、いらない時がある。今は言葉がいらない時だった。
しばらくして、ミリアが振り返った。目が赤かった。
「お母さんに届いた気がします」
「届いた」と俺は言った。「確かに届いた」
イザベルが「ありがとうございます」と言った。「私、生きていられます。来週、市場に行けそうです。七ヶ月ぶりに」
「気をつけて行ってきてください」とミリアが言った。目はまだ赤かったが、声が落ち着いていた。
「経過観察は続けます」と俺はイザベルに言った。「薬草療法をもう二週間続けてください。その後、また状態を確認します」
「はい」
外に出た。
ミリアが「すみません」と言った。「公開の場で」
「何がですか」
「泣いてしまいました」
「見ていません」と俺は言った。
「え?」
「前を向いていました」
ミリアが少し笑った。「……嘘くさい」
「嘘ではありません。ただ、泣いていても構いませんでした」
「なぜですか」
「直した証拠だからです」と俺は言った。「その涙は、正しいものです」
ミリアがまた黙った。
「三日後、公式評価の日が来ます」と俺は言った。「イザベルさんが広場で話します。それで全てが決まります」




