第六十話 司祭との対話
ガーランド司祭が宿を訪ねてきたのは、翌日の夕方だった。
「お一人で来られましたか」と俺は言った。
「一人で来たかった」と司祭が言った。「正式な話ではないので」
部屋に通した。燭台を一つつけた。司祭が椅子に座った。
「あなたに反対し続けてきた」と司祭が言った。「書状を送った。調査団に同行した。あなたの活動を止めようとした。しかし、私は間違っていたかもしれない」
俺は何も言わなかった。
「公開実証では、手を出しません」と司祭が続けた。「大神殿の立場から何かをする、ということはしません」
「ありがとうございます」と俺は言った。「感謝はしません。見ていてください。それで十分です」
司祭が少し止まった。
「あなたは、私を責めないのですか」
「責める言葉がありません」と俺は言った。「三十年間、知っていて苦しんでいた人間を責めても、何も変わりません」
「……なぜ今は動けると思ったのですか」と俺は聞いた。
「あなたが来たからです」と司祭が言った。「あなたが直すと言い続けるのを見ていました。橋が直った。水が戻った。農地が変わった。調査団が来ても記録で答えた。あなたが止まらなかった」
「それが」
「それが……私も、やっと、自分が間違っていた場所を直せる気がしました」
俺はしばらく何も言わなかった。
(ガーランド司祭は最初から、直す機会を待っていたのかもしれない。しかし動く理由が見えなかった)
「三十年間、苦しんでいたのですね」と俺は言った。
「苦しいとは思っていませんでした」と司祭が言った。「ただ、重かった。ずっと重かった」
「少し軽くなれそうですか」
「……なれそうです。少し」
司祭が立ち上がった。出口のところで振り返った。
「あなたが正しいかどうかは、私にはまだ分かりません。ただ、あなたが止まらないことは分かります。それだけで、見続けることができます」
「それで十分です」
司祭が出て行った。
夜、ミリアが王都に着いた。
「お疲れ様でした」と俺は言った。
「三日かかりました」とミリアが言った。旅の埃が服についていた。目が明るかった。「薬草は持ってきました。先生に確認していただかないといけない量があります」
「先生は止めてください」
「では何と呼べばいいんですか」と、ミリアが言った。
「レオンで構いません」
「……それはさらに難しい」
しばらくしてから、二人で宿の外に出た。夜の王都を歩いた。
「怖いか」と俺は言った。
「少し」とミリアが言った。「教会の治癒師と同じ患者を診て、比べられる。うまくいかなければ、これまでの全部が否定されるかもしれない」
「そうです」
「そんなにあっさり認めるんですか」
「事実なので」と俺は言った。「怖いですか」
「怖い。でも直したい気持ちの方が大きい。お母さんの墓に行った時も同じでした。怖いけど、正しいことをしなければという気持ちが先に来た」
「それで十分だ」と俺は言った。
石畳に二人の足音が響いた。
(手術前夜と同じ静けさだ。次の日に何が待っているか分かっている。でも何をすべきかも分かっている)
公開実証まで三十日。




