第六十一話 最後の患者
実証五日前、患者のイザベルと会った。
三十七歳の女性だった。顔が青白かった。椅子に座っていたが、息が少し速かった。廊下でも咳の音が聞こえていた。
「お越しいただきありがとうございます」と俺は言った。
「こちらこそ」とイザベルが言った。声が低かった。「どこかで希望が持てるなら、と思って」
「症状について教えてください」
「六ヶ月前から咳が続いています。熱も時々出ます。体重が落ちました。治癒師に三回診ていただきましたが、良くならなくて。最後には『神の御心に委ねよ』と言われました」
俺は「術野の目」を向けた。
(見える)
肺の内部に影が広がっている。組織の一部が変質している。菌による侵食だ。進行している。しかし——
(まだ間に合う)
端の組織が侵されているが、中心部にはまだ余地がある。適切な処方を続ければ、体が自分で戻せる水準だ。
「ミリア」と俺は言った。
「はい」とミリアが答えた。そして止まった。
「大丈夫か」
「……これは」とミリアが小声で言った。「お母さんと同じ病気です」
手が少し震えていた。
俺はミリアを見た。「大丈夫か」ともう一度聞いた。
ミリアが深く息を吸った。「大丈夫です。できます」
目が決まっていた。
イザベルが二人を交互に見た。「本当に治せますか」と聞いた。
「確実とは言えません」と俺は言った。「しかし可能性があります。私たちは全力を尽くします」
イザベルが「……正直に言ってくださるんですね」と言った。「これまで診ていただいた治癒師の方は、皆さん曖昧な言葉しか言ってくれなくて」
「曖昧な約束は患者の助けになりません。可能性があります、というのが今言える正直な言葉です」
イザベルが「お願いします」と言った。その声に尊厳があった。「私は治りたい。そのために来ました」
「分かりました」
面会の後、廊下でミリアと話した。
「薬草の準備は」と俺は聞いた。
「できています。抽出方法も見直しました。三種類の組み合わせで試したい案があります」
「見せてください。一緒に考えます」
「はい」とミリアが言った。それから少し間を置いた。「お母さんと同じ病気だと分かった時、諦めなくて良かったと思いました」
「何を諦めなかったのですか」
「ここまで来ること」とミリアが言った。「最初から王都に来るつもりはありませんでした。でも、あなたが『来てほしい』と書いてくれたので来ました」
「来て良かったですか」
「良かったです。この人を治したい。お母さんへの答えを、今日出せる気がします」
俺は「五日後に出します」と言った。
「はい」
ミリアの目が前を向いていた。怖いが直したい、と夜の王都を歩きながら言った言葉が頭に残っていた。この人は、自分の物語の中の使命を見つけている。
(五日後だ)




