第六十三話 神癒師の失敗
大聖堂前広場に、人が集まっていた。
王族の席が正面に設けられている。その隣に貴族。後方に庶民。神官たちが両側に立っている。王立学術院の観察者が三名、記録台の前に座っていた。
空気が重かった。
イザベルが中央の椅子に座っていた。青白い顔だったが、目が前を向いていた。
コンラート神癒長が立った。
六十代の男だった。白い法衣に金の縫い取り。体格が良く、立っているだけで威厳があった。
(術野の目で見る)
コンラートのスキルは本物だった。治癒魔法の精度が高い。急性の傷なら確実に治せるはずだ。
コンラートがイザベルの前に立った。両手を広げた。光が生まれた。
白い光だった。広場全体に広がった。庶民から「おお」という声が漏れた。
光がイザベルを包んだ。
イザベルの表情が少し変わった。「楽になった」という顔だった。
(症状の緩和は起きている。でも根本は——)
もう一度、光が来た。コンラートが額に汗をかいていた。全力を使っている。
三度目の光。
イザベルが咳をした。
一度だけではなかった。続いた。
学術院の観察者が記録を取っていた。「症状の軽減は認められるが、根本的な改善は確認できない」という記録が取られているのが分かった。
コンラートが四度目を試みた。
光が薄くなった。
コンラートが「……これ以上は神の御心に委ねるしかない」と言った。
広場が静かになった。
神官たちの間でざわめきがあった。庶民の側から「本当に治らないのか」という声が聞こえた。小声だったが、広場の静寂の中に届いた。
(治癒魔法は急性症状には強い。しかし六ヶ月かけて進行した慢性的な菌の侵食には届かない。これは予想通りだ)
コンラートが引いた。その背中を見た。
(この人は全力を尽くした。誠実な失敗だ。軽蔑する理由がない)
学術院の観察者が「コンラート神癒長の施術による根本的な改善は確認されませんでした」と正式に記録した。
広場全体の視線が動いた。
(次は俺の番だ)
ミリアが「始めましょう」と言った。
俺は「始めましょう」と言った。
イザベルが俺たちを見た。怖いが希望がある目だった。
(四十八年間の医師として、ここに立っている。始める)




