第六話 薬草師の娘
全70話完結予定です。毎日5話ずつ、12時・15時・18時・21時・23時に投稿します。
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ミリアは俺の予想より率直な人間だった。
十七歳。細身で、背はそれほど高くない。薬草師の娘らしく、袖に茶色いしみがあった。領主館の玄関でヨハンに案内されながら、きょろきょろと辺りを見回していたが、俺の顔を見た瞬間に背筋を伸ばした。
「ミリア・グリーンウッドと申します。お時間をいただきありがとうございます」
「レオン・ヴェルディアです。どうぞ座って」
「橋の件を聞きました。レオン様の知識に興味を持って、来てしまいました。失礼だったら申し訳ないのですが」
直球だな、と思った。
「構いません。聞いてみてください」
「私は薬草師見習いです。スキルは植物鑑定で、薬草の成分と効能が分かります。父から薬草学を教わっています」ミリアが続けた。「橋の件で、スキルで状態を判断されたと聞きました。薬草にも同じような見方ができるのかと思って」
「木材と薬草は違いますが、考え方は似ているかもしれません。植物鑑定で何が見えますか」
「葉の栄養成分、有効成分の濃度、採取時期の適否などです。同じ薬草でも採取した時期や場所で効能が変わります」
「それは正確な情報ですね」
俺は少し考えた。
「例えば、百合根と甘草を組み合わせた時、人体にどのような効果があるかを調べたいとしたら、あなたのスキルと俺のスキルを組み合わせる方法があるかもしれません。あなたが薬草の成分を確認し、俺が実際に患者の体で効果を確認する」
ミリアの目が大きくなった。
「そういう考え方をする人、初めて会いました」
「なぜですか」
「薬草師は薬草を調合して出すだけで、それが人の体でどう働いたかまで追う人がいなかったので。効いたか効かなかったか、というのは患者の感覚任せで」
「経過を記録して、検証する。それが大事だと思います」
「まさにそれです」ミリアが前のめりになった。「でも今まで、そう言ったら変な目で見られて」
「記録は重要です。感覚より数字が正直です」
ミリアが頷いた。それから少し間を置いて、声が静かになった。
「母が二年前に亡くなりました。肺の病気でした。咳が続いて、熱が出て、だんだん体が細くなって」
「……そうですか」
「教会に頼みましたが、来ていただけなかった。寄進が足りなかったのか、距離が遠かったのか。治癒魔法が届けば、と思っていましたが」
ミリアが言葉を止めた。
俺は「その病気は、おそらく治癒魔法では根本的な治療にならなかった」と思ったが、今は言わなかった。
「薬草で何か試しましたか」
「百合根と甘草の煎じ薬を出しました。咳は少し楽になりました。でも根本は」
「根本は違う問題だったかもしれません。今はそれ以上は言えませんが、一緒に調べることはできます」
ミリアが顔を上げた。
「一緒に研究できますか」
その言葉には、迷いがなかった。
「もちろんです」と俺は答えた。
帰り際に、ミリアが振り返った。
「明日また来ていいですか。母の病状記録があります。私が書き留めていたものです。あなたの目で見ていただけますか」
俺は少し驚いた。二年前に亡くなった母の病状を、娘が記録していたのか。
「見せてください」
ミリアが出て行った後、ヨハンが廊下で言った。
「若様は難しいお客様も上手くあしらわれます」
「難しいお客様ではなかったですよ」と俺は言った。
正直に言えば、久しぶりに医療の話を対等にできた気がして、少し嬉しかった。




